第七章 春原百瀬
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トキさんと別れてから改めて手の中を見る。
そこに収まっているのはいつの日か姉ちゃんの部屋で見たものと同じジャケット写真。
違う点といえば黒い線…サインが書いてあることだけだ。
だけど、それがこんなにも自分の手に重くのしかかる。
これは個人的に贈られたものであり、あまり表に出していていいものでは無いことは混乱していた頭でもなんとか思いついた。
大ファンの人に見られでもしたらどうなるか分かったもんじゃない。
CDを傷つかないように、大事に、そっと、持っていた鞄にしまってオレは足を家の方に向けた。
「…ただいま」
数分で家に着き、いけないことをしているわけではないのに声がこわばる。
「おかえりー」
姉ちゃんの気の抜けた声だけがリビングの方から帰ってくる。
おふくろたちは出かけているのは声が帰ってこない。
手洗いとうがいを済ませてリビングに入れば目的の人物はソファで雑誌を読んでいた。
変に緊張していても怪しまれるだけだ、と思い直して、平然を装って姉ちゃんに近づく。
「姉ちゃん~」
「ん?何、百」
「姉ちゃんにお届けものでーす!」
そう言ってオレはトキさんからもらったCDを鞄からそっと出して、ピシッと姉ちゃんの前に両手で差し出した。
「ん…?Re:valeのCDじゃん。勝手に…って…え?」
初めは横目に見ていた姉ちゃんだったが、その視線をもう一度CDに移し、今度は数秒固まったように動かなくなる。
そして、雑誌をソファに置いたかと思うと自分の頬を引っ張った。
「え?夢じゃ無い…。え?ちょ、百!このCDどうしたの?!」
姉ちゃんは手で口を覆って信じられないようなものを見る目でCDを見つめる。
視線は釘付けだが、足は落ち着きようがなくバタバタしているし、こちらにまで興奮が伝わってきた。
「今日、トキさんに会って…」
「どこで?!」
オレの言葉に姉ちゃんは食い気味で聞いてきた。
その迫力に少し押されながらも説明を続ける。
「え、駅の近くの道で。困っていたからオレから声かけて道案内したんだ。そしたらお礼にってもらったんだ」
「え?私がもらっちゃっていいの?」
「姉ちゃんの名前書いてあるだろ?正真正銘姉ちゃん宛だよ」
「どうして?百へのお礼なのに?」
姉ちゃんは心底不思議そうにCDを見つめた。
「オレ、お礼を断ったんだ。だけど、トキさんがお姉さんと仲がいいみたいだから、お姉さんを笑顔にさせることが1番のお礼になると思うからこれはお姉さんに渡して欲しいって…」
「はぁ…、トキさん、超イケメン…。家宝にする…」
姉ちゃんはソファに置いてあったクッションを抱きしめ、顔を埋めながら言った。
しかし、次の瞬間には顔をガバッと上げてオレにキラキラした目をして問いかけてきた。
「それで!プライベートのトキさん、どうだった?!」
「別にどうもしないよ。普通の綺麗な優しい人だったよ?」
「トキさんは普段は綺麗な女性って感じなんだけどライブ中は超カッコいいの!それにあの声!同じ女だけどあの声で囁かれたら死ぬ!」
きゃー、と言って姉ちゃんはクッションを更に強く抱きしめた。
(声?別に普通だったけどな…)
この時、オレの頭の中からはトキさんがハモリを担当しているという姉ちゃんからの情報はぽっかり抜けていた。
そして、オレはこの出来事から数週間後、彼らの…Re:valeの凄さを目の当たりにすることになるのだった。