FF14
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3日3晩続いた宴もまだ記憶に新しいとある日
俺はかの英雄に関する噂を聞きワチュメキメキ万貨街に向かっていた。
『あのお方がよくお手伝いに来ているのよ!話しかけたらとても気さくにお話してくださったの!可愛かったわ!』
『英雄って言われてたし近寄り難いイメージあったけど、実際話してみたら普通の可愛い女性なんだよな〜』
『この前なんか足りない材料分けてくれてさ、手渡してくれた時のあの笑顔が忘れらんねぇよ』
とはいえかく言う俺も、その一人ではある、が……それは英雄と言う存在に向けられたものであり、決して恋愛感情などでは無いと思っている。……思ってはいるのだが、何故か聞く噂に対して明るい気持ちにならない時もある。特に邪な気持ちを持つ野郎共の声だ。不愉快でたまらない。
晴れ渡るトライヨラの青空を仰ぎ見る。その清々しさとは裏腹の自分の思考回路に、ため息ひとつこぼし万貨街の方へと足を踏み出す。
別に彼女は俺の恋人でもないのだ。しかしそっち方面の声を聞くとどうしても気分が悪くなる。
旅した仲間だからか。純粋に英雄に邪な気持ちが向けられるのが嫌なのか。
それとも俺自身が、彼女に惹かれているからなのか。
だが惹かれるのは当然だとも思う。彼女はあの英雄様なのだから。
そんなことを頭で考えていると見覚えのある後ろ姿を発見した。ドッと胸が音を立てる。そうだ、彼女は英雄。胸が高鳴るなんて普通だ、普通。
まだ少し遠いが声をかけようか考えながら歩いているとスっと彼女の横に男が現れた。青い髪のヴィエラ族の男だった。
その男が持ってきた小袋を彼女は嬉しそうに受け取るとそのまま親しそうに会話が始まる。
「(誰だあいつ……)」
見た事ない顔だ。……いや、ここはワチュメキメキ万貨街。噂を聞くに彼女はここで手伝いをしているのだ。道具やら素材やら渡し合うなんて日常茶飯事だろう。きっと手伝い中の店の者だろう。……今俺は一体何を考えた?
自分の思考を揉み消すように前髪をかきあげる。ああ、今日は暑いな、なんて毎日言えるような事を呟いた。心底馬鹿馬鹿しい。
再びあちらへ目を向けると、青髪の男の手が彼女の耳へと伸びていた。少しくすぐったそうに笑う声が聞こえる。ここから見える横顔の頬は少し赤く染っている気がした。男の手が耳に触れていても嫌がる様子もない。……不愉快だ。これは暑さのせいか。そうに違いない。
「……おたく、こんな所で何やってるんだ?」
「! エ、エレンヴィル? えっと……お手伝い中!」
「はぁ、まあそうなんだろうけど……」
チラッと青髪のヴィエラ族の男を見る。やはりトライヨラでは見かけた覚えのない顔だ、最近やってきたんだろう。
さっきまで彼女に触れていた手は、俺が話しかけた時に引っ込んでいた。
「……あんたシャトナ族か?」
「そうだが」
なんだ?と言いかけた時、後ろから聞き覚えのある声がした
「おや、珍しいお客さんですねぇ」
赤髪のシャトナ族……
「なるほど、ここシューニェの店か」
「はい、今お二人にお店を手伝っていただいてるんですよ……ウヴロに関してはちょっとした訳アリですが」
そう言われウヴロと言われた男はバツが悪そうにしながらもこちらに頭を下げてきた。訳アリ、先ほど俺にシャトナ族かどうか聞いてきたあたり面倒事な気がしてならないと察してそれ以上は聞かない事にした。
「あなたはどうしてここに?何か商品に関することですか?」
「いや、俺は……」
と、ここで本来の目的であった彼女の方へ視線を移すと当然だが目が合った。"探してた"は間違っていないのだが、それを何故かと問われると少々困る。そもそも俺はどうして探してた?街で英雄がこの辺にいると噂を聞いて、それで、……それだけで?
