第三章 初めてのステージ
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奏は雅季に話をつけた後、以前万理に案内された控え室の方へと向かっていた。
同じ場所が控え室とは限らないが奏の心辺りある場所と言えばそこしかなかった。
着いてみれば控え室の扉にはRe:valeをはじめとする複数のバンド名の書かれた張り紙があった。
どうやら奏の勘は当たっていたらしい。
「失礼しまーす」
ノックをしてから声をかけて奏は中に入る。
「!バンリって女ってあんた?!」
すると控室に入った瞬間、いきなり綺麗に着飾った女の人に奏は詰め寄られる。
詰め寄ってきた彼女は綺麗な衣装を着てはいるが、その顔は酷いもので目は真っ赤になり、涙が浮かんでいた。
「は?」
(バンリって…万くんのこと?でも、女って…)
奏はいきなりのことに混乱しながらも頭を回転させて口を開く。
「えっと…、私はここのオーナーの妹の兆星奏と言います。バンリって女じゃないです。なんか勘違いなさっているんじゃないですか?それと綺麗な顔が台無しですよ?」
そして奏は持っていた鞄からハンカチを取り出すと女性に差し出した。
「あ、ありがとう…。そうなの、ごめんなさい」
女性は素直に奏からハンカチを受け取って涙を拭く。
そして人違いというのが分かったようで素直に謝罪した。
奏が部屋をチラッと見てみると千と万理そして他のバンドメンバーと思われる人が数人いた。
さらに千の頭には女性のものと思われる羽が頭に乗っている。
千はきょとんとした顔で、万理は少し焦った顔で奏の方を見ていた。
「2人ともこれどういう事?」
奏は当事者であろう2人に聞くと万理は千の方に視線を向けた。
「…おい、千。お前、何て言った?」
「あ…。思い出した。この前、万とケンカしたじゃん?」
「したっけ?」
「した。よく忘れられるな」
千は万理を拗ねたように睨みつけた後、話を続ける。
千は万理と喧嘩をして家を飛び出した時に彼女と会ったこと。
そして万理がいらないからもらってと言ったこと。
(加入早々修羅場の予感…)
その話を聞いて千の女癖が悪い事を初めて知った奏は少しため息を吐きたくなった。
「この馬鹿野郎…」
そして万理も疲れたように言葉を吐いた。
その様子を見て万理がどれだけ苦労してきたのかが分かった奏は心の中で万理を労った。
「ごめんね。もう万と仲直りしたから」
そして千はサッと告げて準備に入ろうとする。
「なにそれ!もう用済みってこと?!」
「え?うん」
「千!」
火に油を注ぐような千の行動を奏が止める前に千の近くにいた万理が千の口を手で塞いでいた。
これ以上大惨事になるのをギリギリで止めた万理に奏は心の中で感謝した。
「こいつ、まだ子供なんで、大目に見てやってください。話し合いはライブの後にしましょう」
「子供?!いくつ?!」
「16歳ですよ」
「嘘…」
まさかの年齢に驚いたのか彼女は絶句していた。
「まあ、気持ちは分かります。私も初めて会った時、年上だと思いましたから」
奏は彼女の様子に昨日の自分を重ねて苦笑いした。
「ああ、それと。バンリはそこの千といる男なんで女じゃないです。最初から女のバンリって人は存在しないですよ」
女性が知らないだろう事実を伝えると奏の言葉に彼女はえ…。と再び絶句していた。
そして、女性は奏に詰め寄った勢いはどこへ行ったのかそのままフラフラと帰って行った。
「遅かったな。奏」
「今日はちょっと授業長引いちゃって。それに兄さんにRe:valeに加入した事伝えてきたから」
「そういえば許可とってなかったな…。許してもらえたか?」
「うん。兄さんからの許可はもらえたから大丈夫。それと譜面もちゃんと覚えてきたよ」
「そうか。そしたら今日は一通りリハしたら出番まで待機だから」
万理は無事に許可をもらえたことに安心したように微笑み、今日の予定を告げた。
「ん、了解。そういえばその薔薇とプレゼントどうしたの?」
奏が視線を移した机の上には綺麗な赤い薔薇にラッピングされていた袋が置いてある。
「あー。これはファンの子からさっき貰ってね」
「ヘぇ〜。プレゼントもらうなんて流石人気急上昇中のRe:vale様ですね」
「他人事みたいに言うな。今日からお前もRe:valeだろ?」
「…そうね…」
万理の言葉に奏はゆっくりと同意した。
2人のファンに受け入れてもらえるか、2人のファンをガッカリさせないような演奏をできるか。
奏の中には楽しみの感情の他に不安と緊張があった。
しかし、弱音なんて言ってはいられない。
(もし、ブーイングが起きても、黙らせるような演奏をすればいいだけ…。私が入って良かったって言わせるような演奏をしてみせる…!)
「ふぅ…」
奏は気合を入れ、少しの緊張と不安を吐き出すように息を吐いた。
「何?緊張してるの?」
「…少しだけ?でも、それより多分楽しみって気持ちの方が勝っている気がする」
奏が胸に触れるとそこは早くを鼓動を打っていた。
「朝からずっとドキドキしてそわそわしてる」
「遠足前の小学生みたいに?」
今までずっと黙っていた千が不意に聞いてくる。
「あははっ!まさにそれかもね。たぶん自分の演奏をたくさんの人に聞いてもらうのが楽しみなんだ…。…それに2人のファンに私がRe:valeの一員って認められるような演奏をしないとね」
「客席の反応なんて気にするな。客に何と言われようが僕たちが決めたことだ。とやかく言われる筋合いはない」
「お客さんを認めさせる演奏、奏ならきっとできるよ。それにお客さんたちが奏をいらないって言っても俺たちには奏が必要だよ」
「…ありがとう。2人とも」
奏は心が軽くなるのを感じた。
2人の言葉は奏の中にまだ残っていた少しの不安を暖かく包んで溶かしていった。