魔法使いのいる世界
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「ふぅ…」
空間移動でゲルダがついたところはひとつの部屋。
その部屋は家具といえば天井にぶら下がるシャンデリアとずらりと並ぶ棚くらいの部屋だった。
棚に並ぶのは藍色のクッションの上に置かれ、透明なケースに入った小さな水晶。
赤、青、藍、白、緑。
様々な色の水晶が並んでいる。
部屋の壁は一面の透明でその全てが氷でできており、水晶の色を反射して所々が鮮やかに色づいていた。
「《ルクス・ディールクルム》」
ゲルダが呪文を唱えれば手に持っていた水晶はみるみるうちに棚に収まっている水晶と同じくらいの大きさになる。
ゲルダはそれを空いていたクッションの上に置き、空のケースに水晶を納めた。
ゲルダが指を一振りすればケースの方に昨日の日付が刻まれる。
その様子を満足そうに眺めた後、ゲルダはこの部屋から姿を消した。
「わーい。朝ごはんだ!」
「ムル、空を飛ばないで。座って食事なさい」
そんな話をしている中、ゲルダがその場に現れた。
「ただいま」
「うわぁっ!?ゲルダ!?」
「あ、ゲルダ。お帰り〜」
いきなりゲルダが現れたことに驚くヒースとは正反対にムルはなんてことのないように挨拶する。
「あ、おはよう。ヒース。ちょっと出かけていたの。私の分は余っている?」
「あ、大丈夫だよ。よそってくるね」
ゲルダの言葉にヒースクリフはキッチンに戻っていった。
「おお、これは食べたことがあるぞ。そじやじゃ」
「もじやじゃろう」
「おじやですよ。塩かけま……」
カインが塩を取ろうとしたところでブラッドリーにぶつかる。
「いってえな!なんだ、いきなり!」
「ブラッドリー……。いつからいた?」
「さっきからいただろ!目玉、どこにつけてんだ!」
「さっきも俺のこと見えなかったよ。大丈夫?カイン……。はい。ゲルダの分」
「ありがとう。ヒース」
ゲルダはヒースクリフから器を受け取り、シャイロックの隣の空いている椅子に腰掛けた。
「困ったな……。まあ、今は飯を食おうぜ。冷めないうちに」
「前から思っていたのですが、このおじやというものは、コーヒーにあいませんね」
そうしてシャイロックはコーヒーカップを見つめた。
「前の賢者様が言うには麦茶とか緑茶っていうお茶が賢者様の世界にはあったらしいわよ。緑茶は紅茶の茶葉の発酵させないものって聞いたけど今度温室の茶葉が取れたら試してみようかな?」
「ふふっ、ゲルダの淹れるその緑茶というもの、楽しみにしてます」
「前の賢者様が言うには苦味が強くて渋いらしいけどね」
「おや、そうなんですか」
そんな話をしながら皆はおじやをパクパクと食べていく。
そんな中、スノウが思い出したかのように言った。
「そうじゃ。<大いなる厄災>について、賢者には説明しなければのう」
「ああ、さっき俺が話した」
「そうじゃったか。なら、それでよい。手間が省けた」
「詳しい話が聞きたければ、ムルに尋ねるといい。ムルは<大いなる厄災>の研究をしとった」
「ホワイト様、今の彼にそれは無理ですよ」
「秘密に近づきすぎて、魂が砕け散ってしまったんです」
シャイロックの言葉に晶は首を傾げた。
「魂が砕けた……。そういうことって、よくあるんですか?」
「いいえ、普通はありませんね」
晶の問いにゲルダが答える。
「目玉を交換されたり、幽霊を魔法で繋ぎ止めたりも、あんまり良くあることではありませんね」
そう言ってシャイロックは苦笑した。
「ふん。変わり者どもの集まりだな」
「私は好きですよ。人物であれ、酒であれ、優れたものと同じくらい、奇妙で異質なものは、豊かな物語を持っていますから」
「私も好きよ。奇妙で異質なものは面白いわ。退屈しないで済む」
ブラッドリーの言葉にシャイロックとゲルダは楽しそうに答えた。
「2人もやっぱり西の国の魔法使いらしいな」
「あなたも中央の魔法使いらしく、気性が真っ直ぐですよね」
「あの……。西の国らしい、中央の国らしいって、どういう意味があるんですか?」
カインたちの言葉に疑問を持ったのか晶が3人に向かって質問をする。
それに答えたのはスノウだった。
「この世界には5つの国があるのじゃ。中央、北、西、東、南」
「住む国によって、魔法使いは人となりが異なる。前の賢者が、賢者の書に記しておったぞ」
「賢者の書に……」
双子の言葉に晶はぽつりと呟いた。
朝食後
ゲルダが食器を片付け終えると食堂には賢者の書を真剣に読む晶がいた。
それを見たゲルダは2人分の紅茶を淹れ、トレーを持ち、食堂に向かった。
「ゲルダ。何をなさってるんです?」
「あ、シャイロック。賢者様が読書なさっているから紅茶でも差しいれようかと」
そう言ってゲルダはトレーを上げてみせる。
「そうですか」
「シャイロックは……ハーブワイン?」
