市丸ギン
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「正月はこたつの中でミカンでも食べて、のんびり過ごせばいいんですよ」
「年明け初しょっ端ぱなからそんなん殺生やわ。せっかくやし初詣でも行こか」
溜まりに溜まった書類を一気に片付けてしまうあたりは感心に値する。
いつもこうならいいのだけれど。
「……参拝する義務があるとは思えないんですけど」
「たまには羽根のばさんとあかんよ。仕事ば~っかやと疲れてまうし」
「……その言葉、お返しします。たまには狂うように仕事をなさって下さいよ。遊び疲れは数の内には……」
言い終わらぬうちに口を塞がれる。
口内を荒らされて思考回路は逆方向に光の速さで前進するのみ。
視界に映るのは銀色だけ。
漆黒と銀が重なり合う。
「っ……」
いつもいいように頭の中を掻きまわされて言いくるめられる。
手をほどくくらいはできるけれど、精神的な部分がそれを拒む。
そうして許してしまう自分が悔しい。
それほどまでに心を占める市丸の存在は大きいと認めざるを得ない。
人の心の内を知っていて、強引で。
◯◯が拒否できないことを知った上での行為は彼女を困惑させる。
身分抜きの自分の立場の弱さをどうにかしたいと思うものの優位にはなれない。
手綱を握るのは◯◯ではなく市丸。どうにかならないものだろうか。
市丸の胸を押し返して解放された唇。
市丸の笑みを見れば一目見て分かる◯◯の頬の赤さ。
一枚も二枚も上手の彼には敵わない。
「年明けには地獄を拝むことになっても知りませんからね!」
「またまたぁ……一日くらいええやないの。その日、仕事ちゃうやろ? 休みなんやし」
「仕事なわけないじゃないですか。わざわざ私と同じ日を選んで……何の得にもならないのに……」
「充分得してるやん。こうやって一緒におれるし」
自身の体を曲げて市丸は◯◯に手をのばす。
背の低い◯◯には顔を上げてやっとこさ彼の顔を拝めるくらいに身長差がある。
膝を地面にくっつけて並んでいてもらっても、さして変わりはないというのは微妙に悲しいところ。
諦めた方がよさそう。◯◯の脳裏をめぐった策。というよりもそれ以外に選択肢はない。
「まぁ……そうですけど」
「今日はやけに素直やねぇ。普段の◯◯やったら心にないことぶちまけてんのに」
「……ヘンですか? 私がそういうことを言うと」
「そうやない。ボクを喜ばすだけや」
引き寄せられては吐息を送られる。
市丸にとってはスキンシップでしかなくても、◯◯にとっては溶けるように熱い。
「どうしようかなぁ……」
箪笥の衣服を物色しながらどれにしようこれにしようと着物を畳に放り出しているうちに、足の踏み場がなくなってしまった。
前日の去り際に市丸が言っていたことをあれやこれやと思い出す。
『まず死覇装は厳禁や。着てきたらあかんよ。あれは仕事着やから』
『それはわかってますけど……どうしてですか?』
『ボクが羽織着てったら目立つやろ? それと一緒でな。それに年明けのはじめやで? 明日はめでたい日なんや。晴れ舞台にはそんな恰好で出たらあかん』
『ギンの場合は羽織着てなくったって目立ちますよ。じゃあ普段着はダメってことですね?』
『そや』
普段着は却下。どういうことなのかさっぱりわからない。
「神社に参拝するだけって言ってたけど……普段着では行くな、ってことか」
(そういえば……呉服屋さんで買ったやつがここに……)
奥の方を探ると桜を散らせた真紅色の着物が出てきた。
死神になってから小金を詰め込んでいた貯金箱の中身で買ったもの。
◯◯にとっては安月給ながらも手にしたそれは高価だったことは鮮明に記憶している。
「懐かしいな」
他の着物をせっせと箪笥に直した後、慣れない手つきで順々に着ていく。
最後に帯を締めて、鏡で後姿を確認して足早に家を出た。
「ご、ごめんなさい!! ずっと前から待っててくれてたんですか!?」
「気にせんでも大丈夫やで。今着いたばっかなんよ。……ん?」
◯◯をまじまじと長時間にわたって見つめ、彼女は視線に気付くや否や市丸を見る。
