寮生活編
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最初に彼女を見た時、時が止まった気がした。
入学初日。
誰とも話す気のなかった俺は自分の席で暇を持て余していた。
その時、ガラリと教室のドアが開く。
それと同時にそれまで談笑をしていた生徒たちの声が止まった。
原因と思われる方を見ればそこにいたのは1人の女生徒だった。
長い白銀の髪。
感情の抜け落ちた無表情な顔。
左右で色の違う瞳からも感情は何も感じられない。
精巧に作られた人形のような美しさと共にどこかゾワッとする恐ろしさがある。
氷のような冷たい雰囲気を纏わせ、彼女は座席の書かれたプリントを見ると集まる視線を気にすることなく静かに席に座った。
彼女が席に着くまで声を出すものは誰もいなかった。
まるで彼女以外の時が止まってしまったかのように。
それは自分も例外ではなかった。
彼女の持つ雰囲気に魅入られていた。
そして、その後の個性把握テストで俺は彼女に興味を抱くこととなった。
彼女は風の個性を使い、次々と好記録を出していった。
それと同時にハンドボール投げの際に麗日と同じ記録を出したことで重力関係の個性も使っていることが分かった。
その姿を見て同じ複数の個性持ちなのではないかと思った。
そこからことあるごとに彼女を見ていたように思う。
見ないように意識をしても無意識に視線は彼女を追っていてもうダメだと諦めた。
他人と話している時でも、実技をこなす時も、表情は変わらなかった。
夜の闇と月の輝きを閉じこめたような紫と金の瞳はいつでも変わらずに空虚だった。
先生に指名されても物事を淡々とこなすその姿はまるで物語に出てくる主人の言うことを忠実にこなすアンドロイドのようだとも思った。
造り物のような美しさもその要因のひとつだろう。
彼女も俺が見ていることに気が付いていたようだったが興味がないのか何も言ってこなかった。
そしてUSJ事件の時……。
「尾白は火災エリアにいたんだよね?」
「うん。天野と一緒だったよ。もう凄かった。風の個性かと思っていたけど一瞬で水の矢を作り出して次々とヴィランたちを討ち取っていってたよ。僕は見てるだけだった……」
「そんな凄かったんだ……」
他のクラスメイトが話しているのを聞いて、風と重力以外にも水を操られることを知った。
話題に上がっている本人は疲れた様子もなく、興味のなさそうに1人佇んでいた。
風と水と重力。
個性の派生として片付けられない範囲だ。
そこからひとつの考えが浮かび上がった。
あいつは俺と同じ個性婚なんじゃないかと。
そして、あの体育祭の時、彼女に初めて話しかけた。
俺からの質問を肯定した彼女の瞳や表情は変わらなかった。
俺のような憎しみなんてものは微塵もないようだった。
彼女も両親の好きにされるために生まれてきたようなものだ。
自分の意思ではないものを背負わされて辛くないのか?憎くないのか?と思った。
似ていると思った人は俺とは全く違う人だった。
そのことを少し残念に思った。
そして、彼女との試合。
勝った後、倒れる彼女を受け止めて衝撃が走った。
冷え切った小さい身体。
自分の熱を分け与えるように抱きしめれば自分とは違う柔らかさを感じた。
彼女に熱を分け与えながら、あんな言葉を言うのかとも少なからず驚いた。
何も感じていないような顔をしながら夜を照らす月のように俺を照らして、導いてくれた。
腕の中の彼女は熱に縋るように俺の胸に頬を寄せてきた。
その姿にどうしようもなく胸が高鳴った。
表彰式後、あの言葉の意味を聞きたくて足早に教室を後にする彼女を追った。
「……私はからっぽの人間だから」
そう言った彼女の瞳には黒い影が差しているようだった。
彼女をそんな顔にさせるその正体を知りたくて、意味を聞こうとすれば、逃げるように夕焼けの空に飛んでいってしまった。
拒絶されたようで少し胸が痛むと同時に、その後ろ姿が消えてしまいそうで無意識に一歩足が踏み出ていた。
あいつが見えなくなるまでずっとその背中を見ていた。