初夏、予感。
dream
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木曜日。
少し荷物が多くなってしまったので、仕込み中の星野夫妻に無理を言って、月島くんに渡す荷物を店で預かってもらう。
蜷川さんに呼び出しされてから数日。
特にこれといって嫌がらせもなく、怪我もなく、普通に過ごせている。
これも月島くんのおかげだなあ。
もうすぐインターハイって山口くんが言っていたし、月島くんがスタメンだって山口くんが言っていたから、今日はきっと長居しないだろうから、ぱっと渡せたらいいかな。
そして、放課後。
私はいつも通りアルバイトを行っていたけれど、閉店までに月島くんは来なかった。
練習、長引いたのかな……
閉店作業を済ませて外に出る。
星野夫妻は店の2階が住居スペースになっているから、店の前ですぐ別れた。
どうしようか悩みながら歩いていると、自然と学校へ向かっていた。
「坂ノ下に先に着くのは俺だあああ!」
曲がり角を曲がったところで、オレンジ頭の誰かとぶつかる。
「ぎゃっ!」
あまりにも突然で、受け身も取れずに転んでしまう。
「うわあああ!ごめんなさい!俺、走るのに夢中で……って、烏野の制服?こんな時間から学校行くの?大丈夫?立てる?怪我ない?俺1年の日向!」
明るい声と質問攻めに圧倒される。
「だ、大丈夫……ありがとう……」
日向と名乗った少年の手を借りて立ち上がる。
紙袋から月島くんに渡すものが零れていたので拾おうとすると、今度は罵声が聞こえた。
「ボケェ!日向ボケェ!大丈夫ですか!……あれ、それテーピングっすか」
「あ!君も何か部活してるの?何部?」
黒くて丸い頭の男子生徒と日向くんに取り囲まれる。
「いやっ、えっと、私は部活入ってなくて……、1年の簗瀬美子です……」
「簗瀬さんね!ホンットこめんね、俺も拾うの手伝うよ!……あれ、このタオルどっかで見たことあるような……」
日向くんが月島くんのタオルを拾って軽くホコリを払ってくれた。
全部集め終わった頃、また後ろから声がした。
「君達ホントバカなの?」
「うわ!月島!部活終わったあとすぐ帰ったんじゃ無かったのかよ!」
月島くんが私たち3人を見下ろしている。
心做しか息が上がっている様にも見えた。
「今日はこっちに用事があっただけ」
「あ!思い出した!あのタオル月島のと同じだ!簗瀬さん、月島とタオルお揃いで可哀想に……」
日向くんがドンマイ、と私の肩に手を置いた。
「……可哀想……?」
瞬間、月島くんが私の肩に置かれた日向くんの手を払った。
「いてっ、何すんだよ月島!」
「うるさいな、君こそ簗瀬さんに気安く触らないでくれる?あと、早く行かないと坂ノ下商店閉まるんじゃないの」
「……なんだよ、二人知り合いってか、付き合ってんのかよ、悪かったな……」
日向くんが少し落ち込んでいる。
「え……?」
でも、別に付き合ってはいない。
「っておい、日向!月島の言う通りだぞ、マジで店閉まる、行くぞ」
「えええ!じゃあ俺行くね!またね簗瀬さーん!」
黒髪の男の子と日向くんはまた走って帰っていってしまった。
とりあえず2人で帰路につくとした。
「……はあ。ちょっと色々聞きたいことはあるけど……、店に今日行けなくてごめん」
月島くんが申し訳なさそうに呟く。
「全然!そんなことよりバレー部ってインターハイ前なんだよね?月島くんがスタメンだって山口くんから聞いてたし、試合前だから練習もハードなんだろうね」
「まぁ、ね……」
少し気まずそうに月島くんが目を落とした。
忘れてた、月島くんはあんまり部活の話は好きじゃなかったんだった。
「あー、そうだ、これ。ケーキは無いけど、こないだ借りたタオルと、お礼と言っては何なんだけど、テーピングとタオル……」
月島くんに紙袋を手渡すと、中身を見て驚いたのか少し目を丸くしていた。
「"月"島くんだから……星柄にしたんだけど、可愛すぎたかな……?」
私が選んだのは星柄のタオルだった。
「プッ、月じゃなくて?」
「つ、月は月島くんだからいいの!」
笑っている月島くんにつられて私も笑ってしまった。
「ありがとう簗瀬さん。使わせてもらうよ」
「うん。こちらこそ色々とありがとう」
ぽん、と何故か月島くんが私の肩に手を乗せた。
「ん?なあに?」
「……別に、ゴミがついてたから払っただけ」
月島くんは私をバス停まで送ってくれて、帰宅してからスマホを開くと、8時過ぎに月島くんから連絡が入っていたことに気が付いた。
『ごめん、今日部活が長引いた。また今度いくから、その時ちょっと聞きたいことがある』
聞きたいことってなんだろう。
また来てくれた時に聞けばいいかな、なんて呑気に捉えていた。
だけど、それからすぐインターハイ予選が始まって、月島くんが店に来ることなく夏を迎えた。