「あの……普段着で来るなって言ったから……」
市丸の顔色をうかがいながら、横目で照れくさそうに見る目。
あまりにも可愛らしくて口元が緩んだ。
自分のために朝早くから身支度してくれたことを考えると、嬉しいことこの上ない。
無意識のうちに声を上げて笑っている自分がいる。
「ギン……?」
「あぁ、堪忍な。ほんまは別に普段着でも構わんのやけど……◯◯の晴れ着はさぞかし可愛いやろなぁ、思てな」
白い肌で引き立つ真紅。
仕事場では着飾るのは面倒、と言っていた◯◯がこうも見栄えするとは予想外で、見惚れてしまった。
「晴れ着なんて着たことないから……ヘンな所ないですか?」
「そんな気にせんでもそんなとこないで。よう似合てるわ。色の強い服着ると◯◯の白い肌が映えるみたいやね」
「できるだけ外に出てるんですけど中々肌ってやけないんですね。ほら、詰所にいることが多いでしょ? 事務処理ばっかりで」
「そや、今日は仕事の話一切なしな。もししたら……」
耳元で囁かれた単語に◯◯は身を引いた。
ぶんぶんと手を振り、拒否する◯◯。
「そんなの無理ですよ! ……っていうか仕事の内容に関する話じゃないですもん! 肌の色が白い黒いの話じゃないですか!」
「◯◯は照れ屋やね。赤なったり青なったり忙しいて大変や」
「……意地悪……」
「たまには……なぁ?」
「何が、……なぁ? なんですか」
そっと冷たい手が重なると、隙間から指先が滑り込む。
◯◯の頭上で市丸の視線を感じたが、顔を上げられなかった。
頬には熱が。手には温度が灯る。
「あ~……人がいっぱいですね……あ、あれ乱菊さんだ!」
上司らしき人影を見つけては叫ぶ◯◯を引き寄せて、じっくり言い聞かせる。
今、隣にいるのは誰かということを。
「よそ見せんとこっち見とき。一緒に来てるんはボクやで」
「はしゃぐぐらい……いいでしょう? だって初めてなんですもん」
「?」
「こうやって誰かと一緒に来たこと、一度もないから……ついはしゃいじゃって。いつもならこたつの中ですから」
「……まぁええわ。許したる」
手を強く握った彼はいつになく大胆で遠慮がない。
今に始まったことではないけれど。
ほんのりと頬が染まっているように見える。
「顔、赤いですよ?」
「……寒いからや。そんなん言うて◯◯も赤いやん」
「もしかして……」
茉規が言い終わる前に紡がれた言葉に驚いた。
どこかのネジがはずれたみたいに真面目な顔をするから。
「そや。ぜ~んぶ◯◯のせいやな」
「どうして?」
「嬉しいからとちゃう? ボクが」
賽銭箱の近くで足を止め、かがみ込む。
人が少なくなるまで待とうという魂胆だが、一向に数は減らない。
「なかなか帰りはらへんねぇ……」
「元旦ですから仕方ないですよ。人いっぱいですけど行きましょっか」
カランカラン…
木製の杓子が転がってくる。
カランと音をたてて◯◯の草履にあたった。
「◯◯! 足見ぃ!」
「え……」
市丸の声が届いた頃には足を滑らせ、地に伏せる状態になっていた。
公共の場、しかも大勢が集う中。足がくねり、上手く動けない。
足袋のところどころが切れて、うっすらと血が流れている。
「はぁ……すみません……」
「ほな洗いにいこか。お転婆、ちょ~っと控えよな」
「う……」
「元気なんはええんやけど◯◯はちょっと元気すぎるからなぁ」
「ギンに言われたくな──」
急に体を持ち上げられて足が浮く。
腰や足に触れる温かい男性特有の骨ばった手。
目の前には普段と変わらぬ調子の飄々とした恋人。
神社の裏手に出ると◯◯の足を下ろし、腰を片手で支えながら蛇口をひねる。
「景気ええなぁ……豪快で」
「きっと舞い上がっちゃってるんですね、私。なれないことするから」
「足袋そこおいて裾もうちょいだけ……あぁ、そこらでえぇよ」
水が走る足に指を這わせて血を洗い流していく。
冬の気候を感じさせる冷水で悴む。
「三番隊来る前から元気なとこだけは変わらんなぁ」
「今、何て……?」
蛇口を元の状態に戻し、破れた足袋を布代わりにしてまきつける。
