第三章 初めてのステージ
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「…ふぁ…、…眠い」
奏は眠い目を擦りながら大きな欠伸をする。
万理達と別れてから奏はずっとドラムを叩いていた。
その成果か楽譜は完璧に奏の頭の中に入っていた。
これで明日の…いや、今日のライブは大丈夫だろう。
現在時刻は夜中の2時。
「…行かなきゃ」
奏はゆっくりと椅子から立ち上がる。
すると大きく伸びをした。
部屋の片付けを軽くして荷物を持って箱を出る。
実は日付が変わる前に帰ってしまったため無人のスタジオには奏のローファーの音だけが響いていた。
鍵でStellaの部屋を施錠し、事務所に鍵を戻した後、事務所の扉の番号ロックをかける。
その後、実から随分前にもらった合鍵で入り口のガラス扉の鍵をかけて奏はスタジオを後にした。
電灯がまばらな真っ暗な道を5分ほど歩くと奏はあるマンションに着く。
鍵で自動扉を開けて潜るとまずは郵便物を確認したが数枚のチラシが入っているだけだった。
部屋につけば奏はすぐにお風呂を沸かし、その間にお米を研ぐ。
出費を抑えるのには自炊が1番良い。
そのため奏は学校にはお弁当を持っていく。
このお米は今日のお弁当と夜の分だった。
朝はお弁当用に作ったものの残り物を食べて終わる。
お釜をセットして炊飯ボタンを押すと昨日の朝に作っておいたご飯とおかずを冷蔵庫から出して温める。
ご飯を食べているとお風呂が沸いたことを知らせる音が鳴る。
ご飯を食べ終えて食器を水につけてから奏はお風呂に入る。
湯船で寝そうになったが意識を何とか保った。
お風呂から出て動きやすい格好に着替え、髪を乾かせば時間は3時。
洗濯機をセットした後、食器を洗い奏は玄関に向かう。
母も仕送りをくれるが音楽にかけるお金は自分でなんとかしたかった奏は平日は毎日3時30分から自転車で新聞配達のバイトをしていた。
そのため奏はこれからバイトに向かうのだ。
奏は眠い頭を起こして滞在時間僅か1時間の部屋を出ていった。
バイトから帰ってきたら大体時間は6時30分。
終わっている洗濯物を干して掃除機をかける。
そしてお弁当と夜ご飯を作ってお弁当の余り物の朝食を食べる。
それが終われば制服に着替え、ニュースを見て7時30分には家を出て学校に向かう。
これが高校生になってから奏の徹夜の日の日常だった。
通学電車の中では片耳だけで聞きながら仮眠をとる。
奏は学校に着くなり、机に突っ伏した。
HRが始まるまでの束の間の睡眠時間だった。
先生がくればきちんと起きて話を聞いた。
「おはよう。トキ。相変わらず眠そうだね。また徹夜したの?」
「…おはよう。アオ。まあ、そんなところ…ふぁ…」
「大きな欠伸だね…。今日はちゃんと休みなよ?」
「…うん」
目は眠そうで口調はゆっくりでも奏の胸の中はワクワクしていた。
新しい知識を学べる授業は好きだし、葵のことも好きだが、学校は自体は過度な期待と評価に周りの視線が鬱陶しく、気にしないようにしていても居心地はあまり良いとは言えないものだった。
楽器を弾いたり、作曲する以外の楽しみなんて奏には今まで無かった。
でも今日は違かった。
夕方が…ライブの時間が近づくにつれて胸がドキドキして落ち着かなくてソワソワした。
「…今から楽しみだな」
「ん?何か言った?」
「…何にも。さ、早く行こう」
1限目の実技授業のために彼女たちは部屋を後にした。
時は流れ夕方。
奏は葵と別れて雅季のライブハウスに足を運んでいた。
「こんばんは。兄さん」
「お。今日も来たのか。また練習か?」
雅季はパソコンのキーボードを叩く手を止めて顔をあげて奏に尋ねた。
