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幼馴染は人気者

 待ちに待った体育祭。直樹のお陰で、F組という結果だったが、何とか斗南高校に入学できた琴子は、初めての直樹のいる体育祭にウキウキしていた。

 「きゃー!!かっこいー!!」

 直樹の走る姿にテンションは最高潮。友達の理美やじんこ、琴子を狙う金之助はその様子に呆れるやら落ち込むやら。
 リレーの時なんかは特にうるさく応援していて、ひたすらきゃーきゃー言っていた。とは言え、周りも似たようなものなので、琴子の声など特に目立ってはいなかったのだけど。

 そんなこんなで、琴子の参加する障害物競走が始まった。昔からよく直樹を追いかけていた影響か、これでも脚力はあって、次々障害物を超えつつグングン距離を開けて、最後のお題へと辿り着く。

 「なになに?」

 お題『好きな人』。一瞬、フリーズした。それから、嬉々として直樹の方へ目を向ける。琴子と目が合った直樹は、顔を顰めていた。

 「直樹くん!お題!お願い!」

 A組テントへと駆け寄り、ブンブン手を振りながら琴子は直樹を読んだ。突然のF組の女の登場に、A組女子達はぎろりと琴子を睨みつける。名前呼びしているのも相まって、殺気も上乗せしていた。
 そんな視線に気づかないまま、琴子は満面の笑みを直樹に向けていた。直樹はウンザリとした表情を琴子に向けている。

 「何で。」

 「だって、お題の内容が直樹くん以外にいない。」

 「はぁ?」

 「ねぇ、お願い!直樹くんじゃないとダメなの!!」

 琴子のストレートな物言いに、呆れたのか諦めたのか、深く深くため息をつくと、隣にいた渡辺に本を預けてゆっくりと歩み寄った。琴子は満足そうに笑っている。
 これに驚いたのはA組だけではない。ほとんどの斗南高校生徒、教師が驚愕を顕にしていた。あの入江直樹が、冷酷無慈悲、血も涙もないドライアイスのような男が、まさか彼が最も苦手にしている女という存在と隣立って走るとは。
 特に、直樹の唯一の友人である渡辺は殊更だった。実際、うそだろ、なんて呟いたりしている。

 『お題は「好きな人」!』

 お題内容を聞いて更に会場は湧いた。四方八方から女の悲鳴が聞こえてくる。直樹は煩わしそうに眉を顰め、眉間のしわを濃くした。

 「あ〜!しわになっちゃう!」

 慌てて琴子が直樹の眉間をぐいっと押した。更に悲鳴が轟く。直樹は上目遣いに自分の眉間を押さえる琴子に、何かぐっと来ながら、ぐいっと顔を押して顔から指を離した。

 お題はそのまま合格になって、琴子と直樹は一位の旗の前に座った。

 「お前、公開処刑する気か。」

 「え、何で?」

 キョトンと首を傾げる琴子に、直樹は遂に諦めた。

 「もういい・・・。」

 半ば投げやりに返すと、直樹は再びため息をついた。
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