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幼馴染は人気者

 琴子がA組の女子達と喧嘩をして、怪我をさせたらしい。A組の両親と担任がそれはもうカンカンに怒っていて、重雄も呼ばれ大分騒ぎになった。
 琴子はしばらく皆から距離を置かれ、友達や金ちゃんがその様子に腹を立てていた。琴子は気にしていない風に振舞っていたけど、しばらく直樹の家に寄らなかった。

 それから琴子が直樹の家に寄ったのは、紀子に琴子の誕生日パーティに誘われてからだった。最初は遠慮していたものの、紀子が祝いたいのだと言えば、遠慮できなくなったらしい。

 「お誕生日おめでとう!」

 口々に言われて、琴子もしばらくはとても嬉しそうにしていた。けど、度々何かを思い出しては、一瞬顔を歪めて、それでも無理に笑顔を作っていた。

 いよいよ帰る時になって、いつもみたいに送ろうとすると、琴子が首を横に振った。

 「大丈夫。一人で帰れるから。」

 遠慮したことなんて無かったくせに、変に遠慮しているみたいだ。直樹は訝しげに思って、黙って手を握ってそのまま外に出た。

 「ちょ、直樹くん!」

 「良いから。黙って送られろ。」

 強めにそう言えば、琴子は何も言えなくなったのか静かになった。


 しばらくして、駅に着いて、いざ電車に乗ろうと改札へ向かおうとして、直樹が突然口を開いた。

 「あん時、何で喧嘩になったんだ?」

 ピタリと、琴子の動きが止まった。それからゆっくりと振り返る。しばらく無表情に直樹を見つめていたが、ふとにっこり笑うと、首を揺らした。

 「気にしないで。ただの八つ当たりだから。」

 そう言って、すぐ来た電車に飛び乗った。直樹は少しだけそこに居座ると、すぐに踵を返した。



 それから数日後。祐樹が風邪で寝込んで弁当がなくて、購買に行った時のこと。
 目の前には人集りが出来ていて、ザワザワと騒がしい。と、前の方に険しい顔をした琴子を見つけた。声をかけようとして、聞こえてきた声に立ち止まった。

 「ストーカーな上にファザコンって、相原さんまじキモイんですけど。」

 「しかもDV。気に入らないとすぐに手を出すんだから。」

 「やっぱ片親だから、育ちが悪いのよ。」

 「真姫ちゃん大丈夫?前相原さんに怪我させられたでしょ?」

 「本当、あいつゴリラだからまじ痛い〜。」

 明らかに悪意を持った声量で、琴子に聞こえるように言っている。笑い声を伴ったそれに、琴子は珍しく反論しなかった。この間の件で、重雄にも相当叱られたらしく、かなり堪えているらしい。
 琴子はそのまま、何も買わずに踵を返してその場を去ろうとして、視線の先に直樹を見つけ、目を丸くした。しかしすぐに逸らして、俯いて直樹の横を通り過ぎようとしたので、既でグイッと直樹が腕を掴む。

 「な、直樹くん?」

 「・・・。」

 明らかに戸惑ったような目がこちらを射抜く。直樹は黙ったまま琴子を引っ張って、購買でパンを2つ買うと、まだ近くにいたA組の女達を冷たく睨みつけた。

 「塵以下。」

 ボソリとそれだけ呟いて、再び琴子を引連れて歩き出した。購買はいつの間にか静まり返っていた。
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