神野事件編
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「っ!」
目を覚まして最初に見えたのは天井だった。
次に覚醒した耳からは機械の駆動音が僅かに聞こえてくる。
周りを見渡してみれば雑多にものが置かれている。
使用されている痕跡もないため廃倉庫のようだ。
(……私、ヴィランに捕まって……。轟たちが助けようとしてくれて……)
こちらに必死に手を伸ばしてくれた轟を思い出す。
あんなに必死な顔を見たのは初めてかもしれない。
簡単に攫われた自分が情けなかった。
起きあがろうとするが手と足が拘束されているのか大の字のまま起き上がることができない。
「ああ、ようやくお目覚めだね。お姫様」
「!……死柄木弔……」
「!覚えてくれていたんだ。昔は弔って呼んでくれていたのに随分他人行儀になったね。奏ちゃん。真っ黒に塗りつぶされていたはずなのにすっかり別の色に染め上げられて可哀想に」
「……。そんなに仲良くなかったはずですけど。私に今更何の用ですか?雄英の名を地に落とすなら爆豪だけで事足りているでしょ」
確かに私と死柄木は昔会ったことがあるがそんな話をするつもりはない私は死柄木を睨みつけて目的を聞く。
爆豪を攫ったのは度重なるヴィランによる襲撃を許してしまったことにプラスして行方不明者が出たとなれば雄英の信用を地に落とせるからだろう。
爆豪はこの前の体育祭で世間からの注目度、認知度も高い。
攫うにはこれほど適した人はいないだろう。
しかし、一方で私にはこれといって利用価値があるとは思えない。
「勧誘だよ。勧誘。……俺はオールマイトを殺す」
「!」
その言葉に心臓が嫌な音を立てた。
「それはお前の過去の目的と同じはずだ。だからこその勧誘だ。天野奏。いや、黒月奏。俺の右腕になる予定だった人。オールマイトを殺すために造られた人。本来の目的を果たすために俺たちの仲間にならないか」
黒月。
その苗字を聞いたのは何年ぶりだろうか。
既に捨てた名前だ。
死柄木の言葉で頭を巡るのは昔の記憶。
『オールマイト……。あいつさえいなければ……!』
『もっとだ!もっと強くなるんだ!あの男を……オールマイトを倒せるように!!』
『貴方ならもっとできるわ!次は……』
『いい、1人でどっか行っちゃダメよ。分かったわね』
教育という名の虐待にも近い個性訓練。
体術に殺人術、暗殺術。
人の急所の位置。
人を殺すことに特化した勉強や訓練。
そのおかげで身体には生傷が絶えなかった。
冷たい床にボロボロの服に毛布。
少ないご飯。
罵倒に叱責に怒鳴り声。
優しい言葉なんてかけられなかった。
できても1度も褒められたことなんてなかった。
淡々と次のノルマが現れた。
怖いも苦しいも次第に感じなくなっていった。
当たり前のことだと思っていた。
私はあの世界しか知らなかったから。
でも、現実はそうじゃなかった。
世界はもっと広くて私の常識は世界の常識ではなかった。
その時、世界が180°変わって見えた。
最初はあの人たちと同じだった。
求められたから応えただけだった。
求められたからそこにいる。
ヒーローを目指している。
ただそれだけで執着も情熱も無かった。
でも、雄英に入ってから、私が殺そうとしていた人が……ヒーローが、ヒーローを目指す人がどれだけ凄いのか、眩しいのかを知ってしまった。
命を賭して誰かを助ける、守るヒーローをとてもかっこいいと思った。
殺すことを目的として造られた私とは真逆の存在にどうしようもなく惹かれた。
それに私を縛る首輪もある。
だから私ははっきりとこう答えるのだ。
「あなたたちの仲間になる気はないです。私は今の生活が気に入っているので」
「…………。はぁ……。まあいい。また会いに来る。その時には心変わりしていることを期待しているよ」
死柄木はそう言うと現れたワープゲートの中に消えていった。