ゲルダはシャイロックが持っている湯気を放つワインのボトルと色々な形の葉っぱや、小さな木の実やバラの蕾の乗ったトレーを見て聞く。
「ええ。ゲルダも飲みますか?」
「お昼からワインはいいかな。夜にできたの飲ませてくれる?」
「もちろんですよ。とっておきますね」
そしてゲルダとシャイロックは晶の方に向かっていった。
「何をなさっているんです?」
話しかけられた晶は賢者の書から目を離し、隣に座ったシャイロックの方を見た。
その後ろにはトレーを持ったゲルダもいる。
「あ……。儀式をする予定の正午まで時間があったので、賢者の書を読んでいたんです」
「賢者様は勉強熱心ですね。息抜きに紅茶でもいかがですか?」
そしてゲルダは先程、シャイロックに見せたようにトレーを上に上げて見せた。
「いいんですか?」
「もちろん。賢者様の為に淹れたんですよ」
「…じゃあ、いただきます」
晶はゲルダからティーカップを受け取る。
晶が口元にカップを近づければ紅茶のいい匂いがふわりと薫る。
口に含めば味も渋すぎず、上品な甘さが口の中に広がりとても飲みやすい。
「美味しい…」
「ふふっ。ありがとうございます」
ゲルダはお礼を言うとぐるっと回って晶の正面の椅子に腰掛けた。
「それにしても夢中で読んでいらっしゃいましたね。面白かったですか?」
「はい。この世界の話や、魔法使いさんの話はどれも興味深くて……」
「それは良かった」
そう言うとシャイロックは微笑みながら、葉っぱや木の実、ばらのつぼみを千切って、ワインボトルの口に入れていく。
ワインが溢れ出しそうになると、タンブラーについで、自分で飲んだ。
そして、また、千切った葉を入れていく。
晶には彼の作業はとても楽しそうに見えた。
「……シャイロックは、何をしているんですか?」
「ハーブワインを作っているんです。私は西の国で、酒場を営んでいたんですよ」
「私はフラワーデザイナーとパヒューマーをしていました」
「パヒューマーって香水師ですよね?世界を救う魔法使いなのに、他の仕事をされているんですか?」
ばらの花びらをボトルに詰めながら、シャイロックは冗談っぽく笑った。
「世界を救っても、食べていけませんから」
「世界を救わなくても、食べていけませんけどね」
ゲルダは紅茶を飲みながら答える。
「た、大変ですね」
「いいえ。楽しいですよ。私はこの仕事が好きなんです」
「私も今の仕事が大好きですよ」
そう答えた2人の顔は柔らかいものであり、晶は本当に仕事が好きなんだなと納得した。
「厄介なことはたくさんありますが、自分を自分で楽しむ時間があれば、心豊かな生活が送れるものです」
シャイロックの言葉に晶は少し考えたかと思うと口を開いた。
「あの……。魔法を見せてくださいっていうのは、失礼なことになりますか?」
晶は遠慮がちにシャイロックとゲルダを見ながら聞く。
「時と場合と人によりますね。今の時間と、賢者様と、私たちなら、少なくとも、私は失礼だとは思いません」
「ええ、私も特に失礼だとは思いませんよ」
晶の質問にシャイロックとゲルダは微笑んで答える。
「魔法を見せて、と、ねだられるのは、いけない遊びのようで、嫌いじゃありませんよ。恥じらったふりをして、あなたになら、と言って差し上げたくなります」
「ふふっ。そうね」
ゲルダもシャイロックの言葉に笑いながら同意した。
シャイロックの色っぽい眼差しで見つめられた晶の頬は赤くなっていた。
「そ……、そうですか……」
するとシャイロックは指をパチンと鳴らす。
その瞬間、ワインボトルがぐつぐつと沸騰し始めた。
白い湯気を吐き出しながら、ボトルの中で、ちぎれた葉っぱや、ばらのつぼみや、木の実がくるくると踊る。
「わあ……っ」
その様子を見て晶の顔は子供のようにキラキラと輝いた。
「賢者様、以前いた世界を自分のいた場所を思い出してください」
「え?東京をですか?」
「はい」
「…分かりました」
少し戸惑いながらも晶は昨日まではいた自分の世界のことを思い出す。
立ち並ぶ背の高いビルにコンクリートの床と建物、行き交う車に多くの人。
そんな夜の東京を晶は思い浮かべた。
「では、いきますよ」
ゲルダが指をパチンと鳴らすと先程までの食堂は消え、想像した夜の東京が映し出される。
「ええ!?こ、ここ、東京!?」
晶の瞳は驚きに見開かれた。
車の音、行き交う人々の多くの声、この世界とは全く違う排気ガス混じりの空気。
どれも鮮明に感じることができる。
「おや、賢者様が住んでいたところはこういうところなのですね」
「私、戻ってきたの?」
呆然と呟く晶にゲルダは首を振る。
「いえ、これは賢者様の記憶をこの場に映し出しているだけ。戻ってきているわけではないんです。すみません」
そう言ってゲルダがもう一度パチンと指を鳴らせば景色は歪み、匂いは消え、先程いた食堂に戻っていた。