Tomorrow is another day
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プルルルル…
『ん?電話…って左馬刻さんじゃん…今仕事中なんだけどなぁ…』
最近知り合ったヤクザのお兄さんから電話が掛かってきたのはいいが今は仕事中である。しかし出ないと何を言われるか分からないので席を立ち人気の少ない踊り場付近に行く。
「…遅ぇ」
『…すみません。でも今仕事中なんですよ』
「知るか」
『で、何気にお久しぶりな感じがしますけどどうしました?』
「……お前事務所来い」
『えっ!!』
「煩え。デケェ声出すんじゃねえよ」
『私何かしました?先に言っておきますがまだ死にたくないです』
「いいから来い。また地図送っとく」
『ちょっ…!あ、切れてる』
問答無用とは正にこのことだろう。一体何をされるのだろうか。ろくなことではないような気がするがこれは腹を括っていくしかない。
* * *
「てめっアニキに何の用だ!?あぁ!?」
「女が来るとこじゃねぇんだよ!消えろ!」
『ひっ…やっぱりこうなりますよね…』
送られてきた住所の通り着くとさっそく手厚い歓迎を受ける。自分より大きくて見るからに輩という感じの男の人から凄まれたら誰だって怖いと思う。
『か、帰りますので…失礼しました…』
「おいコラ。勝手に帰ってんじゃねぇぞ」
『ひっ…!!!』
踵を返そうとしたとき肩をがしりと掴まれた。そしてこのドスの効いた声は…
『あ、アニキ…お疲れ様です…』
囲まれ凄まれ足が震えるなか口から出た言葉は何故かそれだった。
* * *
「……」
『……』
応接間に通されどかっと座り心地の良さそうな椅子に掛ける左馬刻さんは煙草を蒸す。まるで蛇に睨まれた蛙のようにじっとしていると左馬刻さんはややあって口を開いた。
「テメェ…嫌いな食いモンあるか?」
『え…あまり無いですが…?』
「そうかよ…おい、持ってこい」
唐突な質問に訳もわからず答えるとドアの外に控えていたのだろうか。部下のような人が大きなダンボールを持ってきた。
「やる」
『なんですかこれ?』
ドサリと重たそうな音を立てて置かれたそれを見ると野菜がたくさん入っている。
『わぁ!お野菜いっぱいですね!どうしたんですか?』
どうやらこれを渡したかったが為に呼び出したようだが何故これを私にくれるのか謎である。
「オヤジの知り合いから大量に貰ったんだがここの奴らが料理なんかする訳がねぇからな。理鶯にも分けたりしたんだがそれでも余ってな」
『あぁ…なるほど。そんなに大量に消費できるものでもないですしねぇ』
そのお知り合いさんが趣味で畑をやっているようだが今年は大豊作。もちろん組の人の中には料理が出来る人もいるがそれだけでは間に合いそうにない為私に白羽の矢が立ったということみたいだ。
『ありがとうございます!野菜は好きなので嬉しいです!』
まさか左馬刻さんから野菜を貰う日がやってくるとは思わなかったがツヤツヤとした美味しそうな野菜が入ったダンボールを見ると自然と笑顔になってしまう。さて、これで何を作ろうか…。家計の助けにもなるし非常にありがたい。
「クッ…そんな嬉しそうな顔しやがって…安い女だな」
『今どき美味しい野菜って高いんですよ?知らないんですか?』
「知るかそんなこと。ま、用はこんだけだ…流石にその量は重てぇから送ってやる」
『いいんですか!ありがとうございます!』
正直この量をどう持ち帰ったものかと思っていたので安心した。きっと部下の方か誰かが車を出してくれるのかな。そう思って事務所の外へ出るとそのまま左馬刻さんが運転席に座る。
『え…左馬刻さんが送ってくれるんですか?』
「文句あんのかコラ」
『ないですけど…忙しいのにすみません』
なんだかこの人優しいぞ。見た目と言動は怖いけど。そう思いながら車に乗り込むと静かなエンジン音と共に車が発進した。
* * *
『あ、ここを曲がって…ここです』
高級車の座り心地を堪能しながら雑談を交えていると思いの外家に着くのは早かった。
「俺様が中まで運んでやるからテメェは扉開けろ」
『そこまでしてもらっちゃって…すみません、本当に』
「別に。頼んだのはこっちだしな』
見たところがっしりマッチョには見えないが重たい野菜の入ったダンボールを軽々持つのを見る限り力はあるのだろう。シャツの袖から覗く筋肉に一瞬見惚れたのは不可抗力だ。
