第四章 生活の変化
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初めて舞台に立った日から数日後。
奏は定期検診のために病院を訪れていた。
診察には必要ではないであろうギターを背負って。
あらかじめ予約を入れておいたため窓口に来たことを伝えれば数分と経たずに名前が呼ばれ、いつも同じ診察室に通される。
「失礼しまーす」
「こんにちは。奏ちゃん。体調に変わりはない?」
部屋の主はカルテに目を通した後こちらを見て尋ねてくる。
「こんにちは。蜜柑先生。変わりないですよ」
奏は相手の質問に答えながらギターを下ろして部屋の隅に立てかけると椅子に腰を下ろした。
奏の目の前にいるのは白衣を着た美人女性。
艶やかな黒髪にしみひとつない綺麗な白い肌。
若々しい見た目をしている彼女はこう見えても今年39歳のアラフォーだ。
彼女の名前は月宮蜜柑。
年齢詐欺なやり手の奏の担当女医だ。
初めて入院した際は担当は違ったものの、奏は12年ほど前からずっとこの女医の世話になっていた。
「さあ、さっさと検査しちゃいましょうか」
「はーい」
「ここ1ヶ月なんか変わったことあった?」
蜜柑はカルテに何かを記入しながら奏尋ねる。
それはここに来ると必ず聞かれる質問だった。
「一緒に音楽をやる仲間ができました」
「そう。良かったわね」
「はい。メインボーカルが2人でハモリは私です」
「ってことは奏ちゃん、今歌っているのね?」
「はい」
「いいつけは…」
「ちゃんと守ってますよ」
奏は蜜柑の言葉を遮って答えた。
「ならいいけど…」
「それで、なんですけど…私たちがデビューして売れてきたら私の専門医になってくれますか?」
デビューをして、売れて、ツアーなどを行うようになったらハモリとはいえ喉の心配がある。
毎日ケアをしなくてはならないし、専門の医師をつけておいた方がいざという時に的確に処置が可能だ。
ならば奏は幼い頃からずっと自分を担当している蜜柑が一番適任だと思っていた。
しかし、アイドルの専門の医師になるということは年がら年中奏につかなければならない。
そうなれば病院の通常業務などはすることは不可能だ。
それ故に今勤めているこの病院も辞めなければならない。
彼女の人生を大きく左右するお願いだった。
「専門ってことはそれ一本で食べていかないといけないからね…。そうね…、誰もが認めるようなトップアーティストになるっていうんだったらいいわよ」
「!もちろんです!コホッ、コホッ!」
了承の言葉がもらえると思っていなかった奏はその喜びについ大きな声が出る。
しかし、その声は喉の限界を超えており、奏は派手に咳き込んでしまった。
「こら!喉に響くんだから大きな声出さない」
「すいません…」
「はい。おしまい。今月も以上なしかな」
蜜柑は背中に当てていた聴診器を離してカルテに文字を書き込んでいく。
數十分の検査が終わり、奏はその言葉に安心して服を着て診察室を出る準備を始める。
「今日もあの子達のところに行くの?」
「はい」
「あの子達に会いにいくのはいいけど、その前にきちんと薬もらっていきなさいよ」
「分かってますよ。じゃあ、また来月来ますね」
「ええ。お大事にね」
蜜柑にお礼をして奏は診察室から出る。
ロビーで少し待っていれば自分の名前が呼ばれた。
薬の受け取り窓口に行けば、奏にとってはすっかり顔見知りの薬剤師から薬を受け取る。
そして奏の足は出口へ向かうことなく病棟の方に進んでいった。
エレベータの上のボタンを押せばちょうど1階に止まっていたのかすぐエレベータの扉が開いた。
奏はエレベーターに乗り込むと7階のボタンを押す。
奏だけを乗せてエレベーターは閉まり、ゆっくりと上昇を始める。
下を見れば庭と駐車場が見えるだけだが上には雲ひとつない青い空に輝く太陽。
ビルの隙間から見る小さな空ではなく、エレベーターから見える空はもっと広かった。
そんな空を満喫していればあっという間に7階の到着を知らせる音が鳴る。
奏はエレベーターを降りると左に曲がる。
そして少しすると奏は1つの病室の前で足を止めた。
病室の号室は709。
号室の下に書かれた入院患者のプレートには七瀬陸という名前があった。