第四章 生活の変化
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「あれ?あれって万さんと千さんだよね?」
倉庫からコーヒー豆の入った袋を持った葵がフロアを見ながら奏に問う。
「うん」
「じゃあ、トキ先に休憩入れば?」
「え?いいの?」
「私別にどっちでもいいからさ。それに今日この後ライブでしょ?2人と打ち合わせしたいこととかあるんじゃない?」
葵の言う通りここで今日の打ち合わせを終わらせておけばスムーズに進むだろう。
「ありがとう。助かる。じゃあ先に休憩もらうね」
「うん。オーダーだけ教えてくれる?奏は何かいる?一緒に持っていくよ?」
「飲み物は自分で作るよ。千にフルーツタルト、万くんにカスクルートお願いしてもいい?私は…今日はどうしようかな…」
「咲さんが今日はキッシュがおすすめだって言っていたけど?」
「じゃあ、それにする」
「了解。じゃあ料理できたら持っていくね」
「うん。ありがとう」
奏はアイスコーヒーを2つと自分用のハニーレモネードをトレーに乗せて万理たちの席に向かった。
「お待たせ。はい、アイスコーヒー。食事の方はあとでくるから」
「ああ。ありがとう。それは?」
万理はまだトレーに乗ったものを見て聞いてくる。
「私も休憩もらったからご一緒していい?」
「別にいいぞ」
「ありがと」
万理に了承の返事を貰えた奏はレモネードを机に置き、千の隣に腰掛けた。
「それで、来てみてどう?いいところでしょ?」
「ああ。内装も綺麗だし、メニューも豊富でいいところだな」
「ふふっ。そう言ってもらえて嬉しい。ここのお店お気に入りなの。食事はどれも美味しいし、店長も奥さんも優しいし、気の知れた友達もいるしね」
「友達も一緒に働いているのか」
「うん。というかその子にここ紹介してもらったんだよ」
そんな話をしていると奏たちの耳に失礼します。と声が聞こえた。
「サーモンとクリームチーズのカスクルートと季節のフルーツタルトになります」
そこにいたのは今ちょうど話に出ていた葵だった。
葵はフルーツタルトのお皿を千の前に、カスクルートのお皿を万理の前にコトリと静かに置いた。
「ありがとう。アオ」
「トキ、私の話していたでしょ?」
「え、何かダメだった?」
「いや、そういうわけじゃないけど、打ち合わせするんじゃなかったの?」
「あ、そうだった」
数分前のことだったがお気に入りの店を褒められたことが嬉しくて奏の頭から打ち合わせのことはすっかりと抜けていた。
「休憩時間も限られているんだからさっさとしちゃいなさいよ。あとこれ、トキの分ね」
そうして葵はコトリと奏の前に一切れのキッシュを静かに置いた。
「うん。ありがとう」
「じゃあ、万さん、千さん。ごゆっくりどうぞ」
葵はそう言ってお辞儀をしてから去っていった。
「あの子が友達か?何回かライブに来てくれているよな?」
「うん。名前は園田葵。私と同じ学校でヴァイオリンの技術は学内でトップだよ」
「クラシック界隈で有名なやつだろ?」
「あ、千は知ってるんだね。そうそう。すごい努力家でね、早く私も追いつきたいな〜」
「奏ならきっとできるよ。それにしても、千のはケーキ屋のみたいに本格的だな」
千に出されたフルーツタルトは綺麗にナパージュされ、店の明かりに照らされてキラキラと光っている。
「店長の奥さんがフランスで修行していたシェフだったらしいんだけどデザートから食事までどの分野もすごい美味しいよ。私たちも簡単なものなら作るの手伝っているよ。そのカスクルートとか」
「これサンドイッチのパンが違うだけだよな?」
「そうそう。挟むパンが食パンじゃなくてバケットなの。パリパリしていて普通のサンドイッチとはまた違って美味しいよ」
「へぇ。トキのは何?」
「これはキッシュ。パイ生地やタルト生地に野菜やチーズに生クリームとかを入れた卵液…アパレイユをいれて焼き上げたものだよ」
奏はキッシュにフォークを入れながら千の質問に答えた。
「へぇ。美味しそう」
「これはキノコと野菜のキッシュだから千でも食べられるよ。食べてみる?」
「いいの?」
「いいよ。その代わり千のタルトも少しちょうだい?」
「いいよ」
「やった!じゃあ、はい」
奏はキッシュが乗ったフォークを千に差し出す。
千はそれを躊躇なくパクりと食べた。
「ん、美味し」
「それは良かった」
「……」
そんな2人を万理はポカーンと見つめていた。
「ん?万くんどうかした?」
「万、何かあったか?」
万理の異変に気がついた奏が声をかける。
奏の言葉に千も万理に声をかけた。
「……よく平然とできるな」
「「何が?」」
千と奏の声が綺麗にハモった。
なんのことだか分からないと言いたげに2人の顔はキョトンとしていた。
「……なんでもない」
「そう?ならいいけど」
明らかになんでもないという雰囲気では無かったが奏はこれ以上追求するのをやめた。
「トキ。約束のお返し」
すると千が奏の肩をトントンと叩く。
奏がそちらを見ると千はタルトが乗ったフォークを差し出してきた。
「トキ。口、開けて?」
「…」
奏はタルトの乗ったフォークをジッと見つめる。
自分から食べさせる分には特になんとも思わなかった 奏だが、いざ食べさせられる方になると羞恥心が湧き上がって来た。
「!」
そこで奏は万理が言いたいことがようやく分かった。
こういう行為は普通恋人たちがやることだ。
そんなものを見せられたら気まずくもなるものだろうと奏は納得した。
そしてそれを意識した途端に顔に熱が集まるのが分かる。
無意識とはいえ自分の軽率な行動に奏は頭を抱えそうになった。
「トキ、顔赤いけどどうかした?あ、もしかして僕に見惚れた?」
「それはないから大丈夫」
「即答」
「じゃあ早く食べて。腕疲れる」
「…」
千の自信たっぷりな発言と特に気にしていない様子に幾分羞恥心が薄れ、 奏はその気持ちを振り切るようにパクっと千のフォークに乗ったタルトを食べた。
サクサクのタルト生地に濃厚なカスタードクリームとフルーツの甘みが口の中に広がる。
タルトは奏が以前食べた時と変わらずの美味しさだったが今の奏は味の感想どころでは無かった。
「万くんの言いたい事が分かったよ…。今度からは気をつける」
「気づいてくれたならいい…」
そうして万理はカスクルートに手をつけ始めた。
「それで今日はここから直接ライブハウス行くの?」
「ああ。奏、あと3時間くらいしたら上がりだろ?ここで夏休みの課題やりながら奏を待って一緒に行こうかなって」
「そっか。わざわざ来てもらってごめんね」
「俺たちが勝手に迎えに来ただけだから気にするな」
「ありがとう、万くん」
「僕は?」
「千は引きずられて来たんでしょ?」
「…」
奏の最もな言葉に千には返す言葉が無かった。
「さ、打ち合わせしようか?」
「ああ」
そんな千を放置して2人は打ち合わせを始めた。