「ここでいいか?」
『はい。重たいのにありがとうございます』
玄関の中に荷物を置くとじゃあなとそのまま出ていこうとするので慌てて引き止める。
『よかったらお茶でもどうですか?』
「…あぁ」
* * *
あまり気の利いたお菓子はないが、今届けて貰った野菜がある。少し待っていて下さいと声をかけるとおぅと声が返ってくる。この時間帯は少し小腹が空くからしょぱいものだいいだろうとすぐに出来る塩揉みや和物、あとはお煎餅をお茶請けとして出すとこにしよう。
『お待たせしました。すみません、狭いでしょう?』
「まぁな。でもこんなもんだろ」
『左馬刻さん足が長いから余ってますね。ちょっと我慢して下さい』
「別にいいけどよ…これ、お前が作ったのか?」
『はい、今頂いたお野菜で。簡単なものですけど…口に合うかな』
少し驚いたような顔をする左馬刻さんがパクリと食べる、とそのままバクバクと食べ始めた。その様子を見るに不味くはないのだろう。安心した。
「普段から料理すんのか?」
『まぁその方が安く済みますし…買ったほうが楽でいいんですけどね』
「…そうか。ま、これだけ作れたら買う必要なんざねぇな」
『褒めたってこれと同じようなものくらいしか出ませんよ?』
「まだあんのか?」
『簡単なものになりますけど…』
「頼む」
『…お腹空いていたんですか?』
「昼食ってねぇからな」
『なるほど。じゃあもう少しお腹に溜まるようなの作ります。まだお時間大丈夫ですか?』
「あぁ。大丈夫だ」
『はーい。ちょっと待っていて下さいね〜』
お昼を食べる暇もないくらい忙しかったということなのだろうか。案外ヤクザも大変なのだろう。見たところ偉い立場のようだし。
お腹に溜まると言っても夕飯まで持ってしまうのは困るので昨日の残りの唐揚げを使ってお野菜と炒めとろみをつける。味はそこまで濃くしないでご飯がなくても大丈夫なようにした。流石にご飯まで食べると満腹になってしまうだろうから。
『はい、どうぞ。昨日の残り物使ってますけど食べかけとかは入ってないので安心して下さい』
「何だそれ。お、美味そうだな」
早速箸を持つと先程同様バクバクと食べていく。余程お腹が空いていたのだろう。けどこうも食べてくれると作った側も嬉しくなるもので。
そして箸を休めることなく左馬刻さんは完食してくれた。
「ごっそさん。美味かった」
『お粗末様でした。お野菜、本当にありがとうございました』
「こっちこそ世話んなったな。野菜も片がついたし寧ろ助かった」
『お役に立てたならよかったです。じゃあ左馬刻さん、お気をつけて。ありがとうございました!』
「おう」
車が見えなくなるまで見送り、早速貰った野菜を冷蔵庫に仕舞う。入りきらないものは調理してしまおう。
『…冷凍すればいいんだけどやっぱり量があるよね』
もちろん自分一人で食べることも可能だが、さっき作って味見した限りとても美味しい野菜だということがわかったので一人で味わうのもなんだか勿体ない気がする。
『うーん…誰か友達でも呼ぶ?いやでもそんな呼ぶ程でもない…あ!そうだ!』
ちょうど食べ盛りだしいいんじゃないかと思って思い出した彼らのことを考えながら早速スマホをタップした。
* * *
「アニキ、どうしたんすか?体調でも悪いんすか」
「いや…なんでもねぇ」
あの女と別れたあと組の付き合いで飯を食いにいくことになり、そこそこの店に入ったが何故かそれ程美味く感じないのが不思議でそれを目敏く見つけた部下の一人がそう聞くが理由は言えない。
(多分あの女の飯の後だからだ。物足りなく感じちまう)
目の前に出された料理はあの狭いアパートで出されたものとは比べ物にならない。使ってる食材一つとっても店の方がいいものを使ってる。しかし左馬刻にはあそごで食べたものの方が数倍美味く感じた。
「チッ…」
「アニキ?本当にどうしたんです?」
「ウルセェオレは帰る。テメェがなんとかしろ」
「えっ、そりゃないですよ!」
一先ず挨拶は済ませた。そこまで大事な話でもないだろう。アイツなら何かと要領はいいからなんとかする筈だと思いながら追いすがってくる声は無視して車を走らせた。
『また何か貰ったらナマエにやるか…』
とりあえずまた腹が空いたらアイツのところに行こうと自分らしくもない考えと共に煙草を蒸した。
I'll have that, please.
-あれと同じものを下さい-