第六章 新たな出会い
夢小説設定
本棚全体の夢小説設定魔法使いの約束以外の夢小説は一括で変更可能です。
魔法使いの約束は魔法使いの約束の名前変換場所からどうぞ。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
参拝の順番がようやく回ってきて3人はお賽銭を入れ、作法に従って手を合わせる。
(これから先も今と変わらない普通の日常が続きますように…)
奏はそれだけを願った。
自分の持病に父である信の交通事故…。
普通の日常ほど壊れやすいものだということを奏は身をもって知っていた。
(デビューして知名度も上がれば忙しくなるだろうし、一緒にいられないことも多くなるから今と全く変わらないのは難しいかもしれないけど…)
3人で曲を作って、議論しあって、完成した曲を自分が演奏してそこに2人の声が乗る。
Re:valeを愛してくれるお客さんがいる。
そんな日々が続いて欲しいと奏は思った。
奏がチラリと横を見てみると2人はまだ手を合わせていた。
そんな2人の姿に奏の口元には笑みが浮かんでいた。
「2人共何お願いしたんだ?」
「秘密」
「なんで?いつもは色々ズバズバ言うくせに」
「なんでも。願い事は言うと叶わなくなるって言うしね」
「…じゃあ、僕も言わない」
「そうか」
奏らしい言葉と願い事が叶わなくなると聞いて言わないと言った千が微笑ましくて万理は思わず笑った。
それと同時に万理は餅の屋台を見つけた。
「あ、お餅売ってる、食べよう。千と奏は何にする?」
「僕はずんだ餅」
「私は磯部焼きかな?」
「俺はきなこ!」
それぞれ好みの味を注文して棒に刺さったお餅を食べながら千を真ん中に3人は神社を一通り歩く。
すると千が唐突に口を開いた。
「奏は来年大学行くの?」
「ん?どうしたの?急に」
奏は千の方を見ながら聞き返した。
「なんとなく気になったから聞いた」
「うーん。行かないかな?大学よりもRe:valeに割く時間を多くしたいし。Re:valeを大きくすることが今の私の夢だからね」
「今の?昔の夢は?」
「…作曲家かな?」
「なんで疑問系?」
「だって自分でもこれが私の1番の夢だったとは思えないから」
奏は苦笑して雲ひとつない真っ青な空を見上げた。
「小さい頃にアーティストとして活動ができないって言われて1番の夢は潰えたはずだった。でも、理性では理解していても心のどこかでは諦めきれていなかったの。相手が私を使うことのリスクを理解して、それでも求めてくれれば、迷惑をかけたところで私の責任じゃなく、それでも良いと言った相手の責任になる。そんな卑怯な考え方をしながらこんな私でも誰かが求めてくれることを待っていた」
空を見上げる奏の瞳は万理には空よりも遠い過去を見ているように見えた。
「新しい楽器を次々始めたのもそのせい。自分のステータスを上げていくことでデメリットよりもメリットを多くしたくて。楽器は好きだし、純粋に興味もあったけどそういうやましい気持ちも少しはあったと思う。…軽蔑した?」
奏は万理と千の方を見て笑いながら聞いてきたが、万理にはどこか拒絶されることを恐れているような不安気な笑みに見えた。
「そんなことないだろ。奏の夢を諦めきれないのは理解できるし、やましい気持ちよりも遥かに楽器が好きな気持ちの方が大きいことも知っている。それに、事実、俺たちは奏のその技術が欲しくてリスクを負ってでも良いから手を伸ばしたんだ。奏の策略通りだな」
「ふふっ、…そうだね」
今度の笑みは先程とは違い嬉しさが滲み出ていた。
「2人に出逢ってなかったらきっと来年は音楽大学に進学して今と同じ生活を送りながら私を必要としてくれる誰かを待っていたと思う。現れるか分からない誰かを…ね」
そう言うと奏はスタスタと万理と千の数歩前に出て、こちらを振り返った。
2人は歩みを止めて奏を見た。
「だから、2人には…特に千には感謝しているんだ。…私を欲しいって言ってくれて…、私の曲を好きだって言ってくれて…、私と音楽をしてくれてありがとう」
改めて感謝の意を伝えるのはやはり恥ずかしいのか、奏は少し頬を赤く染めて、幸せそうな笑みを浮かべて言った。
「!」
その言葉には奏の精一杯の感謝の意が込められていた。
「普通の日常はある日突然無くなる。大切な人がずっと側にいるとは限らない。だから伝えたいことはその時のうちに伝えておかないとね」
いつか奏がそう言っていたことを万理は不意に思い出した。
再会して数日経った頃、退院日に信が交通事故で急に亡くなったことを奏から聞きいた万理はそれが性格の変化に関係しているのではないかと考えていた。
更に奏自身の病気が悪化すれば死んでしまうこともある。
そのため伝えられるうちに伝え、言いたいことは遠慮なく言う。
それが今の奏だということを万理は理解していた。
そのため奏の口から出るのは殆どが本心だ。
だからこそストレートに胸に響き、純粋な嬉さを万理は感じていた。
「こちらこそ、俺たちと出逢ってくれてありがとう。これからもよろしくな、奏」
万理は奏に負けない柔らかい、優しい笑みを浮かべてそう言った。