第二章 過去と今とこれからと
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「落ち着いたか?」
「うん。…ごめん。みっともないところ見せて」
奏はハンカチをしまいながら答える。
目も鼻もまだ赤いがとりあえず一旦は落ち着いたようだった。
「早速だけど奏、このあと時間あるか?時間があるなら打ち合わせをしたいんだけど…」
「大丈夫だよ。今日このあとは何も予定ないから」
「一晩で今日歌っていた曲、覚えて」
「千、そんな無茶な…」
今日Re:valeが歌っていたのは全部で4曲。
4曲を覚えるのは普通の人はかなりの時間がかかる。
流石の奏にも無理だ。と万理は説得をしようと試みるがそんな中、奏は口を開いた。
「…分かりました。明日までに叩き込みます」
それはまさかの了承の言葉。
その言葉に万理は目を見開く。
「!…本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫。弾いていれば身体が覚えるから覚えるまで弾けばいい」
「……徹夜して?」
「うん」
「…」
奏が即答したことに万理は不安そうな顔をする。
「大丈夫。徹夜なんて日常茶飯事だし」
その言葉に万理は眉を顰めた。
「いや、大丈夫じゃないし、日常茶飯事はダメだろ!ちゃんと寝ろ」
「…善処はする」
「そこはうんって言え!」
「痛っ!」
万理は奏の頭にチョップする。
奏は痛そうに頭を押さえた。
しかし、万理の意見はもっともな事なので奏は反論しなかった。
「あ、そういえば、ちゃんと自己紹介していませんでしたよね?」
そう言って奏は千に向き直る。
「改めまして、兆星奏です。万くんの幼馴染で歳は万くんの1つ下の16、高2です。これからよろしくお願いしますね、千さん」
奏は千に微笑みかけながら改めて自己紹介をした。
「……折笠千斗。同じ高2」
千はそれを見て少し沈黙した後、簡単にそう自己紹介をした。
(?!嘘、同い年…?見えなかった…)
奏はずっと年上だと思っていた千が同い年だと知り、心底驚いた。
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
奏は改めて千を見てみるがどう見ても同い年には見えなかった。
「あははっ!高2に見えないって顔に書いてあるぞ。奏」
「だって!絶対年上だと思ったんだもん!」
「まあ、分からなくも無いけどな」
他人から千も万理も既に大人…成人済に見られることが多い。
何度も見た光景に万理は苦笑いを零した。
「同い年か…。なら、敬語使う意味無いね。改めてよろしくね、千?千斗?」
「千でいい」
「分かった。千。私のことはトキとでも呼んで」
「トキ?」
万理は聞きなれない呼び名に首を傾げた。
「兆星からとってトキ。友達から付けてもらったあだ名でね、結構気に入っているの。それに本名で活動したくないし、呼び分けるのって面倒でしょ?」
「…分かった。トキ」
千はその理由に納得したのか素直にトキと奏を呼んだ。
「俺もそう呼んだほうがいいか?」
「それは万くんに任せるよ。ステージ上とかファンがいるところで口を滑らせないなら今までと同じでもいいし」
奏としても万理に今まで呼ばれていない名前で呼ばれるのは少し違和感があるため強制はしなかった。
「じゃあ、今更変えるのも慣れないから俺は今まで通りにするよ」
万理の返事に奏は、ん。と短く返事をした後、それでと話を変えた。
「私はベースをやった方がいいのかな?それともドラム?キーボードでもいいけどまずはどっちかが必要でしょ?」
まだ自分の担当楽器を聞いていなかった奏は2人に問いかけた。
「うーん…。ベーシストは募集かけているしドラムかな?」
「了解」
「キーボード?ベースとドラムの他にも何か弾けるのか?」
ベースとドラムしか弾いているところを見ていない千はもっともな質問を口にした。
「ギター歴13年、ピアノ歴12年、ドラム歴が8年。あとは打楽器は基本的に連符も叩けるかな?去年…というか中3の終わりからはヴァイオリンも始めて学校ではヴァイオリンのコースに通ってる。作曲とかは基本はシンセサイザーかギターでしてるって感じかな?ドラムとベース以外の実力が知りたいなら今度時間作ろうか?」
奏は淡々と自分ができることを千に伝える。
「今日は?」
「おい。これから打ち合わせするって言ったばっかだろうが…」
千の言葉に万理は呆れたように言う。
しかし、千が音楽にストイックで貪欲なことはいつものことだ。
奏の実力を早く知りたいのは当然のことだろう。
「…ちょっと待ってね」
千と万理の言葉を聞いた奏はすぐさまポケットからスマホを取り出し、電話をかけ始める。
万理と千は奏の意図が分からずに不思議そうに電話をかける奏を見ていた。
しばらくコール音がした後、もしもし。と奏の耳に通話相手の声が聞こえる。
それは低い男性の声だった。
「もしもし。実さん?」
奏が電話をしたのは伯父の実だった。
奏は実のスタジオに空きがあれば千が聞きたがっていた自分の他のCDを聞かせることも、音合わせも、打ち合わせもできる。
全てが解決すると思い至り、電話をしたのだった。
「奏ちゃんか?どうした?」
「今日、箱って空いてます?」
奏は慣れた様子で実に問いかける。
「…ちょっと確認するから待ってな」
「はい」
実に一旦通話を保留され、奏の耳には軽快な音楽が流れ始めた。
「珍しいな、当日に奏ちゃんからスタジオの問い合わせなんて」
突然かかってきた電話に実は電話を保留にし、受話器を一旦置くとパソコンでスタジオのスケジュールを管理している画面を開く。
そこには利用しているグループ名、利用時間帯、使用部屋などがズラッと記載されていた。
それを見てみれば、今の時間帯は3Pバンドが入れるような小さめの箱が1時間後くらいに空く予定になっていた。
奏はここに自分の部屋を持っている。
と言っても部屋と言っていいかは分からない物置だ。
アーティストに貸し出す用のギターアンプやドラム、木琴や鉄琴などの打楽器、さらにはパイプ椅子や譜面台などの備品もそこには置かれている。
奏の作業場所はそこの隅の一角であった。
奏は毎日のように実のスタジオに来てはヴァイオリンの練習か作曲をして夜遅くまたは明け方に帰るか、そこで文字通り24時間出てこないこともある。
レコーディングをきちんとし、CDを作る場合は部屋を取らなければならないがそうでもない限り部屋は使わない。
奏のレコーディングは全ての楽器を奏が弾くためそれなりに時間がかかるし、実の都合もある。
そのため事前に相談されていることが多いのだ。
当日にいきなり問い合わせがあるのはとても珍しいことだった。
そして確認が終わった実は受話器を取り直し、保留解除のボタンを押した。