寮生活編
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寮生活が始まって数日。
試験に向けて必殺技の考案と個性伸ばしをしながら皆日々を過ごしていた。
授業も終わり、夜、寮で皆が思い思いに過ごしている。
私はというと1人寮を出て、近くの木の枝に腰掛け月光浴をしていた。
今日は満月。
空に君臨する黄金は心なしかいつもより煌めいて見えた。
森林浴や月光浴は好きだ。
時折来る風を感じながらエネルギーが身体を巡る感覚が気持ちがいい。
ボーッと月を見上げているとカサリと草を踏む音がする。
振り返ればそこには何か言いたげにこちらを見上げる轟の姿があった。
「天野、こんなとこにいたのか」
「轟……」
「ちょっと話したいことがある。……いいか?」
「……うん。……とりあえず、こっち来なよ」
「!あ、ああ」
いつかと同じように指を上にクイっとあげて風を発生させ、轟をゆっくりと浮かして木の上に招待する。
前とは違い、彼はそっと隣に座った。
「あの時と似てるな」
「そうだね」
「あの時も木の上にいたな。好きなのか?」
「うん。身体を巡るエネルギーが心地いいの」
「……飯とかのエネルギーってことか?」
「……違うよ。私の個性は天候エネルギー……要は風とか太陽の光とか月の光とかを身体の中で変換して力にする個性だから。この力がないと私は天元の力を使えないの」
「なるほどな。扱える力は俺と同じでも根本は全然違うんだな……」
彼は興味深そうに私をじっと見つめる。
月の光が降り注いで、じっとこちらを見つめる彼の青い瞳が水面を反射するように淡く光って見えた。
じっと見られるのは苦手だ。
奥の奥まで見透かされて、見せたくないものまで見られてしまう気がするから。
私はその視線から逃げるように目を逸らした。
すると轟がスウッと息を吸う音が聞こえた。
「……林間合宿のバスでも言ったが、俺はあの時のお前の言葉に救われた。でも、同時に違和感もあった。頼ればいいと言ったくせに自分の名前は入ってなかった」
「……」
「それが気になって、俺は帰りにお前に意味を尋ねた。その時、お前は「自分はからっぽの人間だから力になれない。」って言った。その時は意味が分からなかった。俺から見たお前はそんなように見えなかったから。……でも、その答えがあいつらが言っていたことなんだろ?」
「……」
いきなり話が変わったかと思えば、体育祭の時の私の言葉をかなり気にしていたようだ。
私の答えを待つように轟がじっとこちらを見ているのを感じる。
はっきり覚えている。
体育祭の帰り、私は轟に質問をされて曖昧に答えて逃げた。
何故ならそのことを話すなら過去の話は避けられない。
過去の話をするのは上の人からあまりいい顔をされないからできるなら黙っておきたかった。
でも、恐らくもう聞かれてしまった。
なら、黙っていても仕方ないだろう。
「……そうだよ。私は両親の個性をひとつに留めておくために造られたただの器。意思も感情も欲望もないからっぽの器。そんなやつが感情の葛藤を察せるはずがない。だから、私はあの時、力になれないって言ったの」
「……じゃあ、なんで俺にあの言葉を言ったんだ」
「!」
「あれはお前が感じてお前の意思で言ったんじゃねぇのか?見て見ぬ振りもできたはずなのにお前は俺に言った。迷っている俺を導いてくれた。それはお前が考えて実行したことだろ。意思があるってことだろ。保須の時もそうだ。俺たちのところに駆けつけてくれた。それもお前が俺たちを心配してくれたからだろ?お前はからっぽなんかじゃねぇ。ちゃんと人のことを考えられるやつだ」
確かに言った。
ハルカさんに頼んで駆けつけた。
でも、それは本当に私の意思なのだろうか……?
……分からなかった。
「……本当に、そう、なのかな……」
「?どういう意味だ?」
「……私はヒーローになりたくてヒーローを目指しているわけじゃない。ある人からの命令で仕方なくヒーローを目指している。ヒーローになれと言われたその時に徹底的にヒーローというものの在り方を教わった。困っている人を導く。人を助ける。そうあれと言われた。その時、私の中の考えは180°変わった。まるで今までのデータを削除して新しいデータを読み込んだように。……思考すら、憧れすらヒーローになるために埋め込まれたもので自分の意思や気持ちじゃないような気がして……。そうあれと願われたからそうしている気がして……。自分が分からない……。……怖い……」
そう、怖い。
怖いんだ。
他人に言われることしかしてこなかった。
だから、今、自分の意思で動いているのかどうかも分からない。
自分で決めたことかどうかも分からない。
自分が本来どんな人なのかが分からない。
ステラさんは私の本来の姿を思い出させてくれようとしていた。
でも、ステラさんに話したように私は彼女と向き合えていなかった。
その機会を自分で捨てていた。
だから、私は今でも自分のことが分からないままだ。
すると、唐突に手に何かが触れた。
手元を見れば轟が私の手を握っている。
優しく包み込むように握られた手からは暖かさと冷たさが同時に伝わってくる。
自分とは違う大きな手は私の手をすっぽりと包み込んでいた。
私は驚いて思わず轟の方を見た。
まっすぐな瞳がこちらを見つめている。
じっと見られるのが苦手なはずなのに、今度は不思議と目を逸らせなかった。
「思考や気持ちを人が操作できるわけねぇ。その時、感じたこと、考えたことはお前のものだ。確かに根本は教えられたことかもしれない。でも、それをどう感じるか、どう使うかはお前次第だ。お前はどうしたいんだ?」
諭すような声色。
言ってみろ?とでも言いたげな優しい甘さを含んだ声に導かれて、震える唇を開いた。
「……雄英に入ってヒーローがどれだけ凄いのかわかった。命を賭して誰かを助ける、守るヒーローはとてもかっこよくて、私もそうなりたいって思った……」
「それはお前の気持ちだ。確かに最初は目指していなかったのかもしれねぇ。でも、今のお前ははっきりと思っている。ヒーローになりてぇって。誰にも操作できない、お前の意思で。命令されたやつの思惑通りなのかもしれねぇが、そんなの関係ねぇ。お前の意思でお前のやりたいこと……ヒーローを目指せばいいんだ」
「……っ、轟……ありがとう……っ」
轟の言葉に自身の心が満たされていくのを感じる。
不安がなくなっていくのが分かる。
心があったかい。
ちゃんと自分の意思なのだ。
自分の気持ちなのだ。
私はもうロボットじゃない。
ちゃんとした人間になれたんだ。
いや、最初から人間だったのかもしれない。
私がそう思い込んでいただけで。
気がつかせてくれた轟には感謝しかない。
「轟は私のヒーローだ」
その言葉に轟は嬉しそうに微笑む。
そして、次の瞬間、フワッと優しく抱きしめられた。
「え、あ、あの……、轟……?」
「……わりぃ……。少しだけこのまま。……いいか……?」
「……うん」
少し混乱しながらも、全身を包む体温が心地いい。
心臓が早くなるのを感じながら、私は委ねるように目を閉じた。