第二章 過去と今とこれからと
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全ての曲の合わせは2時間程度で終わる。
その後はハモリの部分の修正に取り掛かった。
2人の声だけでは物足りない部分も3人になれば厚みもでる。
もの足りない部分のハモリを奏が自ら担当したいと言い出したのだ。
「喉は大丈夫なのか?」
「これでもボイストレーニングしてきたし、Aパート全部とか長いフレーズじゃないなら大丈夫だよ。まあ、声量は小さいけどマイク通すならあまり関係ないだろうし」
「でも…」
「万くんは心配性だな〜。大丈夫だよ。これまでも何回か歌ってきたけど発作起こしたことないし、無理なら無理って言うからさ」
万理は奏の喉を心配したが奏にも折れない強い意志があった。
無理をしないならということで万理は承諾したのだった。
「じゃあ、少しだけでいいから歌ってみて」
「うん。分かった」
千の言葉に奏は頷き、深呼吸をする。
そして歌うべく口を開いた。
奏から出た歌声に2人は言葉を失った。
奏の歌声は声量こそ無かったがその声は男に似た艶っぽい低い歌声だった。
ぽかんと口を開けている男2人を見て奏は笑った。
「ふふっ。2人して驚きすぎ」
そう言った奏の声は先程まで聞いていた低い声の面影なんて欠片もない女性らしい声だった。
少しトーンは低いがこれくらいのトーンの女性なら普通にいるだろう。
「高い声を出すのは喉に負担がかかるからって昔はドクターストップかかっていたから歌声は必然的に低い声を出すようになってね。実さんが元歌手だったって言ったでしょ?レッスンしてもらったの。そのせいで地声も少し低くなったけどね。まあ、今は少しなら高い声も出していいって言われてるから高い声も少しは出るよ。まあ、頻繁には使えないけどね」
そう言って奏は苦笑いした。
「なんというか…ギャップがすごいね…」
万理の言う通りだろう。
写真だけを見せたらもっと女の子らしい綺麗な声を誰もが想像するだろう。
あんな男の艶っぽい声が出るなんて誰が想像するだろうか…。
「歌声聴いた人にはよく言われる。声帯どーなってるんだよってね。でも、小さい頃からレッスンすれば自然と身につくことなんだよ。万くんと一緒にいた時から少しずつだけどレッスンはしていたしね」
「え?!気づかなかった…」
当時そんな気配を微塵も感じなかった万理は驚いた。
「小学校5年生くらいかな?まあ、あの頃はまだ習いたてだったし、しっかり発声できるようになったのは中学1年生の終わりくらいだったからね。だから知らなくても別におかしいことじゃないよ」
今は低い声もただ声変わりをしただけだと思っていた万理だったがそんなに昔から特訓をしてきたのは奏の音楽に対する思い入れが強いと言うのもあるのだろうと万理は感じていた。
「…じゃあ、トキ。どの音域まで出るかだけ確認するよ」
千はギターを構える。
音域によっては今千と万理でハモっている音域を入れ替えなければいけなくなるからだ。
「うん。いつでもいいよ」
「苦しくなったら言えよ」
「分かってる」
そうして奏の音域を確認した後、パートを調整する。
小さい頃から音楽をやっていた奏は音感があり音を狙うのが上手かったからか思ったよりスムーズに作業は進んでいった。
ハモリも含めて明日のライブの曲を一通り通し終わった後、奏は千との約束通り弾ける楽器を次々弾いていった。
アコースティックギターにエフェクターを使ったエレキギターにエレキベース。
グランドピアノはもっと大きい箱の方にあるらしく今回はシンセサイザーをピアノの音に設定しピアノを弾いた。
木琴や鉄琴はドラムでの経験もあるからか早い腕の運びもそつなくこなす。
どれもそれなりの技術はあった。
弦楽器はまだヴァイオリンのみで他は未経験のため弾けない。
ヴァイオリンもまだまだ拙いところなどもあったが聞くに耐えない音というわけでは無かった。
だが、完全ではないためCD作成にはシンセサイザーを使用したのだろうと万理は思った。
これから練習を重ねて奏は更に技術を身につけることだろう。
ただでさえ奏は楽器の扱いのセンスが抜群に優れている。
万理は来年には今の倍以上は成長している気がした。
そして、やはり奏の1番の武器はギターだった。
ギター歴13年は伊達ではない。
エフェクターを使用しての演奏を見るのは万理にとっては初めてでいつ使い始めたのか聞けば中学に入った頃からだと奏へ答えた。
千は黙って奏の演奏を聞いていた。
他の技術はRe:valeにとってプラスになるものなのか、マイナスになるものなのか。
プラスになるなら、その技術をどう曲に生かしていくか。
それを考えるために千は早めに奏の実力が知りたかったのだ。
「こんなもんかな?」
演奏が終わると奏は構えていたヴァイオリンを降ろした。
その顔は眉を苦しげに寄せてあまり納得がいっていないような顔だった。
「ヴァイオリンはまだまだだけどね。このままの技術じゃ2人の曲は弾けない。だからこれはしばらくお預けね。…胸を張って使ってって言えるようになったら言うからさ。そしたらまた聞いてくれる?」
そうして奏は苦笑する。
千と万理はその言葉に頷いた。
全ての楽器を弾き終わった頃には時計の短針は既に11を少し過ぎていた。
「悪いな。こんな遅くまで」
「うんん。最近は作曲の時と人前で弾く時以外はずっとヴァイオリンを触っているから他の楽器も久々に触れて楽しかった。万くんたちこそ遅くまでごめんね。終電の時間もあるだろうからもう帰らないとね」
「奏は終電大丈夫なのか?」
「私は家はこの近くだから心配いらないよ。それにまだドラムの練習をするし…。連れてきたのに見送りができないのは申し訳ないんだけど…」
「気にするな。駅までの道も覚えているから奏は練習に専念しろよ。そんで早く終わらせて早く寝ろ」
「ふふっ。分かったよ。じゃあ、学校終わったらそっちに行くから。また明日ね」
「ああ。また明日」
「……」
万理と千はそうしてスタジオを出て行った。