膝に茉規を乗せたまま市丸は続けた。
「軽いとか思ってはるやろうけど、ボクは真剣や」
「嘘」
「即答かいな……。そらひどいわぁ。ほんまやって」
「女にだらしがないから深く付き合わない方がいい、って誰かが……」
「おイタが過ぎたツケやろか。でもこんなに長い間一緒におるんは◯◯が初めてなんよ」
?マークを浮かべて茉規は立ち上がる。
見てはいけないものを見てしまったかのような目で市丸を見た。
「な、何ですか急に!」
「思ったこと言うただけや」
彼のふざけようは怒りに耐え兼ねる
ものがあるといっても、多少はましになった。
◯◯の入隊で狂わされたといっても過言ではないのだが。
あとは。もう少しだけ上司らしく振舞ってさえくれれば。
「そう……市丸隊長は聞いてた噂より全然違ってて。ふわふわ浮いてるかと思ったらそうでもないみたいで。もうちょっとこう、上司らしくして下……」
腕を引かれて、膝上に引き戻される。
真上を向いて状況を確認すれば、不自由な体は彼の手中におさめられていた。
「はい……?!」
「仕事の話したらどうするか…忠告したやんな? 軽い刑罰やろ?」
「してないですよ!! 何でそうなるんですか!」
「隊長とか上司て言うたからな。あっついの頼むわ♪」
「……そういうことしか考えられないんですか! あなたって人は……!」
「そんだけはボクは◯◯にご執心なんや。鈍い子には直接言わなわからんやろ?」
ひらりと一枚の紙が舞う。
その紙はただのおみくじ。
”あなたの近くに切っても切れない関係の異性がいます。
もしかしたら隣にいたりするかもしれません。
一度離れても否が応でも磁石のように引き合わされます。
仕事では活発的かつ積極的な態度を彼にも示してみれば進展の兆しがあるかもしれません。
ちょっとの押しが吉につながるでしょう。”
近付けられた距離。
目一杯背伸びして銀色の髪を隠すように熱が合わさる。
「おみくじのせいじゃないですからね。断じて違いますから!」
「ありがたく受け取っとこか」
”磁石のように引き合わされます。”
たかがおみくじ。
されどおみくじ。
迷信とか信じたくないけど。
これは吉どころか大吉です。
「年明け初しょっ端ぱなからそんなん殺生やわ。せっかくやし初詣でも行こか」
溜まりに溜まった書類を一気に片付けてしまうあたりは感心に値する。
いつもこうならいいのだけれど。
「……参拝する義務があるとは思えないんですけど」
「たまには羽根のばさんとあかんよ。仕事ば~っかやと疲れてまうし」
「……その言葉、お返しします。たまには狂うように仕事をなさって下さいよ。遊び疲れは数の内には……」
言い終わらぬうちに口を塞がれる。
口内を荒らされて思考回路は逆方向に光の速さで前進するのみ。
視界に映るのは銀色だけ。
漆黒と銀が重なり合う。
「っ……」
いつもいいように頭の中を掻きまわされて言いくるめられる。
手をほどくくらいはできるけれど、精神的な部分がそれを拒む。
そうして許してしまう自分が悔しい。
それほどまでに心を占める市丸の存在は大きいと認めざるを得ない。
人の心の内を知っていて、強引で。
◯◯が拒否できないことを知った上での行為は彼女を困惑させる。
身分抜きの自分の立場の弱さをどうにかしたいと思うものの優位にはなれない。
手綱を握るのは◯◯ではなく市丸。どうにかならないものだろうか。
市丸の胸を押し返して解放された唇。
市丸の笑みを見れば一目見て分かる◯◯の頬の赤さ。
一枚も二枚も上手の彼には敵わない。
「年明けには地獄を拝むことになっても知りませんからね!」
「またまたぁ……一日くらいええやないの。その日、仕事ちゃうやろ? 休みなんやし」
「仕事なわけないじゃないですか。わざわざ私と同じ日を選んで……何の得にもならないのに……」
「充分得してるやん。こうやって一緒におれるし」
自身の体を曲げて市丸は◯◯に手をのばす。
背の低い◯◯には顔を上げてやっとこさ彼の顔を拝めるくらいに身長差がある。
膝を地面にくっつけて並んでいてもらっても、さして変わりはないというのは微妙に悲しいところ。
