第五章 新しい可能性
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頬を染めて少し恥ずかしそうに、そして心底嬉しそうにこちらを見て笑った奏のその顔に千の心臓は跳ねた。
自分だけに向けられたその笑顔はとても綺麗で…
(可愛かった…)
奏の笑顔なんていつも見ているはずなのに何故か今日の千はそう思った。
特別な笑顔だった。
もう一度見たい。
どうしたらまたこの笑顔が見られる?
褒めたらまた見れるだろうか?
千の頭の中はすぐに欲望でいっぱいになりそんな考えばかりが募っていく。
しかし、奏は軽々しい言葉は好まないことは千も理解していた。
褒めちぎったところで最初こそ奏は驚くだろうがそれが通常化すれば軽く流す程度になってしまうだろう。
(帰りに万に相談してみるか…)
千は帰りに万理に相談することにしてこの件は一旦置いておくことにした。
ライブハウスを出て、駅で奏と別れた千と万理はいつもの帰り道を2人で歩く。
しばらくしてから千は口を開いた。
「…ねえ、万」
「なんだ?」
「今日見たトキの笑顔、どうしたらまた見れると思う?」
「え?」
万理は唐突な話に困惑しながらも聞き返した。
「いきなりどうしたんだ、千」
「…今日、僕に嬉しいって言ったトキの笑顔、どこか特別に感じた…。心臓がうるさかった…。もう一度見たいって思ったんだ」
「…なるほどな。…あの千がな……」
万理はそう言って微笑した。
その表情は嬉しそうでもあり、どこか複雑そうでもあった。
「あのってなんだ…」
「女癖が悪くて、無口で図々しくて、対人関係を築けない、顔と生み出す音楽だけが取り柄のトラブルメーカー」
「…」
万理から容赦無く吐き出された言葉に千は黙り込む。
その通りなのだから反論などできるはずもない。
それに、千自身、自分の性格や態度を改めるつもりもなかった。
「まあ、確かにあれはそう簡単に見れるもんじゃ無いな」
「じゃあ、どうすれば見れる?」
「何もしないで今まで通りにしていろ。毎日、奏のことを褒めたりしても怪訝な顔されるだけだぞ」
万理も千と同じことを考えていたようだ。
千は褒めちぎった後の奏を想像してみる。
「…千、どうしたの?何か変なものでも食べた?それとも熱でもある?…ねえ、万くん。なんか千が怖いんだけど」
(……こう思うとトキって結構失礼…)
自身の想像に千は顔を歪めた。
これは千が言えたことでは無いし、千の元の性格の故の反応なのだろうが…。
「ははっ!そんな顔するなよ。千がいつも通り頑張っていれば奏はきっとまたあの笑顔で笑ってくれるよ」
「いつ見れる?」
「それは分からないさ。明日かもしれないし、数年後かもしれないな」
「はぁ…、数年なんて長い」
いつか分からない不確かな期間。
突然降ってくる幸福のように、偶然に起きた奇跡のようにそれを待つことしかできない。
心はすぐにでも欲しているのにそれが手に入るのはいつか分からない。
それが千にとってはもの凄く不満だった。
「仕方ないだろ。特別なものはそういうものだ。いつも見れたら特別なものじゃ無い」
万理の言葉に千は少なからず納得する。
確かにいつも見れたならそれは普通のことだ。
特別なものでは無くなってしまう。
なら、それが見れるまで頑張って待ってみようと千は思い直した。
「…分かった。頑張ってみる」
「!あ、ああ。頑張れよ…」
万理は千の発言に少し驚いたように、戸惑ったように応援の言葉を送った。