Tomorrow is another day
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『…あとはルーを溶かすだけ…っとご飯炊けたかな』
「「…」」
ぐぅぐぅと鳴るお腹の音を前に放っておける筈もなく何か作っていこうかと言ったら二人はどうするとアイコンタクトを取った後、やはり空腹には勝てなかったのだろう。渋々と言った具合で頷いてくれたので今に至る。因みにメニューはみんなが大好きカレー。というよりそういう予定だったらしいので材料は揃っている。気持ちお肉多めなのは私が余分に買っておいたからだ。
『あとは付け合わせ…サラダは作ったし、スープももう出来るし…あとなんか一つ二つあれば足りる…?』
食べ盛りな男子三人の食べる量が分からず、とりあえず作っておこうと買ってきた具材とそれから私が自分用に買っておいた物から何個か材料を選んでいると二郎くんがそっと近づいてきた。
「…なんつーか。手際いいな」
『そう?ありがとう。でも一人暮らししてたら自然と出来るようになるよ』
話しかけてくれたということはちょっとは警戒心を解いてくれたのかなと思っていると今度は三郎君が目線を逸らしながら話しかけてくる。
「…僕、食器用意します」
『どうもありがとう。助かります!』
そういう小さなことでもやってもらえるのはとても助かる。その意味を込めてお礼を言うと作って貰ってますからと返事が返ってくる。どうやら三郎君もほんの少しだけでも気を許してくれたのかもしれない。難しい年頃なのかもしれないけど私自身が姉という立場だからか、余計に年下の子は可愛く見える。
「おい、サブロー。これやっとけ」
「はぁ?それくらい人に頼まず自分でやれよ」
「んだと?アニキに向かってその態度かよ」
「はっ!兄?僕の目の前には兄と呼べる人物なんていないんだけどなぁ?」
「テメェ!いい加減にしろよ!!」
『二郎君、三郎くん、悪いけど味見して貰ってもいい?』
「…分かった」
「…分かりました」
言い合いしながらもそう言うと大人しく差し出した小皿を受け取ってくれコクリと飲み干してくれた。
「うまっ!!!めっちゃ美味い!!」
「本当だ…美味しい」
『塩っぱかったり辛すぎたりしない?』
ぶんぶんと首を振っているのを見る限り大丈夫なようで安心した。まぁ多分お腹空いてるお陰な気もしなくない。
「なぁ!もうちょい味見しちゃダメか?」
『え…いいけどお腹いっぱいになっちゃうよ?』
「もう一口くらいで腹一杯になんねぇよ。余裕だぜ!」
『ふふっ…じゃあもう一口ね』
味見しているときって実は一番美味しく感じるんじゃないかって思っていたら今度は隣からちょいとエプロンの紐を引かれる。
「…僕も少しぐらい味見したところで問題ありません。それよりもっとちゃんと味見しとかないと…その、一兄にも食べてもらうものですから」
『…うん!じゃあお願いします!』
少し恥ずかしそうに言う三郎君にまた小皿にちょっとだけよそうとそこからを皮切りに二人は徐々に話してくれるようになり、最終的に一緒に手伝ってくれた。
* * *
「…あぁ。わかった」
この前請け負った仕事で少し揉めてたことについての報告の電話がようやく済みスマホのホームボタンを押す。結局#ミョウジ#さんのこと見送ってやれなかったし、飯もまだ作れてないと思うと余計に疲れた気になるのは気のせいじゃねぇと思う。
「待たせたな。今電話終わった…ってなんかいい匂いがするな…」
ガラリと扉を開けた瞬間思わず腹が鳴りそうななんともいえない匂いがした。これは今日つくる筈だったカレーの匂いだ。二郎か三郎、もしくは二人で作ってくれたのか。そう思って顔を上げた先には予想外の光景が広がっていた。
『あ、三郎君。ごま油ってあったりする?』
「はい。その棚の下から二番目に…」
「なぁ、これグツグツ言ってんぞ!」
『はーい、じゃあ火を止めて、と…あ、山田くん』
「「あ?/はい?」」
『あ、ごめん!みんな山田くんだった!』
「え…なんでアンタか…」
どうやら二郎と三郎の腹の音があんまりうるさいんで礼も兼ねて飯を作ってくれたようだったが、意外なことに二人とも手伝っていた。そして俺の顔を見るとパッと笑顔になり持っていたお玉と小皿を差し出した。
