第一章 スカウト
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奏が後ろの真ん中あたりに落ち着けるとちょうどあたりが暗くなり、音楽が変わる
(始まる…)
少しするとステージに2つの影が浮かび上がる。
その後、スポットライトに照らされて2人の顔がはっきり見えた。
「こんばんは。Re:valeです」
万理が挨拶をすれば万ー!千ー!と2人の名前を呼ぶ声がキャーキャーと四方から湧き上がる。
2人をそれぞれ見てみれば、万理は笑顔だが千はそんな声に耳も貸さずに澄ました顔でマイクの位置確認をしていた。
「今夜は楽しんでいこうぜ!」
その声と同時に千がイントロを弾き鳴らすが万理が煽った観客の歓声にかき消されて奏の耳には少ししか入らなかった。
しかし、それは少し聞いただけでも耳に残るものであった。
ドクンと胸が高鳴る。
(いい入り…)
ボーカル2人、ギターが2本。
今日は助っ人はいないのか2人以外の姿はステージ上に無かった。
ドラムがいないのにも関わらず、2人の演奏は少しもずれることがなくぴったり噛み合っていた。
ベースがいないため厚みは無かったがそれを抜きにしてもいい曲だと奏は感心した。
プロに比べたらまだまだな曲に技術。
だが、奏の胸にRe:valeの曲は強く刺さり、響いた。
まだ未完成。
それでこの完成度。
ここに自分が入ったらどうなるだろう?
聞いてみたい。
そんな欲求が奏の心に芽生えた。
この曲はもっと素晴らしい曲になる。
もっと上に行ける。
もっと輝ける。
彼らの曲をさらに輝かせる役割は…
「…私がいい」
(?!私、今なんて…?)
奏自身、自分から出た言葉に驚いた。
「ははっ…。心は正直か…」
奏の口から乾いた笑い声が漏れる。
その声は歓声にかき消され誰の耳にも届かない。
奏は自虐的な笑みを浮かべて胸を抑えた。
(万くんもバカだな…。身体がダメな、こんな不安定な人をグループに入れようとするなんて…)
入るべきではない。
私はいついなくなるか分からない。
彼らの今後を考えるならやめるべきだ。
そんなことは奏も痛いほど分かっている。
でも万理から言われた言葉は甘い誘惑だった。
出来損ないの身体。
それを承知の上で奏を勧誘した万理。
一度は諦めた夢を彼らとなら掴むことができるかもしれない。
(それに万くんに"入りたいと思ったら受ける"って言っちゃったもんね…。後で、返事しにいかないと…)
私をRe:valeのメンバーにして欲しい…と。
奏は心に決めて再びステージに視線を向けた。
(それにしても、少し失敗したかも)
遅く来たのもあって後ろの方に来た奏だが、後ろでは歓声もあって、やはりスピーカの近くよりかは曲が聞き取り難かった。
その割に後ろの方でも元々小さい箱だからかそれなりに演奏態度は見ることができた。
千はお客さんにそっけなく、ギターに、歌に、音楽に集中している。
それに対して万理は客席の観客にもサービスをして微笑みかける。
そんな対照的な2人だった。
しかし、後ろからしか分からないこともある。
それは観客の様子だった。
2人の歌に涙を流す人。
精一杯声援を送る人。
そして奏と同じように静かに聞いている人。
その全ての人に言えることはRe:valeの曲を楽しんでいることだった。
彼らたちは態度は違えども客はRe:valeが好きで、Re:valeの曲が好きなのだ。
本日の全てのスケジュールが終了後、観客はまだ冷めやらない様子でライブハウスを出て行く。
物販ブースには今日演奏されたCDが売っており、そちらに向かう人もちらほらいる。
そして、奏もそのうちの1人だった。
Re:valeのCDを葵と奏自身の分の2枚買って外に出て警備員に裏口を通してもらい、再度ライブハウスに入る。
奏は迷いなく、真っ直ぐに控え室へ足を進めた。