第一章 スカウト
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授業を受けた後、奏は最近は作曲作業でご無沙汰だった兄のライブハウスに来ていた。
顔見知りの警備員に裏口から中に入れてもらい、すれ違う人たちに挨拶をしながら奏はオーナー室へ向かう。
とは言ってもそこは名ばかりの小さい個室というだけで他の部屋となんら変わりのない普通の部屋だ。
数分で目的の部屋に着くと、奏はコンコンと扉をノックをして返事を待つ。
「どうぞ」
中からの了承の返事を聞いて奏はドアノブを回した。
部屋に入ればいたのはパソコンから目を晒さずにタイピングをしている超絶イケメン。
長い足は今は机の下にしまわれて見えないが、顔だけでもイケメンオーラが漂っている。
漆黒の短髪にスッと通った鼻筋。
サファイヤのような青い瞳。
普段かけていないブルーライトカットの眼鏡も彼には不思議と似合う。
それどころか彼の魅力を更に引き上げていた。
モデルをやっていると言っても誰しもが納得するであろうルックスのこの男は奏の兄…兆星 雅季である。
「こんばんは、兄さん」
「お、随分ご無沙汰だったな。奏。曲、仕上がったか?」
奏が挨拶をして中に入ればパソコンを見ていた雅季は顔をあげて奏の方に視線を移した。
「うん。バッチリ。自信作だよ。…それで、今日久々にドラム叩きたいんだけど少しでいいから時間空いていない?」
「…お前ちゃんと寝ているだろうな?」
雅季は疑うような視線で奏のことをじーっと見つめた。
「寝てる寝てる。大丈夫。なんならアオに聞く?目撃者だよ?」
サラッと言った奏に雅季は諦めたようにため息をついて口を開いた。
「……分かった。いいぞ。あと30分後には今日予約している人のステージ準備に入る。だから、それまでな」
「分かった。ありがとう、兄さん。じゃあ、ちょっと借りるね」
「ああ、あとちょっと頼まれてくれないか?」
「ん?何?」
部屋を出よう背を向けた奏を雅季が呼び止める。
奏が不思議そうな顔でそちらを向けば雅季の手には1本のベースが握られていた。
「このベース、この前弦を張り替えたんだが、チューニングがまだでな…。お願いできるか?」
「ん。分かった。やっておくね」
最近はキーボードとヴァイオリン以外ロクに触れられておらず、他の楽器に飢えていた奏は嫌な顔ひとつすること無く了承した。
奏が承諾すれば雅季は助かる。と一般人なら頬を赤く染めそうな微笑みを添えて言った。
そんなイケメンスマイルをもう嫌という程見慣れた奏はどういたしまして。と軽く言って部屋を出た。
オーナー室を出た奏は早速ステージに上がってドラムの椅子に座る。
タムにハイハット、キックにスネアなどそれぞれ軽く鳴らしながら位置を確認した後、昨日上がった自分の曲を練習する。
その顔はとても生き生きしていた。
奏がドラムを習い始めたのは8歳の頃。
3歳の頃に父…信から習い始めたのギターも、4歳の頃に母…楓から習い始めたピアノもある程度弾けるようになった奏は、次はドラム経験者の伯父…実に頼み込んでドラムを教えてもらった。
足と手で違うことをするのはピアノで慣れていたが、ドラムはまた少し違った難しさがあり、最初は苦戦したことを思い出して奏は苦笑いをこぼした。
でも、きちんと叩けるようになった今では叩けるのが楽しくて仕方なかった。
ふと奏が時計を見ると時間はあれから20分が経っていた。
(ドラムはここまでにしてあとはベースの調弦をしないと)
奏はスティックを置いた後、後ろを向いてギター立てに立てかけておいたベースを手に取る。
軽く弦を鳴らせばまだ音の合っていない低音がステージに響いた。
奏は順番に他の弦も弾いていく。
最初は耳である程度合わせ、微調整は鞄に入っているチューナーを使って正確に音程を合わせていった。
「よし、こんなもんじゃない?」
奏は椅子から立ち上がり、確認のために軽くベースを弾いてみる。
先程とは違う心地いい低音が響く。
それと同時に奏の気持ちは高鳴り、試しに弾いていたことなんて忘れて思うがままに弦を弾いた。
「ふぅ…。ふふっ」
満たされる心に奏の顔には自然と笑みが漏れていた。
(うん、いい感じ!)
奏が満足して一息ついているとカツカツと足音がこちらに近づいてきた。
(!時間過ぎちゃった?!)
奏は時計を確認するのも忘れて急いで出る支度をするが音はどんどん近づいてきてやがて止まった。
「ドラム叩いて、ベース弾いていたの、君?」
透き通った声が響き渡る。
奏が声のする方を見てみると、その人物はステージの端の方にいた。
白のメッシュの入った綺麗な灰色の髪に青みがかったグレーの瞳。
左目には泣きぼくろ。
そして何より、雅季に匹敵する整った顔をした美青年だった。
その青年はゆっくりと歩いてきて、奏の前で止まった。
至近距離で2人の視線が交差する。
「…そうですけど」
正体不明の人物に少し警戒しながらも、奏正直に答えた。
奏は大体のここのスタッフとは顔見知りだ。
しかしこんな青年が見たことが無かった。
(新人さんなのかな?無断使用だと思って飛んできたとか?)
奏が思い当たる節を考えていると彼の口から飛び出たのは…
「君が欲しい。ねえ、僕たちのものになって」
「……は?」
予想を大きく裏切る言葉だった。