初夏、予感。
dream
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画鋲て小学生かよ……
じわじわと赤く滲む右手は女子力の高い詩織ちゃんが手際よくティッシュでくるんでくれた。
今日は早くバイト行きたかったのに……
靴箱から保健室までは距離も近いので、仕方なく保健室へ行くことにする。
「あ〜詩織ちゃん、先帰ってて……」
何故か泣きそうな顔で私を見る詩織ちゃんをなんとか説得し、画鋲の処理をして1人保健室へ歩く。
鞄の中には靴の下に挟まれていた手紙が入っている。
取り出した時、何となく嗅ぎ覚えのある香りがした気がしたけれど、それだけで判断できることでは無い。
長いため息のあと、保健室に入る。
テスト期間中の放課後に保健医は居ないので、仕方なく1人で消毒すべく準備を済ませて椅子に座った。
少し気になって手紙を開く。
何も驚かないくらい想定通りの内容にまたため息がでた。
『月島くんに近付くな』
『馴れ馴れしい』
『ブス』
『不釣り合い』
可愛い字体で可愛くない内容があれやこれやと連ねてある。
私は、別に………………
ガラガラ……
閉めたはずの保健室の扉が開く。
「あれ?簗瀬さん。どうしたの……って血!?ええっ、大丈夫!?」
聞き慣れた山口くんの絶叫ボイスに慌てて手紙を隠すように机にカバンを置いた。
「あ、山口くん。ちょっと怪我しちゃって……。山口くんはどうしたの?」
心配そうにこちらへ近寄る山口くんに作り笑顔を浮かべた。
「俺は、突き指。テーピング忘れちゃったから貰いに……、簗瀬さん、それ何」
隠しきれて居なかった手紙に山口くんが気付く。
「あぁ、いや、これは…………」
私が言い訳を探しながら手紙を仕舞うのよりも先に山口くんに手紙を取られてしまう。
侮れないな運動部。
「なんだよ、これ…………っ、まさか、怪我も……?」
手紙を持つ山口くんの手が怒りで震え、クシャッと紙にもシワが入る。
「だ、大丈夫だから……ね?」
山口くんは手紙を少し乱暴に置くと、私に手当をしてくれた。
「ダメだよ簗瀬さん。こんなの絶対大丈夫じゃないから。無理しないで」
優しく笑う山口くんに緊張の糸が解れたためか、自然と涙が溢れた。
「ほんとは……少し怖かった……」
手元にあったハンカチで顔を覆う。
明日からの学校生活に少しも不安がなかった訳ではない。
また何か嫌がらせをされるかもしれないし、また痛い思いをするかもしれない。
ハンカチで覆った視界が更に暗くなったのを感じ、次いで体に温もりを覚えたところで、山口くんに抱きしめられていることに気がついた。
「簗瀬さんは……俺……達が守るから、だから泣かないで……」
離れていく足音が遠くから聞こえる。
「ごめ……山口くん……」
山口くんは震えた小さな声で、「ツッキーじゃなくてごめんね」と呟いた。