Tomorrow is another day
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『…よし、これでいいかな』
昨日貰った野菜を全て下ごしらえした後お裾分けしたら多分喜んでくれるであろう人に連絡いれた。依頼として連絡をしたけど受けてくれるだろうか。
『嫌だったらいらないって言うだろうし…ってもう返信きた!早っ!?』
“ご依頼ありがとうございます!”
“すぐそっち行くから住所教えてくれ!!”
『ふふっ、良かった。こっちから届けにいってもいいけど折角だからお願いしようかな』
スマホを確認し、声をかけて良かったと安心しながら早速持っていく調理済みの野菜をタッパーに詰め込むことにした。
* * *
「ちわーっす!萬屋山田でーす!」
チャイムの音と共に玄関を開けると元気な声とハツラツとした笑顔が目の前に広がった。
『こんにちは一郎くん!この間はお世話になりました。今日は来てくれてありがとうね』
「いや、アンタから連絡が来たから何かと思ったらまさか食いもん貰えるとはな!直ぐ来たぜ」
『お肉じゃないからがっかりかもだけど美味しいからきっと二郎くん達も喜ぶと思うんだ』
「アイツらも別に野菜が嫌いってわけじゃねぇから喜ぶと思うぜ。ってことで早速いいか?」
『うん、お願いします。あ、車で来てくれたんだね』
「おう!ダチから借りてきた!それに迷惑じゃなければまたアンタにウチに寄ってほしくて」
『一郎くん家に?でも迷惑じゃない?』
確かに前回はお邪魔したけどそう何度も行っていいのかと心配になれば一郎くんは少し眉下げて言う。
「それが二郎と三郎の奴もアンタに会いたがってんだ。生憎用があるから迎えにはこれなかったが家に帰るころにはアイツらもいると思うし…」
『会いたいって…私に?なんでまた?』
「前回突っかかっていったのに飯作ってくれたろ?それのお礼を言いたいらしい。ってことでいいか?」
『うん、そう言って貰えるなら。あ、じゃあ途中でスーパー寄っていい?』
「あぁ、行こうぜ!」
冷蔵庫に入れておいた野菜達を一郎くんがひょいと持っていくのにお礼を言いながら早速車に乗り、あーでもないこーでもないと主にアニメの話をしている内にイケブクロに着いた。
「ただいまー!帰ったぞ!」
「お帰り!兄ちゃん!」
「お帰りなさい、一兄!」
待ってましたとばかりにキラキラとした瞳で迎える二人の兄弟に思わず笑みが溢れる。本当に一郎くんのことが好きなのが伝わってくるからだ。
『こんにちは〜!懲りずにまた来ました。お邪魔しても大丈夫?』
少し緊張しながらそう言うと二人は少し目線を晒しながらこちらを向いた。
「こ、こんにちはナマエさん。この間はありがとう、ございました」
「お、おう…」
「なんだなんだ!二人とも照れてんのか?」
「べ、別にそんなんじゃないよ!兄ちゃん!」
「そうですよ!その…この間は失礼なこともしちゃったし…」
特に気にしていないからいいのだか、最初に食ってかかったことをまだ気にしているのだろう。律儀なところは二人とも長男譲りなんだろうか。
『気にしないで大丈夫だよ。こっちこそこの間は勝手にご飯作ったりしたし…』
「いやこの間のカレーまじ美味かったし!そんな気にすんなって!」
『ありがとうね。そう言って貰えると嬉しいよ』
「だな!アレはマジ美味かった!まぁ立ち話もなんだし、上がってけよナマエ」
『うん、じゃあお邪魔するね』
前回一緒にご飯を食べた部屋に通して貰ってから一郎くんに台所を借りていいか確認する。
先ず味見して貰ってからあげた方がいいだろうから。
『お待たせ〜。一応下ごしらえとか味付けはしてあるかそのまま食卓に出せるようになってるけど、気に入らなかったら何か足してね』
あげたはいいが気に入らないものだと却って迷惑になるだろう。今のうちに味の感想を聞けたらとお皿に盛ったものを出すとにゅっと手が伸びてくる。三人とも手が長いなぁ。
「おお!美味いな!」
「うまっ!!」
「美味しいです!!」
『よかった。割と量があるつもりだったけど直ぐになくなりそうだね』
三人とも美味しそうに食べてくれたので作り手冥利だ。お裾分けしてよかった。
「でもよかったのか?アンタが貰ったものだったんだろ?」
一郎くんが一通り箸をつけたあとそう聞くのでお茶を注ぎながら答える。
『たくさん頂いたし、私だけで味わっちゃうのは勿体ないかなと思って』
「ナマエ!おかわり!」
『もう完食したの二郎くん!早いね!ちょっと待ってね』