「あ、兄さんに言ったなかったね。私Re:valeに入ることになったから、これからかなりの頻度で来ると思うよ」
「………」
奏の言葉に数秒の沈黙が流れる。
その沈黙にちゃんと聞こえているか不安になった奏はもう一度同じ言葉を言おうとすると雅季は頭に?を浮かべながら口を開いた。
「は?いや、ちょっと待て。いきなり何でそんな話になった?」
ようやく奏の言葉を理解した雅季だったがそれを、はいそうですか。とは受け入れられなかったようだ。
「昨日、勧誘された。ライブ見ていたのもRe:valeに入るか決めるためだし」
何事もなくサラッと言った奏に雅季は驚いたように、マジかよ。と呟く。
「お前な…、こういうのは相談しろよ。お前まだ未成年だろ?なんでもホイホイ自分で決められる年じゃないんだぞ?」
「事前に許可を取らなかったのは悪いと思っているよ。でも、夢を叶えられるチャンスなんだから相談して、やめろと言われたところで私の意思は変わらない。それに今更止められないよ」
奏は雅季を見つめる。
その瞳は真剣で、まっすぐだけど口元は少し悪戯な笑みを浮かべていた。
「昨日、音合わせも済ませた。私も徹夜して楽譜を覚えた。そして2人は私がいる気でいる。急な変更でライブをめちゃくちゃにしたり、私の努力を踏み躙るような兄さんじゃないよね?」
奏の言葉に雅季もまっすぐと奏を見つめた。
それは少し心配そうな、でもこちらも真剣な目だった。
そして少し沈黙した後、雅季は口を開く。
「…万と千に無理やり加入させられたんじゃないよな?」
「勧誘は向こうからだけど、最終的に決めたのは私」
自信満々に雅季に向かって言葉を紡いでいるが、実のところ奏の心臓はバクバクだった。
雅季は奏のことに関してはかなりの心配性だ。
芸能界は色々トラブルも多いし、傷つくことも多い。
奏はそれを承知で覚悟の上だが、それを雅季が許してくれるかはまた別の問題だった。
雅季の負担を減らしたくて一人暮らしをすると奏が話した時もなんとかセキュリティの高いマンションにすることと実の家が近いため許可をもらえたのだ。
それまでは猛反対されていた。
雅季の次の言葉をドキドキしながら待っているとしばらく考え込んだ後、彼はようやく口を開いた。
「………はぁ、分かった」
雅季は仕方がないなと言いたげな優しい顔で笑った。
「やった!」
許可の言葉とともにバクバクしていた心臓は落ち着き、代わりに喜びに心が満ちていく。
ここで許可を取れなくても止める気なんて毛頭無かったがやはりきちんと許可を貰えると嬉しいものだった。
「アーティストの道は大変だと思うが、頑張れよ。応援している。あまり無茶はするなよ」
そうして雅季は奏の頭を優しく撫でた。
「うん!大好き、兄さん!」
「っ!」
喜びのあまり奏が抱きつけば雅季はそれを慌てて受け止めた。
「あ!こんなことしている場合じゃない!早く2人のところに行かないと!じゃあ、兄さん、妹の初ライブ楽しみにしててね!」
自分から抱きついたと思えばサッと雅季から離れた奏はパチンとウインクをして嵐のように事務室を後にした。
「…………」
奏が去った後のオーナー室では雅季がボーッと立ち尽くしており、沈黙が流れていた。
「はぁ…」
しばらくするとため息とともに雅季は顔を覆った。
その顔は手に隠れて見えなかったが耳は少し赤かった。
(流石俺の妹…。超可愛かった…)
重度のシスコンの雅季は奏のハグとウインクのダブルパンチにやられてしまったようだ。
するとオーナー室にノックが響いて事務員と思われる女性が入ってくる。
「オーナー。ちょっとご相談が…ってまたですか…」
雅季のシスコンぶりを知っている女性は困ったものだと呆れた目で雅季を見る。
「…はぁ…。…ごめん、あと1分待って」
「…はぁ」
見慣れた光景に女性はため息をついた。