第六章 新たな出会い
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定期検診の翌日
「おはよー」
「おはよう。奏」
「おはよう」
「はい。2人にもバレンタイン」
奏は控室に入ってきた2人にラッピングされた袋を手渡す。
家の近い実には昨日、病院から帰ってきてから渡し、雅季とこのライブハウスのスタッフの分は雅季自身に預けてきていたためまだ渡せていなかったのはこの2人だけだった。
「ありがとう」
「ありがとう」
万理と千はお礼を言って奏からの袋を受け取る。
「どういたしまして。口に合えばいいけど」
「……ガトーショコラか。上手くなったな。昔は失敗していたのに」
万理は袋を開けて懐かしそうに言った。
「失敗は誰にでもあるものでしょ?」
「いやでも、あの時のクッキーは焼きすぎてもはや炭だっただろ?」
「!ちょ、それは…!」
苦笑いしながら言った万理の言葉に奏は過去に大失敗した事件を思い出した。
小学校低学年くらいの頃。
バレンタイン。
それは好きな人にチョコで想いを伝える日。
しかし、楓から友達にあげる友チョコという存在を教えてもらった奏は、万理に友チョコを渡すため、人生で初めての手作りお菓子にチャレンジすることにした。
事前にバレンタイン当日に万理と遊ぶ約束を取り付け、そこで2人で作ったお菓子を食べようと考えたのだ。
奏は楓と相談し、悩んだ末に作るのが比較的簡単なココアクッキーを作ること決めた。
自分が食べたかったからというのも少しはあったかもしれない。
バレンタインの前日に生地作りと型抜きを楓に手伝ってもらいながら終わらせ、サクサクの出来立てをあげるべく、あとは焼くだけというところまで準備を進めた。
そしてバレンタイン当日。
「いい?このレシピ通りに焼くのよ?あと、オーブンから出すときはミトンを絶対使うこと。火傷しちゃうからね。天板は重いから気をつけるのよ」
「はーい!」
「万理くんが来るのは午後からなら冷やす時間も考えて…11時くらいから焼き始めればいいんじゃないかしら?…喜んでもらえるといいわね」
「うん!頑張る!万くんに美味しいって言ってもらうの!」
「ふふっ、そう。じゃあ、行ってくるわね」
「いってらっしゃーい!」
楓はピアニストとしての仕事に、信は新曲の打ち合わせに、奏がクッキーを焼き始める前に家を出ていった。
雅季はその日、外せない用事があったのか家にはいなかった。
その後、奏は楓に言われた通り、11時に間に合うようにオーブンを予熱させる。
そして、いざ、焼くという時…
「あれ?時間はこのままでいいのかな?」
奏はふと疑問に思った。
生地作りをしている最中の楓の言葉を思い出す。
「奏も食べるなら1人分じゃ足りないわね…。今回は2倍で作りましょう」
「2倍って?」
「同じものを同じ量だけ用意することよ。ここに書いてあるのは1人分の材料だから2人分を作るならこれがもう1つ必要でしょ?だから、材料を2つ分用意するの。これが3人分だったら?」
「3つ分用意するから3倍?」
「そう!奏は頭がいいわね」
「へへへ…」
「足し算はできるわよね?この重さを2つ分用意するから卵は何個必要?」
「1+1で2つ!」
「正解!」
その時、奏は思ったのだ。
生地は全部天板に乗っているから分けて焼く必要は無い。
ならば、焼く時間は2倍にしなければならないのでは?と…。
そう思い、実行し、出来上がったものは丸焦げのクッキーだったもの。
ココアクッキーだったため元から茶色かったのが更に黒っぽくなり、ぷすぷすと音を立てる。
明らかに普通ではなかったが、勇気を持って試しに食べてみればものすごく苦くて食べれたものではなかった。
「たまたま俺が奏の家に遊びに行く日でな。インターホンを押した瞬間、ドアが開いて泣きついてきたっけ。量が2倍だったから焼く時間を2倍にしたのに…。頑張ってお母さんと作ったのに…って」
「万くん!!」
少しからかうように当時の奏を真似しているのか少し高い声で言う、万理に奏は真っ赤な顔で声を荒げた。
「ははっ!」
「今と随分違う…」
そんな奏の反応に、万理は笑い、千は信じられないというふうに奏を見た。
「そりゃ、小学生だしな」
「私で遊んで楽しいの?!」
「まあな」
「この悪魔め…」
軽く答える万理を奏はキッと睨みつける。
「真っ赤な顔で睨んでも怖くないぞ」
「うるさい!」
奏は相当の黒歴史なのか顔を隠してうぅーと言いながら机に伏せる。
そして、忘れて…、忘れて…と呟いていた。
「かわいい…」
そんな奏を見ながらポロッと漏れた千の小さな声は、恥ずかしさに悶えている奏の耳に入ることはなかった。