インターン編
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あの日のあいつはどこか違っていた。
明確にどこが違うのかと聞かれると回答に困るが、なんというか纏っている雰囲気が初めてあいつを見た時に似ている気がした。
そんな天野に話しかけ、こちらを向いた瞳に驚いた。
こちらを見つめるその瞳はなんの感情も読み取れない。
冷たい、昔のような瞳。
俺を見ているのに俺じゃない何かを見ている。
そんな瞳だ。
昨日までは普通だったはずだ。
正確には昨日、共有スペースで別れるまでは普通だったはずだ。
夜の間に何があったのか。
天野に聞いても本当に心当たりがないのかキョトンとした顔で首を傾げられた。
大丈夫、心配するなと言う天野に不安は拭いきれなかったものの、原因が分からない以上頷くしかなかった。
出る時間になったのか天野は荷物を持って玄関に向かう。
扉を開け、寮を出ようとする何故かその姿に言いようのない不安が湧き上がった。
どこも変わったとこなどない。
インターンに行く時のいつもの彼女の後ろ姿だ。
でも、この時だけは彼女がどこか手の届かないところに行ってしまうような漠然とした不安が湧き上がった。
困惑を滲ませた顔でこちらを見る天野。
もう行かないとと言う彼女に自分が腕を掴んで引き留めていたことに気がついて手を離した。
いつの間に、動いていたのだろうか。
引き留めるつもりは無かった。
天野を困らせるつもりなどなかった。
そう思いながらも、不安に駆られ、咄嗟に掴んでしまった自身の手を見つめた。
じゃあ、と。
今度こそ寮を出ていった彼女を見えなくなるまでずっと見つめていた。
その日は授業に身が入らなかった。
何をするにしても朝の事が脳裏に過ぎる。
集中をするのも大変だった。
そして、その日の夜。
明日の仮免補講のために早い時間に寝たからか夜に目が覚め、水を飲もうと下に降りた。
エレベーターから降りたと同時に目に入ったのは今帰ってきたと思われる天野の姿だった。
話をしていると鉄錆のような……血の匂いが天野から微かにした。
怪我をしたのかと聞けば、してないという。
もう一度気にかけてみてもももう匂いはしなかった。
天野にも気のせいだと言われて、そうかもしれないと思い、特に追求はしなかった。
おやすみと背を向ける天野を見送る。
エレベーターのボタンを押し、上行きのエレベーターが到着する。
扉開き、光が差す。
天野がエレベーターの中へと足を進める。
彼女の髪が揺れ、一本の赤く染まった髪が見えた。
白銀の髪によく目立つ一筋の赤。
それと同時に首裏に赤いものが見え、再び血の匂いが薫った。
それを見て何も無かったのだと片付けられる程、俺は鈍く無かった。
どこかを負傷したのかもしれない。
そんな考えが頭を過り、天野を呼び止め、腕を掴んで引き戻す。
その瞬間、こちらを振り向き触れた場所を見た天野の顔色がサアッと青くなっていき、手を振り解かれた。
今日の朝は特に何も無かったし、以前触れた時も拒絶はされなかったから振り解かれたことに驚いた。
それと共に拒絶されたという事実に胸がズキンと痛む。
嫌だったか?と聞けば彼女は少し沈黙した後に、肯定も否定もせず、今後は私に触れるなと言ってきた。
何故かと問えば、彼女は俺に汚れが移ると言った。
その言葉の意味が分からなかった。
彼女の手は汚れてなんかいない。
現に俺の手は汚れていない。
普通の手だ。
そうして天野に向けて手を見せても彼女は首を振り、主張は変わらなかった。
「……私は汚れている。血の匂いがするのもそのせいだよ」
そう言った天野の瞳は間違えるはずもない。
あの夕暮れで見た瞳と同じ瞳をしていた。
影を落としたあの瞳だ。
言葉の意味とどうしてそんな顔をするのかが分からなくて、どういうことだと聞くと共に彼女は逃げるようにエレベーターに乗り込み、行ってしまった。
しばらく頭の中に彼女の表情と言葉、そして一瞬見えた赤色がループする。
結局、呼び止めた原因である赤色に関しても分からずじまいだ。
前はあんなこと言っていなかった。
1日で一体何があったのか。
インターン先で何があったのか。
何も分からない。
彼女のことを理解したいと思うのに、何も話してもらえない。
俺には話せないことなのか。
俺じゃ力になれないのか。
救いたいと思うのに救わせてくれない彼女に少し怒りが湧き上がる。
あんな顔をさせたくない。
あいつが笑った顔が見たい。
あの、本心を吐露してくれた夜のように幸せそうに、楽しそうに、安心したように微笑む天野が見たい。
あんな暗い瞳じゃなく、輝く瞳が俺は見たいんだ。
そして、欲を言うのであれば俺を受け入れてほしい。
触れないで、なんて無理な相談だ。
心は渇望しているというのに。
必死にいつも押さえ込んでいるというのに。
本当は手を握りたいし、抱きしめたいし、髪や頬にだって触れたい。
それにあの柔らかそうな唇にだって……。
天野は嫌かという質問には答えなかった。
それは都合よく解釈してしまおう。
嫌じゃないのならやめるつもりはない。
天野は触れられることを恐れている。
汚れてしまうと言っていた。
あいつに何が見えているのかは知らないが、その根幹にあるのは恐らくあいつ自身が抱えている闇だろう。
絶対に本心を聞き出してみせる。
あいつが拒絶しようとも救い出してみせる。
そう決心して水を飲むと自室に戻った。