第一章 スカウト
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奏と万理が千の後を追って辿り着いたのは万理と千が借りている他のグループ兼用の控室だった。
奏に中に入るように提案した万理だったが、メンバーではないから。と奏が断れば、彼は千を呼んでくると言って中に入っていった。
数分後
呼んでくるといったわりにはかなり時間がかかってから2人は揃って控室から出てきた。
出てきて真っ先に千は奏の方を見て口を開いた。
「…あの曲、打ち込みだけど自分で弾かないのか?」
「今日のは仮なので。ちゃんと完成したものは全部生演奏で録りますよ」
「完成したの無いの?」
「今日は持ってきていないです。いつも作業しているスタジオにならありますけど…」
「じゃあ、今日僕たちのライブに出た後、そこに行こう」
「いいですけど…ってライブに出た後?」
さも当然かのようにサラッと言われた千の言葉を奏は思わず聞き返していた。
「えっとな、 奏が良ければだけど俺たちのグループのメンバーになってくれないか?」
「…メンバー、ね…」
「助っ人は何度か頼んだことあるんだけど…」
「だけど?」
「千がことごとく切っちゃってな…」
そう言った万理の顔には苦笑いが浮かんでいた。
その言葉で奏は先程メンバー集めに苦戦しているという理由はこれなのだと察した。
「僕たちの求める音じゃ無かったから切っただけだ。あとは向こうから勝手に辞めて行っただけだ」
千は少し不機嫌そうにその綺麗な顔を歪めていた。
「…まあ、性格の合う合わないもあってな。それに、千が自らが勧誘しているのも珍しいんだよ」
「…そう。でも、万くんたちの音楽を聞かないと返事は出せないよ。それに…万くん、私の身体のこと分かっていて誘っているの?」
「ああ。今はだいぶ良くなっているだろ?」
「…そんなことないよ。良くなったのは6歳のあの時が最後。それ以降と変わらないよ。この身体は」
奏がステージで音楽をやってこなかったのは自分の身体が理由だった。
奏は歌えるには歌えるが、長いこと歌い続けることは禁止されている。
そして彼女は風邪を引くだけでも呼吸困難になってしまう。
周りの人にも迷惑をかけるし、過去に担当医にもその夢だけは無理よ。と言われてしまっていた。
その言葉に当時の奏はそっか…。と呟いただけだった。
自分の身体のことを誰よりも理解しているからこそそれは叶わない夢なのだ。と奏は諦めた。
その頃から奏は父と同じ作曲家を目指し始めた。
楽器が大好きでも集団の中に入るのは迷惑をかけるのではないかと躊躇した彼女は演奏家になることも諦め、趣味の段階に留まった。
そのため、学校で習っているヴァイオリンは新しい楽器を求めて手を出した結果だった。
作曲は大好きな音楽に関わることができ、入院していてもギターやピアノには触れることができたため曲は作ることができた。
作曲よりも編曲の方が得意な奏にとっては難航していた時もあったが、時間がかかりながらも数多くの曲を作り続けていた。
それに、作曲は1人でできる。
1人でしていれば誰にも迷惑はかけないというのが奏にとっては1番大きかった。
「…それでも俺たちは奏が欲しいんだよ」
「…後で後悔しても知らないよ?」
「大丈夫だ。後悔なんてしない」
万理ははっきり、きっぱりと言い、奏を見据えた。
奏も万理の瞳をじーっと見つめる。
その瞳は決意と期待に満ちていて迷いなどは一切感じられない真っ直ぐな瞳だった。
譲る気がないことが分かると奏は、はぁ…。とため息をつき、長い沈黙の後、口を開いた。
「…………………分かった。じゃあ、今日のライブを見て私が入りたいと思ったら、その話、受けるよ」
「!分かった」
「おい。万」
奏の言葉に万理は嬉しそうに微笑んだが反対に明確な了承の返事がもらえなかった千の表情は険しかった。
「無理矢理引き込んだって奏が気持ちよく弾けないと音楽にそれは乗らないよ。それは千だって本望じゃ無いだろ?」
「………………分かった」
長い沈黙の後、千は万理がいうことも一理あると納得したのか仕方なさそうに頷いた。
「そういえば時間は大丈夫なの?もうすぐ開場時間になるんじゃない?」
時計を見てみれば既に話し始めてから30分程が過ぎようとしていた。
もうすぐ開場時間になり、お客さんも入ってくる頃だろう。
奏の言葉に万理は焦ったように声をあげた。
「ヤバい!まだ何にもしてない!」
「別にぶっつけ本番でも問題ないだろ」
「そういう問題じゃない!まだ今日歌う曲だって話し合いの途中だっただろ?!」
「あ」
「じゃあ、俺たちは準備あるから!」
焦る万理に対して千はクールで全く焦った様子が無く、万理は千の背中を押しながら楽屋の方に戻っていく。
「ふふっ、慌ただしいね。いってらっしゃい。楽しみにしているね」
「ああ!」
「……」
万理と千は楽屋に、奏は当日券と貰うべくオーナー室に向かった。
千は万理に背中を押されながらも視線は奏の背中を見つめていた。