第一章 スカウト
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「え、えっと?」
「いきなり何言ってんだ!千!」
青年の言葉に奏が困惑していると彼の後ろから新しい声が聞こえる。
声と共に現れたのは深い紺の髪にトルマリンのような青緑の瞳を持つ青年。
こちらもこちらでかなりのイケメンだ。
灰髪の青年…紺髪の青年が千と呼んだ彼は眉間に皺を寄せてその青年の方を振り返った。
「なんだよ、万。お前だって、あの演奏良いって言っていただろ?」
「そりゃ言ったけど、まず順序ってもんが…」
紺髪の青年…万と呼ばれた青年は千に呆れたように、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
だが、千はそんな彼の様子など気にしていない、涼しい顔で聞き流していた。
目の前で繰り広げられている光景を他所に奏の中には1つの疑問が生まれていた。
(今、万って言った?)
奏はじーっと後から来た青年を見つめる。
深い紺の短髪にトルマリンのような青緑の瞳。
よくよく見てみるとその青年には今日、夢で見た少年の面影が見えた。
「…万くん?」
「…え?」
奏が思い切って聞いてみれば青年は口を閉じてこちらに視線を移した。
そして、奏と同じように奏のことをじーっと見つめ、ハッと驚いたように目を見開いて口を開いた。
「……もしかして、奏か?!」
「やっぱり、万くんなんだね!そうだよ。久しぶり」
久々の幼馴染との再会にテンションが上がったのか奏の声は分かりやすく弾んでおり、顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「……もしかして前に言っていたやつか?」
「ああ。そうだよ」
千が万理に尋ねる。
その顔には先程まであった眉間のシワは消えていた。
「前に言っていたやつ?」
「前にこいつに話したことがあったんだ。昔から楽器をやっている幼馴染がいるってな」
「…余計なこと言っていないでしょうね?」
「…さあ?どうだろうな?」
奏の疑うような視線に万理はからかうような、楽しそうな笑みを浮かべて言った。
(こいつ…。楽しんでいるな…)
「奏〜」
奏が心の中で毒づいているとドアがギィ…と開いて、雅季の声がした。
「そろそろ準備を始めるぞ…って万に千もいたのか。準備始めるから何かするならここじゃないところで頼むな」
「あ、はい」
「分かった。使わせてくれてありがとう、兄さん。あとこれ、チューニング終わったから」
奏がベースを見せれば雅季は満足そうに頷く。
「お。ありがとうな。俺の部屋において置いてもらえるか?」
「分かった。じゃあ、後で置いておくね」
「ああ。よろしくな」
雅季はヒラヒラと手を振りながら準備のためにステージ裏に向かって行った。
「じゃあ、場所変えようか」
「おい、お前のお兄さんって…」
「そういえば万くんは兄さんに会ったこと無かったね。あれが私の兄さんだよ」
奏がそういえば万理はお前オーナーの妹だったのか…。と驚いたように呟いた。
(そういえば…)
奏は万理の言葉に彼がお見舞いに来てくれたのはいつも夕方頃だったけど兄がお見舞いに来てくれたのはいつも面会時間終了ギリギリの夜だったことを思い出した。
2人ともお互いに兄がいることも幼馴染がいることも知っていたが、面識が無いという感じである。
「ていうか万くんはなんでここに?ライブやっているの?」
奏は歩きながら視線だけ万理に向けて尋ねる。
「ああ、去年の夏休みくらいからな。客もそれなりに入っているよ」
「へぇ〜。そうなんだ。万くんも楽器始めたんだね」
「ギターをな。本格的にやり始めたのは中学からだから奏には言えてなかったな。それで今はこいつと組んでやってるんだ」
「2Pバンド?!珍しいね…」
奏は驚いたように声をあげた。
バンドに最低限必要なのはボーカル、ベース、ドラム、ギターである。
ボーカルを誰かが兼任するとしても最低でも3人が必要であり、3Pバンドが普通だ。
世界には2Pバンドのプロもいるにはいるが、とても珍しい。
「まだメンバー集めている最中なんだ。中々決まらなくてな」
万理の声には少し疲労が滲んでおり、その声を聞いた奏にはメンバー集めが難航していることがすぐに分かった。
「じゃあ助っ人募っているんだね?頑張れ」
奏は応援の言葉を送ったがその声はとても軽く本当に応援しているのかすら怪しい。
「他人事だな」
「楽器は弾けるけどライブ活動はしていないもの。今日だって出演するために来たんじゃなくて、新曲の調整が終わったから...」
「新曲?作曲するの?」
他の楽器の練習に来ただけ。と続くはずだった奏の言葉は先程まで黙っていた千によって遮られた。
「え?はい」
突然話しかけられたのと、大人びた雰囲気に奏は自然と敬語で返事をした。
「デモある?」
「え?…うーん…」
(昨日上がったの持ってきていたかな?)
奏は足を止めて、バックの中をゴソゴソ漁る。
すると運良く昨日、打ち込みではあるが完成させたデモのCDを見つけた。
「これですけど…」
奏がCDを千に差し出すと彼は借りるよ。と言ってCDをサッと受け取り、2人の横を通り過ぎ、スタスタと足早に先を歩いて行った。
「…そんなに気になるんだ」
「俺と会った時もあんな感じだったな」
「へぇー。そうなの。音楽、大好きなんだね」
「ああ。音楽はあいつの魂そのものだ。音楽以外はてんでダメで失礼でムカつくやつだけど、そんなあいつが俺は好きなんだ」
そう言った万理の顔を奏が見てみればそこには…とても優しい瞳があり、その視線は少し先を行く千の背中を見つめていた。
その瞳だけで万理が彼をどれだけ大切に思っているかを奏は感じ取った。
「大切な人、なんだね」
「…ああ、そうだな」
奏の言葉に万理は少し照れ臭そうに笑った。