「ナマエさん、僕も!」
『はーい!三郎くんも待っててね』
どうやら気に入って貰えたようだ。その後もお茶を飲みながら三郎くんおすすめのボードゲームをしたりしていたら思いの外時間が経っていることに気付いた。
『…あ、もうこんな時間。ごめんね、長居しちゃった。そろそろお暇しようかな』
「そっか…もう夕方だしな。あんまり引き留めて遅くなるのも悪ぃし。また送ってくぜ」
『帰りは大丈夫だよ、電車であっという間だから…っとちょっとごめんね』
ありがたい申し出を辞退しようとしたとき仕事先からの連絡が入ってることに気付きスマホを確認する。どうやら急ぎの用らしい。
『…ちょっと仕事に行かなきゃいけなくなったから電車で行くね。道が混む時間帯でもあるし迷惑かけちゃう』
帰り支度をしながらそう言うと珍しく二郎くんがトントンと肩を叩いた。
「…駅までの近道あるし途中まで送ってやるよ」
『でも…いいの?』
「美味いモン食わしてもらったし。こんくらいは」
『じゃあお言葉に甘えようかな…。一郎くん、二郎くんお借りしてもいい?』
「あぁ、遠慮なく使ってやってくれ!」
『ふふっ、ありがとう!じゃあ二郎くんいいかな?』
そうして一郎くん、三郎くんに見送られつつ山田家を後にした。
* * *
『じゃあ二郎くんは今高校生かぁ…なんか随分大人っぽいね』
「そうか?こんなモンだと思うけど」
軽く雑談をしながら道を歩いていると車道に出る。少し道幅が狭く車が直ぐ脇を通るので気をつけて歩こうと思った矢先、二郎くんがふっと車道側に立つ。
(あれ…もしかして歩道の方に寄せてくれた?)
よく漫画や小説なんかで男の子が車道側を歩いてくれたりするシーンがあるけどまさか年下の男の子にして貰えるとは思わず驚く。
『…ありがとう、二郎くん。紳士だね』
「べ、別に!こんくらい当然だし!」
よく見ると赤くなっているところを見るに年相応の男の子なのだと実感する。自分よりも断然背が高く整った顔立ちをしているが少年らしいあどけなさを残すその表情は誰が見てもつい目がいってしまう気がする。
そして思わずじっと見てしまったせいか視線に耐えかねた二郎くんと目が合う。
「…な、何」
『あぁごめんね、見惚れてた。二郎くんかっこいいから』
「なっ…そ、そうかよ」
『二郎くんがクラスメイトの子達が羨ましいよ。私も学生に戻りたいな〜』
「ナマエはオレがクラスメイトだったら嬉しいのか?」
『嬉しいよ〜!多分遠くから眺めてる』
「ぶっ!なんだそれ!話しかければいいんじゃね?」
『じゃあ挨拶くらいはさせて貰おうかな』
「いや普通に話していいーじゃん!」
『あはは!そうだね!』
取り留めのない話題だが少し二郎くんと距離が縮まったようで嬉しい。そして駅まで送ってもらうつもりがいつの間にか会社まで来てもらってしまった。
『ごめん、二郎くん。ここまで来てもらっちゃって』
「別にヒマだったから気にすんなって。それよりアンタの方が大変だな。休みなのに仕事って」
『普段はこんなことあまり無いんだけどねぇ…』
「ふ〜ん…」
『とにかく本当にありがと!あ、帰ったら冷蔵庫開けてみて。お楽しみ入ってるから!』
「お楽しみ?なんだそれ」
『いいからいいから!じゃあまたね、気をつけて帰ってね!』
手を振りそのまま後ろを向いて歩き始めたとき。二郎くんの声が背中に聞こえる。
「仕事!頑張れよ!」
『! …うん!ありがとう!頑張る!』
何気ないその一言は私の心を軽くするのに充分過ぎた。
* * *
「はぁ〜…ダサくなかったかな。オレ」
あの人を送った帰り、思わずそう口に出る。会ったのはこれで二度目だが何故か随分前からの知り合いのような気がする不思議な女。
何を話せばいいか分からないと思っていたが気づけば自然と話せるようになっているのだから謎だ。挙げ句の果てにラノベで読んだ知識の中の女子と歩くときは男が車道を歩くことを実践してみたら…
“二郎くん、かっこいいから”
「っ…」
別に真剣に言ったのではないことは分かっている。しかしさらりと出たその言葉は年頃の男の子には少しどきりとさせるものである訳で例に漏れず山田家の次男坊も少しばかり顔を赤くせざるを得ない。
なんとなくナマエの顔を思い出すと友達のような、姉のような、それとはまた違うような、なんとも言えない気持ちを抱えながら軽い足取りで二郎は帰路へと向かった。
「また何か美味いモンもってきてくれっかな…」
Let me get you something.
-何かいいもの持ってきてあげる-