「ランダさんは隠れ家、どこにあったら便利だと思いますか？　やっぱりお父様のことも気になるでしょうし、目と鼻の距離くらいのところがいいでしょうか？」
　姫にそう言われたけど、オレは首を振った。
　姫と過ごす為の家ならオレの事を知る人のいない場所がいい。逆にオレが近くにいることで親父を頼ってしまいそうだから。
　首長の許可を得て、ヒンターランドの小さな集落しか存在しない場所に隠れ家を建てさせてもらった。
　集落に住む人達はみんな優しくて肉やら魚やらを毎日のように分けてくれる。そのせいか食材で困ることはなかった。
　ヒンターランドで食事をしていた時は狩りをして、その命に感謝をし、自ら調理をしていたけど、姫の前ではそんなことできるはずがない。衝撃が強すぎてきっと気絶してしまう。
　料理は姫が作ってくれることが多い。けど姫ばかりに任せるのが申し訳なくて交替制にしている。まるで見張り番みたいだ。
　今日はオレの番だから姫に栄養をつけてほしくて肉料理を用意した。
　姫はそれをステーキと呼んでいたけど、肉料理でも他にも色々あるらしい。国によっても随分違うんだな。
　オレがステーキを皿に乗せて運んでくると、姫は目を丸くしていた。
「ランダさん、朝からステーキなんてワイルドですね」
「ワイルド……それ、なに？」
「えっと、男らしいって意味ですよ。でも美味しそう！　食べましょうか」
　姫に褒められると嬉しくてオレの心はぽかぽかしてくる。
　姫にステーキはこうして食べるのだとナイフとフォークというモノで切り分けることを教えて貰った通りに食べる。
　味付けは塩と臭みを抜くために生姜を少しだけ入れた。これも姫が教えてくれたことだ。
　オレは肉料理は焼くか蒸すくらいしか知らなかったけど、姫はオレが知らないことを何でも知ってる。
「うん、臭みがなくてすごく美味しい！　ランダさん、飲み込み早いからすぐ料理上手になっちゃいそう」
「本当か！？　オレ、料理は焼くか蒸すしか知らなかった。でも姫のおかげ。姫、たくさんの知識、持ってる。これからも教えてほしい」
「はい、喜んで」
　そう言って微笑む姫は太陽みたいに明るくて、花なら──ヒマワリみたいだ。
　姫に何を振る舞おうか、そう考えただけで胸の真ん中が暖かくなってくるんだから、そうに違いない。