第一章 スカウト
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奏はオーナー室の扉をノックし、中に入る。
「奏、どこ行っていたんだ?」
「ちょっと話を、ね」
そう言いながら奏は雅季にベースを手渡す。
雅季はありがとな。と言って受け取り、ケースの中にしまいはじめた。
「ねえ、兄さん。今日の当日券余ってる?」
「あるにはあるが…気になるバンドマンでもいたか?もしかしてさっきの2人か?」
「そうだよ」
「あいつらはRe:valeっていうグループなんだが、去年の夏くらいからうちを贔屓にしてくれていてな。最近は知名度は最近右肩上がりだし、かなりのファンもいる。今ではうちの看板アーティストだよ」
「!Re:vale…」
奏はその名前に聞き覚えがあった。
去年の夏からの活動にも関わらず、Re:valeの名前は都心でも話題に出るほどの人気で奏も何回か彼らの話題を耳にしたことがあった。
2人組の男子高校生バンドで2人ともイケメン。
曲もいいのが多い。
奏は葵とその話を学校で聞き、興味が出た2人は今度予定があった際に聞きに行こうかなんて話していた。
(万くんたちが噂のRe:vale…)
自分の幼馴染がまあまあな有名人だったことに少し驚いたと同時に彼らの演奏が奏は楽しみになった。
「…どうしたんだにやけて?」
「いや、楽しみだな〜って思っただけ」
「ふーん。そうか。にしてもライブ見るの初めてだろ?もしかしてあいつらの顔にやられたのか?」
雅季は揶揄うようなニヤリとした顔で奏に尋ねる。
「そんなことあるわけないでしょ。イケメンなんて小さい頃から兄さんで見飽きている」
奏は雅季を呆れたような冷ややかな目で見やった。
だが、雅季は気にした様子もなく笑った。
「ははっ!それもそうだな。はいよ。チケット」
「…ありがとう。いくら?」
「1500円な」
その言葉に奏は財布から1000円札を2枚取り出して雅季に差し出した。
「ん。ドリンクは頼まないと思うけどお釣りはいらないから。営業の足しにして。…少しだけど」
ライブハウスでは入場料金の他に大抵の箱は追加でドリンク料金が別途でかかる。
ドリンクの頼み方は各々の箱によるが雅季の箱では引換券として受付にてチップを配っていた。
「身内なんだから別に払わなくても良いのに…。律儀だな」
そんなことを言いながらも雅季は奏から金を受け取った。
「今は妹の前に客だもの。ちゃんとお金は払う。それに、このライブハウス無くなっちゃうと私も困るし」
「ははっ。ありがとうな。流石にまだ継いで3年目だ簡単には潰させねーよ」
「ふふっ。頑張って」
「おう。あ、それと、Re:valeは今日はトップバッターなんだ。早く行かねーと始まっちまうかもな」
雅季は思い出したようにそう口にした。
「!分かった。じゃあね」
「ああ。楽しんでこいよ」
雅季の返事を背に、奏は部屋を後にし、受付の方に少し早歩きで足を進めた。
奏はチケットのもぎり担当の顔見知りの男性バイト員にチケットをもぎってもらい、チップの料金は支払い済みだがいらないことを伝えて中に入る。
(いつも裏口からだからなんか新鮮…)
入り口から客席へと続く薄暗い道を進んでいる間、奏はぼんやりとそんなことを考えていた。
扉を開けて中に入れば流れるBGM、まだスポットライトのついていないステージ。
(!良かった。まだ始まっていない…)
始まっていないことに安堵した奏は箱の中をざっと見回した。
客は男性もいたがその大半を占めているのは若い女性だった。
その中でも綺麗に着飾った子が多く、彼女たちはそわそわと時計を確認したり、今か今かと期待に満ちた眼差しで無人のステージを見つめていた。
その様子にここにいる客が全員Re:valeの客というわけでは無いが、それでも多くは彼ら目当ての客なのだろうと奏は察することができた。
(容姿に惹かれた…か…)
奏は雅季に言われた言葉を思い出していた。
千はもちろんのこと万理もイケメンの分類に入る顔立ちだ。
2人とも年の割に大人びた独特の雰囲気を持っていたし、事実、奏は同い年の千をまだ年上と勘違いしている。
惹かれる人は多いだろし、異性のファンが多いのも自然なことだ。
(でも、いくら容姿で目を惹いても曲が良くないとファンは増えない…)
初ライブをした際にまずそこにいる人の心を掴むような演奏を披露する必要がある。
ライブハウスに来ているのは音楽が好きな人達だ。
初めて彼らを見た人々が彼らの音楽に惹かれ、彼らの話題を友人やネットで出す。
そこから名前が広がり始める。
都心でも話題に出る彼らがただ容姿が良いだけで有名になったバンドだとは奏には思えなかった。
奏は期待のこもった眼差しでじーっとステージを見つめた。