第七章 春原百瀬
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「もういい!もう大丈夫だから!」
万理の声に荒い呼吸をしながら振り向いたその顔は奏たちのよく知る顔だった。
「「キャプテン…」」
「キャプテンだったのか…」
「…へ?」
気の抜けた声と共にキャプテンは不思議そうに目を瞬いた。
彼の頬や首筋には返り血がついており、パーカーには既に血が滲みてしまっているところもあった。
何か拭うものをと思い、奏が周りを見回すと目についたのは最後に「未完成な僕ら」で使う予定だったヴァイオリンの顎当て用に用意していた少し大きめのハンカチだった。
奏は急いでそこからハンカチを取ってきて彼の側に行く。
「助けてくれてありがとう。はい。これで拭いて?」
「え?う、受け取れません!」
奏が近づくとキャプテンは顔を真っ赤にした。
そして、キャプテンから出た言葉に奏は彼と初めて会った時のことを思い出した。
「ふふっ、前と同じ答えだね。…受け取らないなら強制的に私が拭く。自分で拭くのと私に拭かれるのどっちがいい?」
(我ながら意地悪な選択肢ね…。でも、受け取ってもらうためだもん。仕方ない)
奏の言葉にぷしゅー、と湯気でも出ているんじゃないかと錯覚するくらいにキャプテンの顔は更に赤くなった。
「………………………………じゃあ、お借りします」
「どうぞ」
長い沈黙の後、キャプテンはようやく奏からハンカチを受け取った。
ハンカチを受け取ってからもキャプテンは落ち着かない様子で血を拭くわけでもなくハンカチを見つめていた。
「いい匂い…」
小さな声が奏の耳に届いたが…
(使っているのは普通にそこら辺で売っている安いただの洗剤と柔軟剤なんだけどな……)
なんて心の中で苦笑いが溢れた。
「ほら、早く血を拭いて?そのために渡したんだから」
奏が血がついているところを近づいて指差してあげると彼は後退りながらアワアワし始める。
そんな彼の反応が奏は可愛くて、面白くて仕方なかった。
「……近い」
千の小さい呟きは隣にいた万理には聞こえていたが、奏たちの耳には届かなかった。
ライブは結局中止になってしまった。
問題を起こした人達はスタッフさんが呼んだ救急車で病院送りになった。
事情も聞かれたが、奏たちの話によってキャプテンはやりすぎないようにと厳重注意を受けただけで終わった。
お客さんは皆帰り、ライブハウスには千と万理と奏、そしてキャプテンと片付けをするスタッフしかいない。
「狂犬…」
「何それ」
「さっき万と付けた新しいあだ名」
そんなことを千と奏が小声で話しているとキャプテンは勢いよく、深く頭を下げた。
「…っすみませんでした…!Re:valeのライブ邪魔して、ステージもめちゃくちゃにして!本当に、本当に、すみません…!!」
(本当にいい子…。この子のせいじゃ無いのに必死に頭を下げている…)
あくまでステージをめちゃくちゃにしたのは乗り込んできたグループの輩であって、キャプテンではない。
それに、3人とも荒事は得意ではない。
そんな彼らを救ってくれたのはまさしく彼なのだ。
「あんなに凶悪に暴れた狂犬が必死に頭下げてる…」
「千、しっ…!」