Tomorrow is another day
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“10分以内に来い”
怒涛の1日が過ぎ、今度は普段通りの日を過ごしたあと帰りの電車でスマホを開きその文面を確認する。差出人は勝手に登録されていた碧棺左馬刻。添付されているのはどこかの森の奥なのか行ったことのない場所の地図。確実に10分以内じゃ行けない。今日はもう疲れたしこのまま家まで真っ直ぐ帰りたいけど、無視したらどんな報復が待ってるか分からない。渋々私は電車を乗り換えどうにか指定された場所まで行くことにした。
* * *
「遅ぇぞ」
『……』
案の定着いたらその一言が飛んでくる。この野郎。道に迷いながらどうにか来たのにそれか。大体急に呼び出したのはそっちで…と言いたいことは山程あるけど先ず最初に聞かなきゃいけないことがある。
『何で私は呼ばれたんでしょうか?』
「来てみりゃわかる」
結局呼ばれた理由は分からずじまい。そのまま更に奥に進んで行ってしまうから慌てて追いかければ少し開けた場所に着いた。テントがあったり、火が起こしてあったりどうやらキャンプをしているようだった。
「来たか左馬刻。待っていたぞ」
そう言いながら現れたのは長身にがっしりとした体躯の男性。着ている服と言いまるで軍人のようだ。その人は私の存在に気付くと少し眼光が鋭くなった。
「…誰だ」
『…ミョウジナマエと申します』
名乗ったはいいが何故見ず知らずの私がここに来たのか説明したくても出来ず横にいた碧棺左馬刻をちらりと見ればニヤリと笑った。
「銃兎が来ねぇし、オレも腹の調子が良くねぇ。だからオレたちの代わりにコイツに食わせろ。コイツがお前の料理食いたくてしょうがねぇって言ってたんだ」
「は?そんなことh「あ?」「…はい。ご馳走して頂きたいです」
一体何を言っているんだろうこの人。でもなんとなく嫌な予感はするけど何か食べさせてもらてるのは素直にありがたい。今日はお昼抜きだったからいつも以上に空腹だし。すると軍人らしき人は納得したのか小さく頷く。
「そうか。小官の名は毒島メイソン理鶯。もう準備は整っているから良ければ食べていってくれ」
『あ、ありがとうございます』
見ず知らずの私にもご馳走してくれるというのだから案外この人は良い人なのかもしれない。碧棺左馬刻の知り合いだからと警戒してたけど、もしかしたらこの人もこの間のお詫びとかそういう気持ちがあるのかもしれない。そう思ったら余計にお腹が空いてきて待ちきれなくなった。
* * *
「待たせたな。今日は中華風にしてみた」
そう言われコトリと手製の机の上に置かれたのは見た目から美味しそうな料理の数々。どれもお店に並びそうな程の出来栄えだ。
『では遠慮なく…いただきます!』
挨拶もそこそこに私は早速目の前の料理に手を伸ばす。そして口の中に運んだ瞬間隣で鼻で笑われたような気がするけどそんなことはどうでもいい。それより…
『〜っ!!美味しい!!とっても美味しいです!!』
「口にあったようで良かった。これも食べると良い」
『はい!ありがとうございます!毒島さんは料理上手なんですね!』
美味しいものを食べると幸せになる。単純な私は見事にその通りで勧められるがままにむっしゃむっしゃと平らげていく。
『はぁ〜美味しい。碧棺さんは本当に食べなくていいんですか?』
お腹の調子が悪いとかなんとか言ってたけど食べれば逆に治るんじゃないかと思う。だけど碧棺左馬刻はフンと馬鹿にしたような顔をした。そして思い出したように毒島さんへと視線を寄越す。
「そう言えば理鶯今日はナニを使ったんだ?」
「あぁ。今日は新鮮で良いものが獲れてな。いつも以上に美味くできた」
『とれた…?魚とかですか?』
「お前が今食べているのはハサミムシ。その横にあるのはネズミ。そしてその隣は…」
『え!?ちょっと待って下さい!!それってつまり…!』
「ここに並んでる料理全てゲテモノだぜ」
『……』