「エレンヴィル?」
大丈夫?と彼女は考え込む俺の顔を覗き込む。
その瞳と目が合った瞬間、理解する。……俺は、ただ会いたかっただけなのだ、と。
「……たまたま近くを通っておたくの姿が見えたから声かけただけだ。邪魔したな、」
嘘だ。目をそらして吐き捨てるように出た言葉は自分の気持ちとは正反対の言葉。子供かよ、とは思いつつそのまま立ち去った。今日はダメな日だ。暑さのせいだとあれこれ理由を考えながら。
***
「たまたま近くを通って……か」
「ふふ、この店は商店街の一番奥にあるんですがねぇ」
ウヴロとシューニェは既に小さく遠のいた背中を見てくすりと笑った。彼の目的であったであろう当の彼女は不思議な顔をしながら二人の顔とエレンヴィルの後ろ姿を交互に見る。
「……いい時間ですし今日はこれくらいで店閉めしようと思いますので、ウヴロはこの後手伝ってください。……あなたは彼を追いかけた方がよろしいかと」
「え、……そう?」
「そうです」
うーん。と英雄は彼が歩いて行った方向を見た。
あまり納得はいってないような様子だが小さくわかった、とだけ呟いて二人に挨拶をしてから歩いて行った。
「……なるほど、彼も大変ですねぇ」
夕日のオレンジ色に染まったトライヨラの空を見上げながら、2人の不器用さにシューニェは微笑ましいなと呟いた。
*** トライヨラ X16.3 Y14.5
「エレンヴィル!」
その声にハッと意識が戻った。あの後俺はどうしたっけか。
気が付いた時にはこの灯台の下で腰かけてただただオレンジ色に染まる海を眺めていた。
「……おたくか、どうかしたのか」
「ん、エレンヴィル追いかけてきた」
よいしょ、と隣に腰かけた彼女は夕日に染まった海を見て綺麗だね~と無邪気に笑っている。英雄と言われる彼女であってもこうして近くで話している時は、俺にだって簡単に触れられる距離にいるのに、少し離れると噂で聞く星を救った英雄様になっていとも簡単に手の届かない存在になってしまう。そんなこと当たり前な事なのは理解していたはずなのに、今はそれをもどかしいと考えている自分がいる。
「……俺は、おたくを英雄だと思っていた」
英雄という言葉を聞いて少し寂しそうな表情の彼女と目があった。
何故もどかしいのか、そんなのは初めから簡単だった。
「英雄だから、惹かれてるんだと思ってた」
彼女の瞳が少し揺れた気がする。そうだ、この言い方だともう後に続く言葉は分かるだろうから。
少し照れくさくてそっと目をそらした。再び海に視線を戻す。夕日のオレンジはすっかり暗くなりはじめていた。
「惹かれている理由として英雄を盾にしていただけかもしれない。英雄だから惹かれるのは自然なことだ、って」
深呼吸を一つ、再び横の彼女と目を合わせた。
「でも俺は、おたくが英雄だから惹かれているんじゃなくて、ただ一人の女として惚れているんだって、……今更、整理がついた」
そう告げて立ち上がる。もう空も星が見られる程に辺りも暗い。彼女は俺を見上げたまま返す言葉を悩んでいるようだった。
「返事とかは……まだいい。これはただ俺の独り言だと思ってくれて構わない」
困惑しているであろう彼女には申し訳ない気もするが、俺は気持ちの整理が出来てすっきりした、と伸び一つ。
ちらりと彼女を見れば戸惑ったような照れているような不思議な表情をしたままこちらを見つめている。
ああ、今彼女は俺の事しか考えられないのだろう。それが心底嬉しい。酷く歪んだ感情なのはわかっている。こんな事、誰かに向けてなど考えたこともなかった。もっと欲しい、もっと独占したくなる。
そんな事言ったらどんな顔するだろうか。
「だから、これからはおたくのこと本気で口説くから……覚悟しとけよ」
じゃあ、とその場を立ち去る。
気が付いたからには手に入れたい。明日をくれた彼女とその明日を生きていきたい。
少し冷たい夜の海風がいつもよりも清々しく思えた。
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