諦めた方がよさそう。◯◯の脳裏をめぐった策。というよりもそれ以外に選択肢はない。
「まぁ……そうですけど」
「今日はやけに素直やねぇ。普段の◯◯やったら心にないことぶちまけてんのに」
「……ヘンですか? 私がそういうことを言うと」
「そうやない。ボクを喜ばすだけや」
引き寄せられては吐息を送られる。
市丸にとってはスキンシップでしかなくても、◯◯にとっては溶けるように熱い。
「どうしようかなぁ……」
箪笥の衣服を物色しながらどれにしようこれにしようと着物を畳に放り出しているうちに、足の踏み場がなくなってしまった。
前日の去り際に市丸が言っていたことをあれやこれやと思い出す。
『まず死覇装は厳禁や。着てきたらあかんよ。あれは仕事着やから』
『それはわかってますけど……どうしてですか?』
『ボクが羽織着てったら目立つやろ? それと一緒でな。それに年明けのはじめやで? 明日はめでたい日なんや。晴れ舞台にはそんな恰好で出たらあかん』
『ギンの場合は羽織着てなくったって目立ちますよ。じゃあ普段着はダメってことですね?』
『そや』
普段着は却下。どういうことなのかさっぱりわからない。
「神社に参拝するだけって言ってたけど……普段着では行くな、ってことか」
(そういえば……呉服屋さんで買ったやつがここに……)
奥の方を探ると桜を散らせた真紅色の着物が出てきた。
死神になってから小金を詰め込んでいた貯金箱の中身で買ったもの。
◯◯にとっては安月給ながらも手にしたそれは高価だったことは鮮明に記憶している。
「懐かしいな」
他の着物をせっせと箪笥に直した後、慣れない手つきで順々に着ていく。
最後に帯を締めて、鏡で後姿を確認して足早に家を出た。
「ご、ごめんなさい!! ずっと前から待っててくれてたんですか!?」
「気にせんでも大丈夫やで。今着いたばっかなんよ。……ん?」
◯◯をまじまじと長時間にわたって見つめ、彼女は視線に気付くや否や市丸を見る。
「あの……普段着で来るなって言ったから……」
市丸の顔色をうかがいながら、横目で照れくさそうに見る目。
あまりにも可愛らしくて口元が緩んだ。
自分のために朝早くから身支度してくれたことを考えると、嬉しいことこの上ない。
無意識のうちに声を上げて笑っている自分がいる。
「ギン……?」
「あぁ、堪忍な。ほんまは別に普段着でも構わんのやけど……◯◯の晴れ着はさぞかし可愛いやろなぁ、思てな」
白い肌で引き立つ真紅。
仕事場では着飾るのは面倒、と言っていた◯◯がこうも見栄えするとは予想外で、見惚れてしまった。
「晴れ着なんて着たことないから……ヘンな所ないですか?」
「そんな気にせんでもそんなとこないで。よう似合てるわ。色の強い服着ると◯◯の白い肌が映えるみたいやね」
「できるだけ外に出てるんですけど中々肌ってやけないんですね。ほら、詰所にいることが多いでしょ? 事務処理ばっかりで」
「そや、今日は仕事の話一切なしな。もししたら……」
耳元で囁かれた単語に◯◯は身を引いた。
ぶんぶんと手を振り、拒否する◯◯。
「そんなの無理ですよ! ……っていうか仕事の内容に関する話じゃないですもん! 肌の色が白い黒いの話じゃないですか!」
「◯◯は照れ屋やね。赤なったり青なったり忙しいて大変や」
「……意地悪……」
「たまには……なぁ?」
「何が、……なぁ? なんですか」
そっと冷たい手が重なると、隙間から指先が滑り込む。
◯◯の頭上で市丸の視線を感じたが、顔を上げられなかった。
頬には熱が。手には温度が灯る。
「あ~……人がいっぱいですね……あ、あれ乱菊さんだ!」
上司らしき人影を見つけては叫ぶ◯◯を引き寄せて、じっくり言い聞かせる。
今、隣にいるのは誰かということを。
「よそ見せんとこっち見とき。一緒に来てるんはボクやで」
「はしゃぐぐらい……いいでしょう? だって初めてなんですもん」
「?」
「こうやって誰かと一緒に来たこと、一度もないから……ついはしゃいじゃって。いつもならこたつの中ですから」
「……まぁええわ。許したる」
手を強く握った彼はいつになく大胆で遠慮がない。
