初夏、予感。
dream
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「ありがとうございましたー……」
誰もいなくなった店内で小さくため息をつく。
結局あの後、山口くんは私が落ち着くまでそばに居てくれた。
『簗瀬さんはさ……、ツッキーのことどう思ってる?』
真っ赤に腫れた目を濡れたタオルで冷やしていた時、山口くんから聞かれた言葉。
咄嗟に「友達」とこたえたけれど、言葉に違和感を感じて戸惑いを覚えた。
月島くんは、毒舌で、ちょっと意地悪だし、何考えてるのか分かんない。
だけど……
勉強を教えてくれる時に見える長い睫毛、暖かい声、少しだけ触れた頬や指先、送ってくれるところ、車道側を歩いてくれる優しさ、パーカー越しに感じた匂い、頭を撫でてくれる時の優しい眼差し、笑ってくれた時の笑顔……
そのどれも、思い出す度に胸が熱くなる。
だけど、私にはこんなに女の子扱いされた事がなくて、これが「好き」なのかどうかもハッキリとわからず俯く。
それでも、あんな手紙が来たって、月島くんと友達をやめたいなんて微塵も思えなくて、どうすればいいのか分からなくて頭の中はぐちゃぐちゃで。
『ツッキーのこと、好きじゃないならさ……俺にもチャンスがあるって、思っても、良いよね』
山口くんが靴箱で別れ際寂しそうに笑って言っていたことが頭をよぎって思わず「ああぁ、」と声が漏れてしまう。
あの時も私は返事に困って何も返せずにいたけど、山口くんは「何かあったらすぐ言ってね」と軽く手を振って部活へと戻っていってしまって。
詩織ちゃんは、友達。
山口くんも、友達。
じゃあ、月島くんは?
私にとって、月島くんって何なんだろう。
山口くんの言う"チャンス"の意味が分からないほど子どもじゃないけど答えられるほど簡単なことでもない。
「はぁ……、訳わかんないよ」
他人の恋愛沙汰に巻き込まれるのはゴメンだ、なんて思っていたけど、思いっきり巻き込まれるし……
それから、手紙。
手紙からほんのり感じた淡い柑橘系の香り。
嗅ぎ覚えのあるあの香りは、おそらくあの緑髪が綺麗な女子生徒のもので。
邪な気持ちが湧いてしまうのを頭を振って追い出し、仕事を再開する。
テスト期間で出られなかった分、取り戻さなきゃ。
私は、これ以上自分の身に何も起きないよう祈りを込めてショーケースのガラスを磨き始めた。