Tomorrow is another day
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『あ…二郎くん達冷蔵庫の中見たみたい。アイスありがとうって連絡きてる』
無事に仕事が終わったのがなんと深夜。思ったよりかかってしまったけどひと段落ついてよかった。
そして帰り道にスマホを確認すると別れ際に言ったことが通じたのだろう。ちょっと高いアイスが入ってることに対するお礼の連絡が来ていた。
(行くまえのスーパーで買ったんだよね。喜んでもらえてよかった)
「なぁねーちゃん、これから帰るとこか?」
『…え』
唐突な酒の匂いと共にそう声をかけられる。歩きスマホで前を見ていなかったが気付けば二人の男に挟まれている。
「こんな時間に危ねぇなぁ〜。オレ達が送ってやるよ」
『いえ…結構です』
これはもしかしてよくない状況かもしれない。タクシーが捕まらないから少し歩こうと思っていたが失敗した。男二人からは先程から強い酒の匂いがするし、足元もふらついている。これならワンチャン逃げられるだろうか。
「安全な道知ってるからさ。行こうぜ?ほら、早く」
『…っ…』
手首を掴まれ思わず体が硬直する。早く振りほどかなければ。まだ男達が油断している今のうちに。
「可愛い顔してんじゃん、アンタ。いっそ送り狼になっちまおうかな〜」
『っ…!?』
黙っていることに気をよくしたのか肩に手回してきた。そしてあろうことかそのまま手を下の方に下ろして胸の辺りをさわさわと触れてくる。
(嫌だ…!気持ちわるい!早く逃げないと!)
そうは思っても体が震えて動かない。そうこうしているうちにぐいぐいと背を押されて体を弄られながら暗い方へ暗い方へと誘導される。
『っ離して!!!』
「今更抵抗したって遅いって…ほら行こうぜ」
「そうそう。イイコトしよっか」
『い、いやだ…やめて…』
体が思うように動いてくれない。そのことにパニックを起こしたとき、コツコツと足音が聞こえた。
「貴方達、何をやっているんです?どう見てもその女性は嫌がっていますが」
「あ…?んだよ兄ちゃん。邪魔すんなって」
「それとも混ぜてやろうか?」
「チッ…下衆が」
「なんだよ。やるってのか?」
「現行犯でしょっぴいて良いならな」
そう言って後方を指差す。そこには音は出してないものの赤い光が車の上で光っている。途端に絡んできた男達は足早にその場を離れていった。
「…さて、大丈夫ですか?お怪我は?」
『あ、はい…大丈夫です。ありがとうございました』
どうやら助かったようだ。よかった。体から力が抜けていくのがわかる。
「若干ふらついているように見えますが…本当に大丈夫ですか?」
『大丈夫です。怪我をしたわけではありませんので…お気遣いなく』
「フフッ…随分と他人行儀ですねぇ。まさかお忘れですか?」
その言葉になんのことかとようやく顔を上げて見ればあっ、と思わず声が出る。
『あの時のお巡りさん!!あ、その、大変お世話になりまして…?』
「ようやく思い出して頂けましたか。ただまぁ…貴女が罪を犯したわけではありませんのでお世話も何もありませんから大丈夫ですよ」
『アハハ…』
どうして今まで気付かなかったのか。首を絞められて頭突きを盛大にかましたときに来てくれていたお巡りさん。確か名前は…
『えっと…ジュウトさん、て言うんでしたっけ?左馬刻さんからそう呼ばれていたと思うんですが』
「まさか覚えていて貰えるとは思いませんでした。そうです、入間銃兎と申します」
「あ、私はミョウジナマエと言います。あの、今日は本当にありがとうございました」
「いえ、これも仕事ですから。それはそうとご自宅まで送りますよ。こんなことがあったばかりですから流石にお一人では不安でしょう?」
『……すみません、お言葉に甘えていいですか』
少し迷ったがここから一人で帰るのは正直怖い。入間さんは仕事と言ってくれているしここは素直に甘えさせて貰おう。
* * *
「そういえば左馬刻とは連絡をとっているのですか?」
『え?あ、はい。たまにですけど…』
パトカーなんて乗ったこともないから物珍しさにキョロキョロしていると不意にそう聞かれる。
「珍しいですね。あの左馬刻が特定の、しかも貴女のような一般の方に連絡先まで渡して」
『そうですね…私も不思議ですからお友達の入間さんから見たらもっと不思議でしょうねぇ…理鶯さんにも最初は警戒されたし』
「と、友達ですか?というか理鶯のことも知ってるんですか?」
『あ、はい。この間お料理ご馳走になりました。左馬刻さん的にはちょっとした嫌がらせだったんでしょうが特に問題ありませんでしたし』
