神野事件編
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あの後、私と爆豪は警察に連れていかれた。
道すがら恐らく先生とステラさんの会話を聞いていたであろう爆豪を除いた皆から視線を感じたが外で話せることではないため無言を貫いた。
警察の人には関係性などを聞かれたが両親の知り合いで幼少期にあったことがあるだけのため正直にそれを伝えれば、帰宅することができた。
そして、その翌日、私はステラさんの事務所を尋ねた。
「珍しいね。奏ちゃんから尋ねてくるなんて」
「……怪我大丈夫ですか?」
「ああ、なんともないって。この包帯も大袈裟なだけだよ」
この前と同じ応接室に通され、お茶を出される。
ステラさんの頭には包帯が巻かれていた。
頭から血が出ていたからどこか切ったのかしたのだろう。
しかし、見た目よりも症状は軽いようで安心した。
「よかったです……」
「奏ちゃんこそ、怪我はない?」
「はい。ステラさんたちのおかげです」
「お礼ならリキッドとヒカルにいいな。私は何もできてないよ……」
ステラさんは下を向いて困ったように微笑んだ。
その顔を見て胸が苦しくなった。
この感情はなんて言うんだっけ?
分からないけど、そんな顔をさせた数秒前の自分を今すぐ殴りたいと思った。
恐らくステラさんは自分の無力さを悔いているのだろう。
ステラさんの個性はどちらかというとサポート特化の個性だ。
攻撃できるのが自身での物理攻撃しかない以上、物理攻撃が効かない相手にはなす術もない。
更に、ステラさんは女。
パワーに関してもそこら辺の男には劣ってしまう。
だから、彼女自身、対戦闘となると少し厳しいところがあるのも事実だ。
「誰がなんと言おうと、ステラさんがヴィランと戦ってくれていたから私たちはあの時脱出できたんです。ありがとうございます」
「!……どういたしまして」
頭の下げた私にステラさんの表情は分からなかったが、柔らかい声色に安心した。
顔を上げれば先程のような曇った表情は消え失せていた。
「……それと、もう1つ。私、ステラさんに謝らないといけないことがあるんです」
「謝らないといけないこと?」
彼女はなんのことだ?と言いたげに先程とは打って変わったキョトンとした顔で私を見つめた。
改めてこういう話をするのは緊張する。
1つ深呼吸をすると私は口を開いた。
「……ステラさんが私のことあんな風に思っているって知らなくて、ずっと上からの指示なんじゃないかって思っていました。私は社会の常識と反対のことを教え込まれたロボットだから、正しい思考に、人間に矯正しなければならない。だから私の世話をしてくれているんだと」
「……」
「あなたがくれる優しさも、気遣いも、温もりも全部私を矯正するための偽物だと思っていました。でも、そうじゃなかった……。政府にとっては言うことを聞くロボットの方がいいはずなんです。意思を持つよりも自身の言うことを聞いてくれる道具の方がいいはずなんです。少し考えれば分かることなのに私は考えようとしなかった!あなたが政府の役人だからと政府の他の人たちや両親と同じ人と決めつけて、同じ目で見ていた……!!ごめんなさい……!!」
ポロポロと涙が溢れる。
ステラさんが私に注いできてくれた優しさをどれだけ無下にしてきただろう。
偽物だと切り捨ててきただろう。
そして恐らくだが、彼女にそれは伝わっていたと思う。
注いでも注いでも伝わらない虚しさがあっただろう。
しかし、彼女は決して自身の潔白さを主張したりしなかった。
「……私が国の役人であることは事実だ。同じ目で見られても仕方ないさ。それに、伝わらなくてもいいと思っていたんだ」
「え……」
最初は真面目な顔をして話していたステラさんが綻ぶように笑った。
思ってもいなかった言葉にポロッと声が漏れた。
伝わって欲しいから伝え続けるのだろう。
そう思っていた。
でも、ステラさんは伝わらなくても良かったという。
それはどういうことなのだろう。
「私は別に見返りが欲しくて奏の世話を焼いたんじゃない。私自身のことは警戒していても、ゆっくりと感情を取り戻して、したいことをして幸せな未来を歩むことができればいい。その時、私はきみのそばにいなくてもいい。欲を言うなら少し遠くから見守れればいい。そう思っていたんだ。つまり、私の一方的な願いというわけだ。だからきみにどう思われようと私は私のしたいことをしていただけさ」
「どうして、そこまで……。次期に一緒に仕事をする仲間だとしても私は赤の他人ですよ?」
「血の繋がりなんて関係ないよ。きみは私の大切な子になったんだ。……上からはヒーローが悪である。死は救済である。この2点の思考改善だけを要求された。主人に従順であるその姿勢はそのままに、思考を変えるだけで意のままに動く強いヒーローを政府は手に入れることができる。それが上の計画だった。でも、私は納得ができなかった。私たちが許されていることをなぜこの子は教えてもらえないのか。なぜ、自分自身の幸せのために生きてはいけないのか。他人が主導を握る人生。そんな道を一生この子に歩ませるのか。それが私は耐えられなくてきみ自身を大切にしたいと思ったんだ。……ああ、また泣いて。ほらほら、泣かないの。きみは案外泣き虫だったんだな」
「うぅ……すい、ま、せん……」
ステラさんの気持ちを聞いてまた、涙が溢れてきた。
ずっと自分の価値は個性だけだと思っていた。
でも、私自身のことを思ってくれる人がいる。
そのことがとても嬉しかった。
向かいに座っていたステラさんが私の隣に腰を下ろす。
ハンカチで涙を拭って、子供をあやすかのように頭を撫でた。
「ステラさん……」
「ん?」
「嬉しい時にも涙って出るんですね……」
「!……ああ、そうさ。胸に収まりきらない嬉しさが涙になるんだ。幸せな証拠さ」
そう言ってステラさんは私を抱きしめた。