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dream
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わたしには、どうしても苦手なものが3つある。
ひとつは、勉強。
高校生ならみんな苦手だと思いたい。
ふたつめに、運動。
これは私の運動音痴が招いたことだから仕方ない。
最後に、月島くん。
勉強もスポーツも、それから容姿も身長も、人より優れていて、だけど山口くん以外のクラスメイトにちょっと冷たくて……少し怖い。
「今日提出の課題については、現国係が放課後にクラス分のノート集めて提出するように」
………げ。
現国係って私じゃん……
放課後、男子の現国係が気付いたら帰っていて、1人で集めているうちに段々湧き上がる怒りを抑え、なんとかクラス分集めきり、持ち上げた。
お、重い……
若干前が見えない中、ふらふらと歩いて階段へと差し掛かる。
踏み外したら一巻の終わりだ、と気を引き締めて階段を一段一段慎重に横向きで下る。
あと、少し……
階段もあと5段程になったところで、自分の後ろを風のように駆け上がる男子とすれ違った。
足速いなあ、なんて俊足男子に気を取られていると、足元がぐらつき、視界いっぱいに天井が広がった。
スローモーション。
人は、身の危険を感じると、自分を守るために脳をフル稼働させて考え、時の流れがゆっくりに感じると言われている。
だから、見えた。
ふわふわの金髪が焦った顔で私を抱きとめて、床に倒れた一部始終と、山口くんの絶叫顔を。
「ちょっとキミ、大丈夫?」
「ヅッギィィイイイイ!?」
さすがに少し焦ったように早口で月島くんが私に声をかけた。
「わ、わわわわ私こそホンットにごめんなさい!不注意で……」
慌てて立ち上がると足首に鈍い痛みを感じる。
足くじいたのかな、あとで保健室行かなきゃ。
月島くんは私をちらっと見上げて「山口も手伝って」と、テキパキと周りにちらばったノートを山口くんと2人で集め始めた。
「僕は大丈夫、それに今のは日向がはしゃいだせいデショ、キミこそ足は大丈夫なの」
あの一瞬で、私が足を痛めたことに気付ける月島くんって一体何者なんだろう。
「ちょっと足挫いちゃったけど大丈夫!拾ってくれてありがとう」
私も慌ててしゃがんでノートを拾おうとするも、痛みでしゃがめない。
その様子を見た月島くんが小さくため息をついて、立ち上がる。
「……長谷川さんは手伝わなくていいから。山口、このノートは職員室まで持ってって、僕が部活に遅れるって先輩達に伝えてくれる?」
「えっ、いや私は大丈夫……」
「けが人は黙って言う事聞きなさい。ホラ、山口これヨロシク」
月島くんは山口くんにノートを預けると、山口くんは笑顔で受け取った。
「オッケーツッキー!」
山口くんが「お大事に!」と笑顔で職員室へ向かう背中に一言お礼を告げて、先程から冷たい視線を感じる月島くんの方を見上げる。
「じゃ、行くよ」
「へっ……?」
背の高い月島くんが私の前にしゃがんで背を向けた。
「いやいやいやいや!私歩けるから!」
春高バレーの予選大会間近で、レギュラーメンバーに月島くんが選ばれていることくらい私も知っている。
そんな人にこれ以上負荷をかけるわけにはいかない。
「……うるさい。キミけが人のくせに口だけ強がっても、痛いのは変わんないデショ」
またため息をついて月島くんが立ち上がり、次の瞬間には私を……お姫様抱っこしていた。
「えええぇええ!?」
「ホンットキミ、うるさい。黙って運ばれてればいいの」
涼しい顔した月島くんがそのままスタスタと保健室へ歩を進める。
私は恥ずかしくなって手で顔を覆ってしまったが、静かになった私に満足したのか「いい子いい子」と月島くんが呟いた。
月島くんの足は長くて、保健室までもあっという間だった。
放課後ということもあって、先生はいなかったけれど、私は窓際の治療スペースの椅子に座らされた。
「ハイ、靴下脱いで」
「えええぇええ!?」
ーーー私には、苦手なものが3つある。
「キミがやるより僕がシップとテーピングする方が上手いからね。それとも僕に脱がして欲しいの?長谷川さん」
ーーーひとつは、勉強。
「ちっ、ちがうから!……はい、靴下脱げたから……お、お願いします」
ーーーふたつめに、運動。
「シップ冷たいけど我慢しなよ…………ホラ、出来た」
ーーー最後に、月島くん。
ーーー勉強もスポーツも、それから容姿も身長も、人より優れていて、だけど山口くん以外のクラスメイトにちょっと冷たくて……少し怖い。
だけど、気付いてしまった。
私を助ける時に血相変えて飛び込んできてくれた。
私を抱っこしてくれた時、指の隙間から見えた月島くんの耳は真っ赤で。
私をからかう悪戯な笑顔はいつものクールさは欠片もなくて子供っぽい。
それに、さっきから私の顔も熱くて、胸の鼓動は煩いくらい聞こえてしまう。
「本当にありがとう月島くん」
「ドーモ。……僕が誰にでもここまでする訳じゃないってことくらい、キミも分かってるだろうけど」
ーーー私は、月島くんが好きだ。
「……春高。烏野が全国に行けたら、キミに言いたいことがあるから、絶対応援してて」
「……もちろん!」
私には、苦手なものが2つある。