「そうですか…それはなかなか奇特な…いえ良かったですね」
少し失礼な言葉が聞こえた気がするけどまぁ言いたいことは分かるような気もする。
『デザートまで頂いてよくして貰いました。そういえば…入間さんはあのお二人とどういうご関係なんですか?理鶯さんはまだ分かるとして…左馬刻さんって入間さんとは反対側にいるような人ですよね』
「…貴女もしやディビジョンラップバトルをご存知ないですか?」
『まぁ…あんまり知りませんね』
「なるほど…道理で左馬刻が面白がるわけです」
『えっと…?』
「独り言なのでお気になさらず。私達三人の関係でしたね…まぁ一言で言えば…仲間と言ったところでしょうか」
『……そうなんですね』
「なんで間があったんですか」
『あ、いや、すみません。意外だなとか、もっと違う意味もあるのかなとか思っただけです』
「違う意味とは?」
『入間さんと左馬刻さんは持ちつ持たれつの関係なのかな、と。左馬刻さんのあれこれには目を瞑る代わりにもっと大きな事には協力をしてもらったり、とか…ドラマの見過ぎですね。すみません』
ここまでくれば妄想と言っても過言ではないがなんとなく入間さんの浮かべている笑みが胡散臭げに感じてついそこまで考えてしまったが、予想に反して入間さんはふむ、と頷いた。
「……感が鋭い方は嫌いじゃありませんよ」
『え!?もしかして当たってたんですか!』
「さぁ?どうでしょう」
『意味深ですねぇ…』
さらっと流すその挙動が更に怪しさを増すけど思わず見惚れてしまいそうになる整った横顔でどうでもよくなりそうだ。
「そう簡単に手の内を明かしたくはないので。ところで先程貴女に絡んできた奴らですが…近くを見回っていた者に身柄を拘束されましたのでご安心ください」
『え…捕まったんですか?絡んできただけですが…』
「逮捕、という程ではありませんが一歩間違えば強姦罪にも当たるような素振りをみせていましたので一先ずは身柄を預かる、と言ったところです」
『そうですか…それはありがとうございます』
「仕事ですからお礼を言われることではありませんよ」
『でもあの場で入間さんが捕まえても良かったのに他の方にお任せして、私を送ることを優先して頂いたんですよね。お手間をとらせたと思います。ありがとうございます』
「存外冷静な方ですね。恐ろしいことがあった後だというのに」
『怖かったから逆に変に冷静になっているんだと思います』
「そうですか…っと…そろそろ貴女の家の前ですね」
『送って頂いて、助けて頂いてありがとうございました』
「いえ。では失礼します」
そう言って人生初のパトカーに乗った私は赤いサイレンが消えるまで見送った。
* * *
カチャ。ボッ。
「フゥ…」
少し走ったところで車を止めて煙草に火をつける。そして見知った番号に電話を掛けた。
《…なんだ?》
「お前が目をつけてた女がいるだろ。頭突きをかました」
《ソイツがどうかしたか》
「ヤられる一歩手前だった」
《あ"ぁ?》
「もうパクってあるから問題ない。だが身元を調べたらお前の組の下っ端の下っ端の下っ端だった。どうする?」
《…後はこっちで片す。世話ンなったな》
「別に。たまたま居合わせただけだしな。まだ上にも出してないからテキトーにそっちに寄越す」
《わかった。因みにアイツはどうした》
「アイツって…ミョウジナマエのことか」
《あぁ》
「思ったより冷静だったな。肝が据わってるというか…それより俺とお前が知り合いだってとこに食いついてたな」
《ハッ…野郎を頭突きして気絶させてちまうくらいだからな》
「まあそんなとこだ。じゃあ奴等のことはお前に任せた。切るぞ」
《おぅ》
ツー…ツー…
スマホを仕舞い深く息を吐く。白煙は目の前で少し揺蕩うかと思えば風に吹かれて直ぐに掻き消された。
(面白いことになってるな。左馬刻の奴珍しく女に対して興味を持ってるのか…少なくとも今日の奴らは終わったな)
前はちらっと顔を見た程度だが、今回は助手席に座る女の顔をよく見れた。特別美人という訳でもない。言っちゃなんだが中の中。よくいるような顔つきだ。だが俺と左馬刻についてはなかなかどうして鋭いところをついてきた。確かに映画やドラマの見過ぎかもしれないが。
「変なことに巻き込まれねぇといいな…」
色々やってはきたがこれでも警官。一般市民が俺達のようなものに巻き込まれ、いや既に巻き込まれているんだろうが危ないことにはならないようにと思うしかなかった。
Just tell me what happened.
-とにかく何があったのか話してみて-