賢者の書
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「ああ……。やっと会えたのになあ。もうお別れなんて寂しいよ。さようなら、きれいなきみ……」
月がよく見える魔法舎の庭。
そこには朝の訪れと共に消えてしまう月と夜空を残念そうに見上げるムルがいた。
「ムル。<大いなる厄災>に向かって恋しげにそんなことを言うのは、あなたくらいですよ」
「そうね。ムルくらいだわ」
そんなムルに話しかけたのはシャイロックとゲルダだった。
「シャイロック。ゲルダ」
「この度の凶事はすべて、あなたのせいではないのですか?<大いなる厄災>に恋をした異端のムル」
「…………」
シャイロックの言葉をムルは黙って聞いている。
「<大いなる厄災>を想いすぎて、あなたの魂は砕け散った。それでもまだ、懲りずに月に焦がれている」
「それにまだその魂は戻る気配がない」
「だって、好きだからさ!きらきらしたものが」
ムルはそう言って満面の笑みで2人の方を向いた。
「きらきらしたものなら宝石とか他にも色々あるでしょ?」
「月と煌めく夜空にはどんな宝石にも敵わないよ!」
ゲルダの問いにムルは悩んだ様子もなく即答した。
「……月に恋焦がれることが世界を滅ぼす凶事に繋がっているとしても?あなたがあまりに切なく焦がれるから、あの月は例年よりも強い力で、この世界に近づいてきたのかも知れません。もしも、あなたに会いにやってきたのなら、あなたがこの世界からいなくなれば、世界は救われるのかも知れません。……私たちがこのことを、他の魔法使いたちに打ち明けたら、あなたを処刑しろと言うかも知れませんよ」
「同じ言葉をたくさん使うね。かもしれないが好き?」
ムルの言葉にシャイロックは少し目を細めた。
「皮肉ですか?」
「皮肉って?朝食に食べる?」
「違うわよ」
「野良猫のようなあなたも嫌いではありませんが、かつてのあなたが恋しいです。偉大な哲学者・ムル。その考えは誰よりも新しく、誰よりも古い知識を知っていた。嫉妬さえ覚えるほど、あなたは聡明で高潔だった」
「そんなことより、夜空を見上げて!ねえ、きれいでしょう?」
ムルはシャイロックの言葉を切り上げて、自分の好きなものを自慢する子供のように言った。
「あの月を想うのはお止めなさい」
「確かにきれいよ。でも、ダメ。あれを思い続けている限り砕けた魂はきっと戻ってこない」
「ああ、きれいだなあ……」
ムルは恍惚な表情で再び夜空を見つめた。
「どうか、世紀の智者よ。月に連れて行かれたりしないで」
「愛しくて、恐ろしい、俺の厄災。また会いにおいで。愛してるよ、永遠に」
「……はぁ…」
こちらの話など聞こえていないように<大いなる厄災>に向かって愛を囁くムルにゲルダはため息をついた。
「……ふふ。説得するだけ無駄でしたね」
「…そうね。ムルにどれだけ言っても無駄ね」
「無駄も好きだよ!」
「口が達者なところだけ変わらない。まったく、憎らしいムル」
「…そうね」
シャイロックの言葉に同意したゲルダの声は昔のムルを懐かしんでいるようだった。
「あははは!」
2人の様子にムルは楽しそうに笑った。
「…明日からどうなるかな?」
「そうですね。失われた仲間たちの代わりに、一体、どんな魔法使いたちが、やってくるのか……」