初夏、予感。
dream
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『今すぐ1年5組の教室へ来てください』
この前と同じ、可愛らしい字体。
心配そうに私を見つめる詩織ちゃんを宥めて、自分のクラスの隣の教室へひとりで向かうことにした。
ガラガラガラ……
教室の扉を開けて中へ入る。
なんとなく、すぐ逃げられるように扉は閉めなかった。
想像通り、緑髪が綺麗な女子生徒が1人待っていた。
「来てくれたんだ、……簗瀬さん」
「あ、うん……」
彼女は窓枠にもたれかかって不敵に微笑んだ。
ドラマや漫画でよくみる、女の子に取り囲まれる図は回避出来たことに安堵する。
「あの……?」
「1年5組の蜷川です、月島くんのことでお願いがあって」
彼女……蜷川さんは、当初の手紙と同一人物とは思えないくらい淡々と話し始めた。
「この前私見ちゃったんです、月島くんが簗瀬さんの頭を撫でてるところ」
「月島くんと簗瀬さんってどういう関係ですか?ご存知かもしれないですけど、月島くんのこと好きな女子多いんですよね」
「べ、別に私と月島くんは……」
蜷川さんの目には光が宿っておらず、冷たく私を見ながら少しずつ近付いてくる。
綺麗な顔立ちの無表情はこれ程まで怖いのか……近寄られた分だけ無意識のうちに後ずさる。
「ハッキリして貰ってもいいですか?同じクラスなの利用して月島くんに近付かないでくれる?ちょっと顔が可愛いからって調子乗らないで」
「別に……そんな、つもりじゃ……」
蜷川さんは怒りに震えているように見えた。
「正直、迷惑なんだよね。これ以上何かあるなら私……簗瀬さんのこと、許さないから。月島くんのことが好きな人達みんなであなたに嫌がらせも……っ、!」
蜷川さんが私の胸ぐらを掴んだところで、急に驚いた様子でドアの方を見ている。
「へえ、ホント女の子ってこわーい」
振り返ると、ドアに凭れるようにして月島くんが立っていた。
「月島くん……」
「キミ、どこの誰だか知らないけど、なかなか怖いこと言うよね。……とりあえずその子から手、離してもらえる?」
蜷川さんは、ぱっと私から手を離す。
運動神経が鈍い私は、尻餅をついて転んでしまったが、恐怖と安堵が入り交じって立てずにいた。
「……ち、ちがうの、月島くん。私は悪くない、この女が、月島くんに色目使って部活の邪魔してるから、注意してあげようと……」
「たかが部活にそこまで君が気をつかってくれるのは勝手だけど、僕別に頼んでないよね。何より、言葉遣いが汚い子は嫌いなんだよね」
「……」
「ねぇ、キミ。次彼女に何かしたらただじゃおかないよ?キミの取り巻きの女子達にも言っといてくれる?」
「ごめ、なさ……月島くん……」
月島くんに詰められて泣きそうな声で蜷川さんが俯く。
「アハハ、謝るのは僕にじゃないよね?」
「……っ」
ガタン、と大きな音を立てて蜷川さんは教室から走り去っていった。
「……はぁ、君は大丈夫?立てる?」
いつの間にか私のすぐ後ろに月島くんが立っていた。
「どうして、ここに……?」
「別に、ちょっと忘れ物したから教室に来てただけ。君こそあんな手紙でノコノコ来てバカじゃないの」
月島くんが私に手を貸してくれて、なんとか立ち上がった、はずだった。
「え、なんで手紙のこと……わぁっ」
まだ足に力が入らず転びそうになる。
「……もう、ホント君っておっちょこちょいなとこあるよね」
立ち上がるために差し出してくれていた手を引いて月島くんに抱きしめられるようにして助けられる。
私は高身長な彼の腕の中にすっぽり収まった。
抱きしめられたことで、私の中で何かが決壊して涙が溢れた。
「えっ、ちょっと、泣かないでくれる?」
月島くんは慌てた様子で練習着のポケットから少しはみ出ていたタオルを私の顔へぐいと押し付けた。
「ごめ、もう立てる……」
「大丈夫、怖かったね」
いつも毒舌家な彼が優しく声をかけてくれて、頭を撫でられる。
私は余計に涙が溢れて止まらなくなっていた。