今に始まったことではないけれど。
ほんのりと頬が染まっているように見える。
「顔、赤いですよ?」
「……寒いからや。そんなん言うて◯◯も赤いやん」
「もしかして……」
茉規が言い終わる前に紡がれた言葉に驚いた。
どこかのネジがはずれたみたいに真面目な顔をするから。
「そや。ぜ~んぶ◯◯のせいやな」
「どうして?」
「嬉しいからとちゃう? ボクが」
賽銭箱の近くで足を止め、かがみ込む。
人が少なくなるまで待とうという魂胆だが、一向に数は減らない。
「なかなか帰りはらへんねぇ……」
「元旦ですから仕方ないですよ。人いっぱいですけど行きましょっか」
カランカラン…
木製の杓子が転がってくる。
カランと音をたてて◯◯の草履にあたった。
「◯◯! 足見ぃ!」
「え……」
市丸の声が届いた頃には足を滑らせ、地に伏せる状態になっていた。
公共の場、しかも大勢が集う中。足がくねり、上手く動けない。
足袋のところどころが切れて、うっすらと血が流れている。
「はぁ……すみません……」
「ほな洗いにいこか。お転婆、ちょ~っと控えよな」
「う……」
「元気なんはええんやけど◯◯はちょっと元気すぎるからなぁ」
「ギンに言われたくな──」
急に体を持ち上げられて足が浮く。
腰や足に触れる温かい男性特有の骨ばった手。
目の前には普段と変わらぬ調子の飄々とした恋人。
神社の裏手に出ると◯◯の足を下ろし、腰を片手で支えながら蛇口をひねる。
「景気ええなぁ……豪快で」
「きっと舞い上がっちゃってるんですね、私。なれないことするから」
「足袋そこおいて裾もうちょいだけ……あぁ、そこらでえぇよ」
水が走る足に指を這わせて血を洗い流していく。
冬の気候を感じさせる冷水で悴む。
「三番隊来る前から元気なとこだけは変わらんなぁ」
「今、何て……?」
蛇口を元の状態に戻し、破れた足袋を布代わりにしてまきつける。
膝に茉規を乗せたまま市丸は続けた。
「軽いとか思ってはるやろうけど、ボクは真剣や」
「嘘」
「即答かいな……。そらひどいわぁ。ほんまやって」
「女にだらしがないから深く付き合わない方がいい、って誰かが……」
「おイタが過ぎたツケやろか。でもこんなに長い間一緒におるんは◯◯が初めてなんよ」
?マークを浮かべて茉規は立ち上がる。
見てはいけないものを見てしまったかのような目で市丸を見た。
「な、何ですか急に!」
「思ったこと言うただけや」
彼のふざけようは怒りに耐え兼ねる
ものがあるといっても、多少はましになった。
◯◯の入隊で狂わされたといっても過言ではないのだが。
あとは。もう少しだけ上司らしく振舞ってさえくれれば。
「そう……市丸隊長は聞いてた噂より全然違ってて。ふわふわ浮いてるかと思ったらそうでもないみたいで。もうちょっとこう、上司らしくして下……」
腕を引かれて、膝上に引き戻される。
真上を向いて状況を確認すれば、不自由な体は彼の手中におさめられていた。
「はい……?!」
「仕事の話したらどうするか…忠告したやんな? 軽い刑罰やろ?」
「してないですよ!! 何でそうなるんですか!」
「隊長とか上司て言うたからな。あっついの頼むわ♪」
「……そういうことしか考えられないんですか! あなたって人は……!」
「そんだけはボクは◯◯にご執心なんや。鈍い子には直接言わなわからんやろ?」
ひらりと一枚の紙が舞う。
その紙はただのおみくじ。
”あなたの近くに切っても切れない関係の異性がいます。
もしかしたら隣にいたりするかもしれません。
一度離れても否が応でも磁石のように引き合わされます。
仕事では活発的かつ積極的な態度を彼にも示してみれば進展の兆しがあるかもしれません。
ちょっとの押しが吉につながるでしょう。”
近付けられた距離。
目一杯背伸びして銀色の髪を隠すように熱が合わさる。
「おみくじのせいじゃないですからね。断じて違いますから!」
「ありがたく受け取っとこか」
”磁石のように引き合わされます。”
たかがおみくじ。
されどおみくじ。
迷信とか信じたくないけど。
これは吉どころか大吉です。