仮免許試験編
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控室は大きな部屋でテーブルや椅子があり、ドリンクや軽食が置いてある。
誰もいない控え室の椅子に腰掛け、ドリンクを飲みながら時間を待つことにする。
暇を持て余していると控室のドアが開いた。
目を向ければそこにいたのは、先程の苦手意識を持ったばかりの夜嵐だった。
どうやらあの竜巻は彼の仕業、つまり彼の個性は風系ということだろう。
「あんたは!」
「夜嵐イナサ……」
「もう通過してたんすね!凄いっス!」
「あ、えっと……」
「綺麗で強い!やっぱりあんた凄いっス!体育祭の時も正々堂々してましたし、胸が熱くなったっス!」
「ちょ、手離して……」
手を握られブンブンと振り回される。
突然のことにビクッと肩が跳ねた。
肩がもげそうだ。
そして早く手を離して欲しい。
「天野奏さん!」
「は、はい?」
「俺と結婚を前提にお付き合いして下さい!!」
「え」
いきなり言われた言葉に頭が「?」でいっぱいになる。
付き合う。
知識としては知っている。
好意を持った物同士が想いを通わせ、交際をすること。
結婚をする前段階、つまり特別な関係というやつだ。
あったばかりの人とそんなこと考えられない。
それに、私は今後誰とも付き合うつもりはない。
「ダメっスか?」
「ダメというか……、ごめんなさい。私、今後誰ともお付き合いするつもりは無いの」
「どうしてっスか?」
「……理由は話せない。とりあえずごめんなさい」
少し乱暴かと思ったが手を振り解いて夜嵐と距離をとる。
彼は事情を分かってくれたのか、私を追うようなことはせず、1人にしてくれた。
そのことに少し安心した。
私の将来は既にレールがひかれており、決まっている。
それに逆らうことは死を意味する。
ステラさんがどれだけ私を自由にしようとしてくれようとしても上は私を解放することを良しとしないだろう。
今こうして学校に通っているのは仮免許そして、ヒーロー免許を取る必要があることに加え、ステラさんからの進めがあったからだ。
血塗れの道を歩むことは既に決まっていることだ。
それに誰も付き合わせる気はない。
誰にも一緒に背負ってもらうつもりもない。
そっと存在を確かめるように自分のチョーカーに触れた。
冷たくて硬い首輪。
私の命を握る首輪だ。
それに……
(知られたくない……)
私の罪のこと。
黒い血が流れる私自身のこと。
過去は消せるものではないが、本当は全て無かったことになったら良かったのに。
轟に話したことは私の一部にすぎない。
根幹には触れていない。
知られてしまってもし、否定されてしまったら。
拒まれてしまったらと思うと怖くなる。
でも、否定された方がいいのだと思う。
肯定は普通の人はしないだろう。
自分でもこんな汚れた存在を許さないで欲しいと思う。
否定されたくない、でも肯定もしないでほしい。
矛盾した気持ちだ。
前までこんな気持ちになることはなかったのに、普通を知って感情を知ったからこそ、過去の異常だった自分が今の自分を苦しめる。
そばにいなければ否定も肯定もされることはない。
だから、誰の側にもいないことを私は選ぶ。
それに、私なんかと生涯を共にするなんてその人が不幸になるだけだ。
「……ぃ、おい!天野!」
「え、あ、と、とどろき……?」
「どうした?手、力入りすぎだ。血が出るぞ」
先程まではいなかったはずの轟が目の前にいる。
周りを見てみれば夜嵐と自分しかいなかったはずの控室にはかなりの人がいた。
どうやら随分時間が経ったようだ。
轟も試験を通過できたのだろう。
轟の言葉に自身の手を見てみれば爪が食い込んでおり、意識するのと同時にじわじわと痛みが走る。
自分の拳を解き、手を見つめる。
その手が一瞬血に染まった気がした。
「!あ、だ、大丈夫……。心配しないで……」
「本当か?顔色が悪いぞ。何かあったか?」
「……本当に、大丈夫だから……」
「……そうか、分かった。話したくないなら無理に話さなくていい。話したくなったら話してくれ」
「……うん。ありがとう」
轟は無理に詮索しようとはせずに私の隣に腰を下ろした。
近くにいるのに遠い。
そんな気がして胸がズキンと傷んだ。