「にぃちゃん!これ食べてみて!オレが作ったんだけどさ!」
「二郎、それは半分以上あの人にやってもらっただろ!それより一兄、僕のを味見してみて下さい!」
「テメェだって手伝ってもらっただろ!!」
「お前よりは自分でやってるさ!!」
『ふふっ!二人とも頑張ってたね!』
「……」
まだ言い合う二人を見て笑うミョウジさんはまるで二人の姉のようで思わず黙っていると何か勘違いしたのかミョウジさんがおずおずとこちらを見やる。
『ごめんね、山田くん。勝手に台所借りて…他人が作ったの嫌かもしれないけど二郎くんと三郎くんにも手伝ってもらったから美味しいと思うんだけど』
「い、いや、こっちこそサンキュな。これから飯作んなきゃと思ってたからスゲェ助かるし、カレー以外にも色々作ってもらっちまったみたいだし…」
そう言ってテーブルに目を向ければいつもならカレーと一、二品並ぶかカレーのみの場合もあるのにサラダ、スープ、野菜のソテーなどが並びおまけにカレーの上にはゆで卵と小さなハンバーグがのっている。
「豪勢だな!美味そうだ!!」
『二郎くんと三郎くんが一緒にやってくれたからね』
そう彼女がいうと二人はピタリと言い合いを止めて小さく返事をしているところを見ると若干照れているのだろう。そんな二人を横目に俺は改めて礼を言い飯にしようと言うと何故かミョウジさんはガサゴソと片付け始めた。
「…?食わねぇのか?」
『え?食べないのかって?』
「ん?」
『え?』
お互いがよく分かってない状態で暫しの沈黙の後三郎が助け船を出してくれた。
「一兄は家で一緒に食べていかないかって聞いてるんです」
『あ、あぁ!そういうこと!流石に食べてかないよ〜!』
「「「え!?」」」
『えっ!?なんでびっくりしてんの!?』
俺たち兄弟が見事にはもった後ミョウジさんは逆に慌てて言う。
『いやいや!これ以上お邪魔できないよ!只でさえご飯勝手に作ってんだからその上一緒に食べるなんて…!そんな図々しいことはしないよ』
「いやいや!ここは普通に食ってく流れだろ!!」
「そうですよ。貴方のお皿出しましたね」
二郎と三郎がそういうとミョウジさんはちょっと困ったような、さっきよりほんの少し幼い顔をしてこっちを見るもんだからついポンとその頭に手を置く。
「つーことだ。諦めて一緒に食おーぜ!」
『…ありがとう、山田くん!』
「一郎でいいぜ、ナマエ」
『そうだった…みんな山田くんだね。うん、一郎くん!』
そうしていつもより少し豪華で派手やかな夕食を過ごした。初対面の奴にはあたりが厳しい二人もこの人の持つ雰囲気のお陰か今ではすっかり楽しそうに話している。そしてそんな三人を見ているのはなかなか悪くなかった。
* * *
『ありがとう、一郎くん。もう大丈夫だよ』
「そうか?わかった」
本当ならば作ってそのまま帰る予定だったけどありがたいことにご一緒させてもらって楽しい夕食を食べた。その後は後片づけをして帰ろうとしたところ送ってくれるという言葉に遠慮したんだけどなんだか有無を言わさなそうな一郎くんの笑顔に断りきれず送ってもらった。
『今日は本当にありがとうございました。財布もそうだし、ご飯も一緒にさせてもらって』
「いやこっちのセリフだ。結局アンタが自分用に買ってた材料も使っちまったみたいだし…」
『気にしないで!みんなにたくさん食べて貰いたかっただけだし、あんなに気持ちよく食べて貰ったから嬉しいし』
三人が本当に美味しそうに食べてくれるその姿を思い出し自然と顔がニヤけてくるのを感じていると一郎くんがあっと声を上げた。
「スマホ、出してもらえるか?」
『あ、うん』
そしてちょっと貸してと言われるがまま貸すと数秒でまた直ぐに返された。
「俺の連絡先入れといたからなんか困ったことあったらまた頼ってくれ!」
『あ、ありがとう!』
今日何度見せてくれただろうその笑顔に心が温かくなるのを感じながら手を振りそのまま別れた。財布を落として最悪な一日かと思ったけどどうやら今日はとってもいい日だったようだ。一郎君、二郎君、三郎君。最初はちょっと怖かったけど…また会えたら嬉しいなぁ。
All is well that ends well.
-終わり良ければすべて良し-