春、新生活。
dream
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「ありがとうございましたー!」
放課後のアルバイトにも随分慣れてきた。
あまり知らない土地の学校を選んだから、入学前に土地勘を得ようと思って自転車で散歩していた時に見つけた街の外れにある小さなケーキ屋さん。
イチオシはもちろんケーキ屋さんの定番ショートケーキ。
生クリームがそんなに得意じゃない私でも食べられるあっさりした生クリームは口に入れた瞬間とろけて、ふわふわのスポンジやいちごの酸味との相性もピッタリ。
このショートケーキに一目惚れしてアルバイトを志願したんだよね。
お店は30代のご夫婦で経営されていて、アルバイトも私一人だけど、星野夫妻はとっても優しくて、時々余ったケーキを持ち帰らせてくれたり。
色々食べさせてもらった私のオススメはズバリガトーショコラ。
チョコレートが濃厚で、食感もたまらない。
小さいお店だけどイートインスペースも少しだけあって、ケーキと紅茶の相性は抜群。
ティーカップも拘っていて、お店の雰囲気とも合っている。
時計は19:30をさしている。
そろそろ閉店の時間だ。
カランカラン……
「いらっしゃいませー、あ」
「あれ?簗瀬さんじゃん。バイト先ここだったんだね!」
お店に来たのは、まさかのクラスメイト、まさかの山口くんと月島くんだった。
「びっくりしちゃった、いらっしゃいませ、山口くん、月島くん」
「……」
一瞬月島くんが驚いたように私を見たけど、目が合ったと思ったら軽く会釈されてショーケースに目を落としていた。
「あーっと……、簗瀬さん!このお店のオススメは?」
その様子を見ていた山口くんが慌てて話を戻してくれる。
山口くんは本当に優しい人だなあ。
「お店のイチオシはいちごのショートケーキだよ。個人的にはガトーショコラもおすすめかな。もうすぐ閉店だから、イートインスペース使えないんだけど、持ち帰りでもいいかな?」
「あ、全然大丈夫だよ!じゃあ俺はショートケーキと簗瀬さんおすすめのガトーショコラひとつずつにしようかな、ツ…ツッキーは?やっぱり、ショートケーキ?」
「……ンブラン……」
「へ?」
「モンブラン。あと、そこの……パウンドケーキひとつずつください」
「!?」
山口くんが驚いた顔で月島くんを見て口をパクパクさせている。
どうしたのかな。
「はーい、山口くんがショートケーキとガトーショコラで、月島くんがモンブランと桜パウンドケーキですね、ご用意します」
紙の箱を組み立てて、ケーキを丁寧に箱に入れる。
慣れたはずなのに、緊張で少し手が震えた。
お会計も済ませて2人を見送る。
「ありがとうごさいましたー、また来てね」
「うん、ありがとう簗瀬さん」
山口くんが軽く手を振ってくれた。
月島くんは……相変わらず小さな会釈だけだったけど、所作が綺麗だなと思った。
気付いたら手の震えも収まっていて、私は閉店作業に取りかかった。
また、来てくれるかな。
ショーケースに映る自分の口元が、少し緩んでいた。