第五章 新しい可能性
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衣装合わせから数日後
「未完成な僕ら」のCDが完成した。
奏から完成の連絡を受けて、千と万理は実のスタジオにやってきた。
いつも通り、Asturumの部屋に入り、奏がミニコンポにCDを入れ、試聴会が始まった。
奏がスタートのボタンを押せばシーンとした空間にコンポからの音が響き渡る。
奏が数ヶ月前まで納得のいっていなかったヴァイオリンはシンセサイザーで作った音なのかもしれないが、数ヶ月前の音は見る形もなく綺麗で透明感のある音を響かせている。
リズムを刻むのはスネアドラムとベース。
ギターやピアノ、ウィンドチャイムにシンセサイザー。
様々な音が丁寧にミックスされている。
曲が終わり、余韻まで楽しんだ後、万理は興奮したように口を開いた。
「すごくいいよ!流石だな、奏!」
「元がいいからだよ。みんなで頑張った甲斐があったね」
「ああ!」
「そうね」
いつもは硬い表情の千も曲ができた達成感からか、曲の出来に満足したのかその表情は柔らかった。
そして3人は抱き合って嬉しそうに微笑みあった。
「それで1つ相談があるんだけど」
「なんだ?」
少し興奮が落ち着いた頃、奏が話を切り出した。
「ライブで弾くならヴァイオリンなんだけどライブハウスでヴァイオリンってどう思う?」
ライブハウスに集うのは主にバンドマンだ。
ストリングスの音を出すのはキーボードもとい、シンセサイザーの役目である。
ホールならまだしも、ライブハウスでヴァイオリンを弾くなんて奏が知っている限りでは聞いたことが無かった。
「別にいいんじゃないか?というかそんなこと言うってことは人前で弾けるくらいになったんだな」
「うん。学園祭の少し後くらいに。だから、Re:valeの曲に使ったのは今回が初めて」
万理の言葉に奏は頷いた。
半年程前に2人の曲は弾けないと言っていたヴァイオリンの腕は日々の練習のおかげか半年前よりかは何倍もレベルアップしている自信が奏にはあった。
「お前、聞かせられるようになったら自分から言うからって言ったくせに…」
「バタバタしていたんだから仕方ないでしょ。それとヴァイオリンを弾くならハモリはできない」
「先に録っておくか?」
万理の問いに奏は首を振った。
「うんん。今回の曲は2人のボーカルだけの方がいい気がするから私は歌わないよ」
「じゃあ、「未完成な僕ら」は千と俺のボーカルだけだな」
「トキ」
万理と奏が話していると今まで話に入ってこなかった千がいきなり話に入ってきた。
「ん?」
「ヴァイオリン弾いてよ」
「お、そうだな。俺たちに聞かせてくれるって言ったもんな?」
「今?」
「「今」」
見事に2人の声がハモる。
「…まあ、いいよ」
奏は持ってきていたヴァイオリンのケースを開けて準備をする。
「「未完成な僕ら」でいい?」
「「うん」」
奏は2人の前に立ち、ヴァイオリンを構えて弓を引いた。
ヴァイオリンから出たのは半年前の音は見る形もない綺麗な音だった。
それこそ、CDに入っていた透明感のある綺麗な音だ。
弓を引く腕も弦を押さえる指も半年前とは動きも正確さも段違いだった。
ヴァイオリン単体での「未完成な僕ら」はCDとはまた違った感じでこちらもいいアレンジだと万理は素直に思った。
目を閉じて思いのままに指を、腕を動かす奏はとても楽しそうで口には微笑みが浮かんでいた。
万理が隣をチラッと見てみるといつもなら目を閉じて聞き入る千が珍しく口元に笑みを浮かべながらじっと奏を見つめていた。
優しい眼差しに微笑みを浮かべながら奏を見る千。
滅多に見られないその表情に加えて、何日か前に相談された内容のこともあり、万理は千が奏が好きなんだと確信した。
(まあ、まず性格を直さないと千の言葉は届かないだろうがな…)
気分転換に女の子に縋り、ポイっとその子を捨てる千。
万理にはそんな千の好きを奏が信じるとは思えなかった。
万理は苦笑いをこぼしながらも奏の奏でる音楽に再び耳を傾けた。