第二章 過去と今とこれからと
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「お待たせ。3Pバンドが入れるくらいの小さい箱が1時間後に開く予定だけど…」
しばらく時間が経って保留の音楽が解除され、実はスタジオの空き状況を奏に伝えた。
「…分かりました。2時間後くらいにそっちに行くのでその箱、一晩キープお願いできますか?必要ならお金も払います」
声こそ落ち着いていたが奏は実の言葉に内心安心した。
夜は比較的案件が落ち着いているとはいえ、実のスタジオはそこそこ人気がある。
昔はあの伝説のアイドル、ゼロのレコーディングも数曲だが担当をしたことがあるらしく、ロビーには有名アーティストからインディーズバンドまで様々な写真が並んでいたのを奏は知っていた。
そんな場所のスタジオが飛び込みで取れたのは運が良かったようだ。
「突然、当日に箱が欲しいなんて奏ちゃんにしては珍しいな」
「…音合わせしたいんです」
「!ははっ!」
奏の言葉に実は最初は驚いたが、すぐに笑い出した。
「そうか!分かった。入れておくな。金はいいよ。将来、お前らが有名になったら払ってくれ。それまではツケ貯めておくから」
「!実さん…」
実の何もかも察知した言葉に奏は驚いた。
「音合わせってことは音楽活動始めるんだろ?夢を掴めるチャンスなんだ。応援するよ」
その声はとても優しかった。
実は奏の夢を聞いたことがあった。
そして、奏が夢を諦めたことももちろん知っていた。
実は結婚はしているが妻は既に他界、子宝には恵まれなかった。
そのため、奏を本当の娘のように可愛がっていた。
音楽が大好きな彼女が音楽を我慢し、夢を諦めた日を…仕方がないと受け入れ、未来を諦めた微笑みは実は今でも昨日のことのように思い出せる。
いつもとさほど変わらないその微笑みは実から見て、とても痛々しかった。
1番の夢を諦めた奏のお願いを実はなんでも叶えてやった。
ドラムを教えることも、防音設備の整った部屋の一角を貸すことも、エンジニアとしてCD作成に協力することも、少しでも歌を歌いたいと時間を作ってボイストレーニングも付き合った。
作曲や楽器の練習に時間を忘れて没頭する奏に仕事の合間に食事の差し入れをすることも少なくなかった。
奏が今、夢への希望を見出し、また手を伸ばし、掴もうとしている。
そのことに実の胸はいっぱいだった。
気が早いと笑われるかもしれないが彼女がデビューして、夢を掴む日が今から楽しみで仕方ない。
それと同時に彼女に夢への希望を与えてくれたであろうメンバーに実は心から感謝した。
デビューするのは何年後になるだろうか?
1年、5年、10年…、それとももっと先だろうか?
いつになってもいい。
(でも、こいつの夢の先を見るまでは死ねないな…)
実の口元には喜びを隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「…ありがとうございます。実さん。いつも、部屋も貸してもらって…」
「あんな物置、仕事では使えないからいいっていいって。…お礼なら今度、お前らの曲、聞かせてくれよ」
その声は少しだけだが弾んでいたように奏は感じた。
「!分かりました。楽しみにしていてください!」
奏のその声は自信に満ちていた。
口には笑みも浮かんでいる。
いつも支えてくれている人が自分たちの曲を聞きたいと言っている。
ならばそれに応えたいと奏は思った。
「ああ!楽しみにしている。じゃあ、今日、待っているな」
そうして、実との通話は切れた。
通話の切れたスマホをポケットの中にしまいながら奏は千達の方を向いた。
「今日、いいよ。それと音合わせもしよう」
「スタジオとか言っていたけど、どっか借りたのか?」
「伯父がレコーディングスタジオの運営とエンジニアやってるの。さっき言っていた私の今までのCDがそこにあって、いつもそこで作曲作業もしているの。まあ、小さい物置みたいな部屋だけどね」
伯父がレコーディングスタジオを運営しているのは万理も知らなかったことであった。
奏がドラムを習っていたことは知っている万理であったが習っている相手のことは知らなかったのだ。
「そんなところに3人入れるのか?」
「大丈夫。そことは別の少し広めの部屋貸してもらえるようになったから。2時間後に部屋を取ったからファミレスでご飯でも食べて行こう?」
「……トキって何者?」
「家が音楽一家なだけだよ。だからそんな気にしないで。…さ、行こうか?」
千の問いをなんてことないようにサラッと答えて、電話をしていた時に帰宅準備の終わらせたであろう千たちを見た後、奏は控室を出た。