寮生活編
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その後、なんとか天野、そして転送されてきた爆豪を救出することに成功した。
オールマイトがヴィランを倒し、緑谷たちと合流した時、天野は先程泣いた影響か、目元が赤かった。
警察に爆豪と天野を送り届けたがその間に口を開く者はいなかった。
「……天野さん、お辛い過去を過ごされていたんですね……」
「感情が出にくいとは思っていたが、幼少期の影響だったんだな……」
「……最近は天野さんだって雰囲気柔らかくなってきたんだからきっと大丈夫だよ!」
「!……そうですわよね!天野さん、この前笑っていましたもの!少しずついい方向に変わってきているのだと私は信じていますわ!」
「俺も!」
「ああ!そうだな!」
警察からの帰り道、最初に口を開いたのは八百万だった。
垣間見えた天野の過去。
その衝撃に皆それぞれ暗い顔をしていたが緑谷の一言で明るさが戻った。
そして、問い詰めたりすることはせず、話してくれるのを待とうという話に落ち着いた。
だが、欲望とは難儀なもので俺の中では天野のことをもっと知りたいという欲がどんどん強くなった。
過去も現在もどんな天野のことも知りたいと思う。
自分はからっぽだと言った彼女にからっぽなんじゃないと伝えたかった。
だが、それは天野の過去に再び触れるということだ。
緑谷たちと決めた手前少しは我慢しようとした。
しかし、数日経ってもその気持ちは冷めるどころかどんどん増していって色々なことが身が入らなくなった。
特訓中にエクトプラズムからも指摘される始末だった。
これはもうダメだと思い、思い切って天野に聞くことにした。
就寝前、天野を探して部屋を訪ねるも部屋に天野はいなかった。
同じフロアの耳郎に聞くかと思い部屋を後にしようとした時、窓から外の木に背中を預け月を見上げる天野がいた。
目的の人物を見つけ、エレベーターを降りる。
外に出ればまだ夏だからか夜でも少し暑い。
目的の場所に行けば彼女は変わらずに月を見上げていた。
月光に照らされて煌めく銀の髪が風に吹かれて揺れる。
髪の間から覗く、夜を写し取ったような色違いの瞳には空虚さはなく、月光によって宝石のように煌めいていた。
夏だからかキャミソールにショートパンツ、そして、外だからか薄手のパーカーを羽織っていたが、スラリと短パンから伸びた綺麗な足や惜しげもなく出された胸元や首筋を伝う一筋の髪なんかが色っぽく、少し目に毒だ。
触れたいという気持ちが湧き上がるも、今はダメだと邪な気持ちを振り払うように頭を振った。
一歩近づけば、音に気が付いたのか彼女はこちらに視線を落とした。
いつかと同じように木の上に上がらせてもらい、隣に腰掛ける。
肩が触れそうな距離に心臓が高鳴る。
お風呂上がりだからかシャンプーの良い匂いが風に乗って鼻腔をくすぐる。
先程振り払った気持ちが再度湧き上がるも、なんとか鎮めて、平静を装って話しかけた。
少し雑談をしてから本題に入る。
俺の問いに少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
自分を器だという彼女。
頼むからそんな風に言わないで欲しい。
言葉を紡ぐたび彼女の瞳から煌めきが消えていく。
自分で自分を傷つけている。
そんな姿に心が張り裂けそうだった。
俺の知っている天野奏は人のことを考え、誰かのために動ける人だ。
殺人の道具なんかじゃねぇ。
俺のことを導いてくれた。
暗闇を静かに照らす月のような人間だ。
その思いを伝えれば彼女は目を見開いて数秒固まった。
そして不安そうに視線を彷徨わせた。
その姿は迷子の子供のようだ。
何か不安なことがあっただろうか?