その言葉を聞いて全ての納得がいった。そう全ての。コイツ自分が食べたくないから私を連れてきてしかもわざわざ全部に口をつけたところでバラした。昨日のお詫びにとかそんな殊勝なことあるわけないのだ。だがしかし。残念だったな碧棺左馬刻。そう簡単に思い通りにいく私ではない。
『正直驚きました。が!美味しく調理されているので問題なし!ちょっと抵抗はあるけど大丈夫!イナゴみたいなもの!何より毒島さんが一生懸命作ってくれたものです。美味しく食べさせてもらうのが食材に対して毒島さんに対しての礼儀でしょう』
「そうか…」
「………チッ。なんなんだテメェは」
その時の碧棺左馬刻と言えば苦虫を噛み潰したような顔をしていて笑った。そして毒島さんはちょっとはにかみながらこちらこそありがとうと言ってくれた。
「そういえばお前と左馬刻の関係について聞いてなかったな」
なんとデザートまで用意してありありがたく頂いていると唐突に毒島さんがそう聞いてきた。言われてみれば私何にも説明してない。話せば長くなるからと前置きしようとした時毒島さんが爆弾を投下した。
「恋人同士か?」
「『ぶっ!!』」
「違うのか?」
「何言ってんだ理鶯!テメェぶっ殺すぞ」
『違いますよ!!全然違いますから!!』
慌てて否定してかくかくしかじかでも説明すると毒島さんはふむと頷いた。
「貴殿は軍人向きだな。まだ軍があればスカウトしていたところだ」
『は、はぁ…?』
何故ここで軍の話が出るのかと不思議がっていると碧棺左馬刻が毒島さんの説明をしてくれた。なんでも軍の復活を信じてサバイバル生活をしているそう。あれ、この人もこの人で相当変わった人かもしれない。
「ん?ナマエ。こちらを向け」
『あ、はい』
いつの間にか名前で呼ばれていることにも気付かずそのまま顔を向けると理鶯さんの手が伸びてそのまま私の口元を拭った。
「ついていたぞ」
さっきの爆弾発言をされた時にみっともないことに食べかけのものを吹き出したせいか口元にデザートのソースがついていたようで、目敏くそれに気づいた理鶯さんが大きな手でつい、と取ってくれた。
『う、わ…ありがとうございます。すみません』
急に近くなった距離に鼓動が早まる。それと同時に自分のみっとないところを見られたようで恥ずかしくて頰に熱が集まってきた。すると後ろから低い声で名前を呼ばれる。
「おいナマエ」
『え…なんですか碧棺さん』
何故か機嫌が悪そうに見える。かと思えば唐突に私の手を取った。
「左馬刻でいい。つーかそう呼ばねぇとぶっ飛ばす」
『えぇ…なんて横暴な』
「フルネームで呼ぶよりいいだろ」
『え?』
「独り言なのか知らねぇが時々漏れてるぞ」
『そ、そうでしたか。では遠慮なく』
全然気づかなかった。ってことは碧棺、じゃなくて左馬刻への不平不満も漏れてたかもしれない。ヤバイ。
「おら行くぞ」
『え、あ、はい』
気が済んだのかそのまま手を引っ張られる。無骨そうな手は意外と滑らかで…ってそうじゃないだろ私。何考えてんのか。だけどそのままグイグイ引っ張られるから慌てて毒島さんの方を向く。
『毒島さん!今日はありがとうございました!ご馳走様です!』
「理鶯でいいぞ。よければまた来てくれ」
『…はい!ありがとうございます理鶯さん!それでは失礼します』
頭を下げると理鶯さんは軽く手を振ってくれて、私は結局森を抜けるまで手を離して貰えずそのまま歩き続けた。
* * *
『あの…今日はありがとうございました。理鶯さん紹介して頂いて』
あなたの思い通りにならなくてすみませんねという言葉は飲み込んで素直にそう言うと左馬刻さんはまたいつもの不機嫌そうな顔をしていたけどどこかイラついているようにも見えた。もしかしてお腹の調子が悪いのは本当なのかな。
『左馬刻さん?どうかしましたか?』
「…いや。なんでもねぇよ。じゃあな」
『は、はい。ではまた』
そう言うと背を向けて歩き出す左馬刻さんは振り返ることなくそのまま言ってしまった。
『一体昨日と今日の私はどうしたんだろうか』
非日常に足を突っ込んでいるようなこの二日間。帰り道にそう呟かずには居られなかった。
You never know what may happen
-何が起こるかわからないんだ-