第七章 春原百瀬
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奏があの少年に遭ってから幾日か過ぎ、3周年記念ライブの日がやってきた。
開始数分前、3人は会場のざわめきを聞きながら、舞台袖で開演時間を待っていた。
段取りやこの日のために用意した新曲の振り付けを千と万理が最終チェックしている。
そんな2人の様子を見ながら奏はヘッドセットのマイクの位置を確認する。
2人がアイドル路線に切り替え、楽器を変更することになってからつけ始めたヘッドセットは最初は頭や頬に違和感しか感じなかったが1年以上もつけ続けていれば流石に慣れていた。
(そういえば、今日、あの子来てるんだよね?)
ふと奏が思い出したのは、あの日、道案内をしてくれた男の子。
「今度の3周年ライブは姉ちゃんと一緒に行きます。約束していた友達が来れなくなった代わりに…」
あの言葉のとおりならこの会場のどこかに彼はいるはずだ。
(私にできる最上級のお礼はやっぱり音楽。来たことを後悔させないような最高な時間をプレゼントしないとね)
「本番30秒前です」
奏が気合をいれていると、スタッフの言葉が小さく聞こえる。
その声に、千と万理は用意されていたハンドマイクを持って奏の側にやってくる。
「楽器の確認は大丈夫か?」
「うん。弦の方もちゃんと確認したし、他の楽器はリハの時に確認したし、開場前にも念のため、電源とか諸々確認しておいたから」
「そうか」
万理と奏が話しているとフロアに流れていた音楽がクロスフェードで変わっていき、照明がフッと消える。
「よし、行くか」
それを合図に3人は真っ暗なステージに足を進めた。
変わった音楽と消えた照明に辺りがソワソワし始める。
数秒後、音楽に混ざって微かに聞こえる布ズレの音と足音に、人の気配を感じる。
すると、突然ライトが輝き、暗闇の中に2つシルエットが浮かんだ。
それと同時に耳が痛い程の歓声が響いた。
「こんばんは!Re:valeです!今夜も見に来てくれてありがとう」
姉ちゃんに以前写真を見せてもらった紺色の髪の人…バンさんが挨拶をする。
その声を聞き逃すまいと耳が痛い程の歓声は一瞬にして静まった。
バンさんの隣には少し物憂げな表情をした銀髪の髪の美青年…ユキさん。
数日前に言葉を交わしたトキさんは2人の邪魔にならないように、ユキさん側の少し端の方でヴァイオリンを持って佇んでいた。
「Re:valeおなじみのこの曲から。初めて聴く人は覚えて帰ってください」
バンさんがトキさんの方に目配せをし、それにトキさんが頷いてヴァイオリンを構える。
「未完成な僕ら」
バンさんの曲紹介の後、照明が一旦消える。
次の瞬間、トキさんがヴァイオリンを弾き始める。
その音はスピーカーから流れる他の音ととてもマッチしていて綺麗だった。
そして、2人は動き出した。
攻撃的で爽快なダンス。
CDで聞き慣れていたはずなのに別物に感じる伸び伸びとした歌声に演奏。
その1つ1つに心臓がどくんと脈打つ。
(カッコいい…)
頭をガツンと殴られたような衝撃に揺さぶられるような感覚。
一瞬で魅了された。
目が離せない。
止まっていた時間が動き出す。
絶望し、考えないようにしていたあの日の悔しさも悲しさも、2人の声に、トキさんの演奏に…彼らの曲に綺麗に攫われていく。
気付けば涙が頬を伝っていた。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
曲が終わって泣いているオレに気がついた姉ちゃんがハンカチをくれた。
オレはそれを手探りで受け取ってゴシゴシと目元を拭う。
ステージを再び見るとそこにいたのはヴァイオリンではなくギターを構えたトキさん。
次の瞬間にはディストーションの効いたエレキギターをトキさんは激しく掻き鳴らす。
そして、トキさんが口を開いた瞬間、飛び出してきた歌声はCDで聴き慣れたハモリ。
その時、姉ちゃんがトキさんは演奏と共にハモリも担当していると言っていたことを思い出した。
あの容姿からは想像もつかない、2人の歌声に馴染む女性にしては低く艶っぽい声が耳にスッと入る。
(姉ちゃんが言っていたこと分かるかも…)
ステージ上のトキさんにはカッコいいの方が似合う。
あの見た目からは考えられない激しい演奏。
数日前のあの人とはまるで別人だ。
そう思っていた時、ふとトキさんと目が合った気がした。
するとトキさんはこちらから視線を晒さずに微笑んでパチンとウインクをした。
(!!)
その瞬間、身体に電流が走った気がした。
鼓動が早くて、全身が熱い。
オレの周りや人が歓声を上げたがそんな声なんか気にしてられない。
相手にとってオレは1回会っただけの人。
今は大勢の観客の中の1人だ。
なのにこの大勢の観客の中でただ1人、オレと目があった。
目があったどころかこちらに向かって微笑んでウインクをした。
「目が合った瞬間は私だけのって気がするんだ!」
不意に姉ちゃんが興奮気味に伝えてきた言葉が蘇った。
(本当に自分だけのって錯覚する…)
オレはしばらく放心状態だった。