もしや、意図しない形で天野に伝わってしまっただろうか。
少し不安になりつつも、次に彼女から出た言葉は意外なものだった。
「……本当に、そう、なのかな……」
そう言った彼女の声は少し震えていた。
どういうことだと問えば彼女は更に話をしてくれた。
ヒーローになるということすら人による命令だということ。
その際に徹底的にヒーローの在り方を教わったこと。
それまで、彼女はあのヴィランが言っていたようにオールマイトを殺すことを目標に死を救済と考え、生きてきたのだろう。
助けられたと思ったら今度はヒーローになれと言われ、真逆の思考に矯正させられた。
悪だと思っていたものが世界的には正しいことだった。
信じていたものが壊される。
その時の彼女の世界の移り変わりや心境は俺には測り知れない。
だが、恐らくとても辛かったのではないかと思う。
彼女は一度自身を否定されて、粉々に砕けてしまった。
更にこれまで彼女は他人に人生の主導権を握られ、それに従って生きてきた。
だから彼女は自分の思考や感情に自信が持てないのだろう。
自分が分からない。
怖いと溢した彼女の手はカタカタと震えていた。
その震えを止めたくて小さな手にそっと触れた。
彼女の手はとても小さくてすっぽり自身の手に収まってしまう。
柔らかくて小さい。
力を入れれば折れてしまいそうなほどの華奢な手。
それでも何か武器を扱ったことがあるのか所々固さがある。
強い彼女らしい手だ。
突然の感覚に天野はビクッと肩を跳ねさせ、こちらに視線を移す。
その瞳には困惑、不安、怯えがはっきり見てとれた。
そんな彼女を今度は俺が導きたい。
彼女が俺を導いてくれたように。
天野に届くようにしっかりと目を見て真剣に自分の想いを告げた。
思考や気持ちの元となる知識は確かに人から教えてもらうものだ。
でも、それを感じるのは自分自身で自分自身が感じたものは自分のものだ。
緑谷が言っていた自分の力。
それと同じことだ。
他の人から与えられたものでも今は自分のものなのだ。
どう感じるか、どう使うかは自分次第。
彼女は今どう思っているのか。
それは彼女だけのものだ。
俺の問いに彼女は勇気を振り絞るように唇を震わせて小さく言葉を吐き出した。
ヒーローになりたい。
それが彼女の気持ちだった。
(ちゃんと、自分の考え持ってるじゃねぇか……)
この姿を見て誰が殺人の道具だと思うか。
彼女は立派な1人の人間だ。
ヒーローに憧れ、自分もそうなりたいという願いを持ち、そのために努力する普通の人間だ。
その思考や気持ちは間違いなんかじゃない。
お前のものだと伝えれば彼女は涙をポロポロ溢していた。
この前も泣いていたし、案外泣き虫なのかもしれない。
だが、それも数秒、彼女は涙を拭い優しく微笑んだ。
「轟は私のヒーローだ」
その言葉を嬉しいと思うと共に彼女の綻ぶような微笑みに心臓がドクンと音を立てる。
今まで我慢していた分、抑えが効かなくて衝動に任せて彼女を抱きしめていた。
柔らかい身体。
目の前にある髪から一層シャンプーの良い匂いが香ると共に彼女自身の香りか、仄かに甘い匂いを感じた。
彼女の戸惑う声が聞こえる。
いきなりのことに身を固くしているのが分かる。
少しだけこのままでいたいと言えば、彼女は短い了承の返事と共にゆっくりと力を抜いた。
拒否されなかったことと受け入れられたことに対する喜びが心を満たす。
本当はもっと色々なところに触れたかった。
柔らかそうな髪にも。
スラっと伸びた陶器のように白い綺麗な足にも。
熟れた林檎のような真っ赤な唇にも。
このまま自分のものにしてしまいたかった。
しかし、まだ俺は気持ちを伝えられていない。
それに、彼女は今弱っていたのだ。
伝えるのは今じゃない。
そうして今ある理性を必死にかき集めて欲を鎮めた。
今は一旦この腕の中にある温もりを堪能することにしよう。
そうして彼女の存在を感じるように少しだけ腕に力を込めた。