寮生活編
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林間合宿の際、女子風呂の方から天野が笑ったとはしゃぐ声を聞いて羨ましくなった。
その前の会話も少し気になったところだったが、色々と危なかったので頭を振って煩悩を消した。
体育祭であいつは自分のことをからっぽの人間だと言っていたがそんなことはないだろう。
からっぽのやつからあんな励ましのような言葉は出てこないはずだ。
だからこそ、いつも考えていた。
彼女がそこまで言う理由を。
彼女の瞳にあんな影を落としたものの正体を。
あの小さな身体の中に抱え込んでいるものを知りたかった。
自分はまだ彼女のことを全然知らない。
彼女はどんな顔で笑うんだろうか。
いつも変わらない表情だが、バスの時、俺の言葉に少しだけあいつの揺らぎを見れた気がした。
それが少しだけ嬉しかった。
だが、クラスの女子勢は彼女の笑顔を見たという。
俺もいつか、あいつが自然に笑うところを見てみたい。
そんな欲望が胸の中に沸いた。
そして、その翌々日、あいつはヴィランに連れ去られた。
俺があの時、掴みきれなかったばかりに。
こちらを見て、来るなと叫んだ彼女の顔は忘れられない。
珍しく焦った表情をして普段荒げない声をあげてこちらを見ていた。
彼女がワープに吸い込まれたのがやけにゆっくりに見えた。
目の前で天野と爆豪を連れ去られて、自分の無力さに嫌気が差した。
ヴィランに対して防戦一方だった。
もっと強くなりたい。
どんなものでも守れるように強く。
喪失感と悔しさにギュッと拳を握りしめた。
爆豪と天野。
あいつらの無事に祈るしかできないと思っていたが、八百万の発信機が細い細い糸となって可能性を繋いでくれていた。
そのことが分かって助けに行かないなんて選択肢は無かった。
保須事件の時と少し形は違えど同じことを繰り返そうとしている。
それでも、じっとなんてしてられなかった。
八百万の発信機を使ってたどり着いたのは一見人の気配を感じない廃倉庫。
そこで俺は思い悩んでいたことの答えを思わぬ形で知ることとなった。
圧倒的な力を持つヴィラン。
そしてプロヒーローステラから語られた天野の境遇を。
あのヴィランが言葉を紡ぐたびに天野の瞳に影が落ちていっていた。
あの夕暮れの中で見たあの瞳と同じ瞳だ。
深淵のような闇に輝く黄金が沈んでいく。
夜が深くなっていった。
オールマイトを殺す。
そのために彼女は生まれた。
死は救済。
人助けをするヒーローとは真逆のことを教えられ、意思も感情も欲望も抱かないよう育てられた、殺すための道具。
それが天野奏という人だという。
その話を聞いて沸々と怒りが湧いた。
ステラの言う通りだ。
自分の人生は自分のものだ。
他人に思うように操作されていいものじゃない。
自分には母がいた。
だから、心の拠り所があった。
兄弟がいた。
だから、自分のされていることの異常さが分かった。
でも、恐らく天野には何もなかったのだ。
拠り所も異常だと分かるきっかけも。
異常だと思わないように外界と隔離されてきた。
純粋無垢な白はそうして徐々に黒に染められていった。
そうしてあの人形のような彼女ができたのだろう。
そんな彼女をステラが助けた。
そして今あいつはここにいるのだろう。
ステラの言葉が心に響いたのか、震えるか細い声が、しゃくりあげる声が聞こえた。
あの天野が泣いている。
あの、感情を表に出さない天野が。
側に行きたかったが無闇に飛び出すわけにはいかない。
自分を必死に押さえ込んだ。