短編
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生き絵師としての依頼が立て続けに入り、夜食の差し入れを理由にグランの部屋を何日か訪れたけれど、また遅くまで作業をしているようだった。
本人は大丈夫だ、と笑っていたけど、あまり寝ていないのか目の下にうっすらと隈ができていた。
仕事を終えたらグランには一日ゆっくりしてもらおうと思い、静養を言い訳にこよみの国・九曜に行こうと誘ったのだった。
静養などと言いながらわざわざムーンロードを渡り、九曜に来たのは訳があった。
虹の月には夏祭りが開催され、大規模の花火が打ち上げられる。
この夏祭りのメインは花火職人の技術を披露することでもあるのだけど、この国では花火が夏の風物詩でもあるから国民がこの日を楽しみにしていると耳にしたことがある。
静かな場所で花火を見ながらグランとゆっくりしたい──それが九曜に来た理由だった。
予約していた旅籠の部屋の縁側から夜空を見上げると、宵闇に大輪の花が生まれては消えてゆく。
空を見上げるグランの横顔は少し悲しげで、何かを想っているかのようにすら見えた。
グランには忘れられない過去がある。戦場の中で他者を傷付け、自身も傷付けられ、命の奪い合いをすることは日常だったのだろう。
もしかしたらその時に奪った命、散っていった命を思い出しているのか、と思ったら私は胸が張り裂けそうに痛んだ。
「まるで夜空に本当の花が咲いているようだ。エマの浴衣姿も見られたし、役得とはこのことだな」
「グラン、私は花火のついで?」
「いや、そうじゃなくてだな。仕事が忙しくてお前のそんな姿を最近見ていなかったような気がして……俺を気遣ってくれたんだよな。エマ、ありがとう」
いつもよりも肌の露出が控えめな、濃紺の浴衣を身に纏ったグランはいつもとは少し違う色香を放っていて、私はグランの顔を直視できなくて視線を外した。
本当はお礼なんて言われる立場じゃない。グランの静養と私の我儘を理由に、あなたをここに連れてきたんだから。
でもグランはきっとそれに気付いている。言わないのはあなたが優しいから。
いつもは月渡りのお母さんだけど、私の前では恋人でいてほしい。私ってなんて我儘な子なんだろう。
「私がグランといたかっただけだから……今日はゆっくり休んでね。最近のグラン、忙しくてあまり休んでなかったでしょう?」
「俺の生き絵を必要としてくれる人が増えているのは嬉しいんだ。だから別に休みがないのは苦じゃない。でも俺はお前が傍にいてくれるだけで、癒されてるんだ。俺がどれだけお前に救われてるか、お前はわかってないんだろうな」
グランはふと私の腰を抱き、強く引き寄せるとやや強引に唇を重ねた。
私達の頭上でまた花火がひとつ咲き、散ってゆく。
グランの口付けは私の脳裏にも花火を咲かせ、私からゆっくり思考を奪っていくのだった。
本人は大丈夫だ、と笑っていたけど、あまり寝ていないのか目の下にうっすらと隈ができていた。
仕事を終えたらグランには一日ゆっくりしてもらおうと思い、静養を言い訳にこよみの国・九曜に行こうと誘ったのだった。
静養などと言いながらわざわざムーンロードを渡り、九曜に来たのは訳があった。
虹の月には夏祭りが開催され、大規模の花火が打ち上げられる。
この夏祭りのメインは花火職人の技術を披露することでもあるのだけど、この国では花火が夏の風物詩でもあるから国民がこの日を楽しみにしていると耳にしたことがある。
静かな場所で花火を見ながらグランとゆっくりしたい──それが九曜に来た理由だった。
予約していた旅籠の部屋の縁側から夜空を見上げると、宵闇に大輪の花が生まれては消えてゆく。
空を見上げるグランの横顔は少し悲しげで、何かを想っているかのようにすら見えた。
グランには忘れられない過去がある。戦場の中で他者を傷付け、自身も傷付けられ、命の奪い合いをすることは日常だったのだろう。
もしかしたらその時に奪った命、散っていった命を思い出しているのか、と思ったら私は胸が張り裂けそうに痛んだ。
「まるで夜空に本当の花が咲いているようだ。エマの浴衣姿も見られたし、役得とはこのことだな」
「グラン、私は花火のついで?」
「いや、そうじゃなくてだな。仕事が忙しくてお前のそんな姿を最近見ていなかったような気がして……俺を気遣ってくれたんだよな。エマ、ありがとう」
いつもよりも肌の露出が控えめな、濃紺の浴衣を身に纏ったグランはいつもとは少し違う色香を放っていて、私はグランの顔を直視できなくて視線を外した。
本当はお礼なんて言われる立場じゃない。グランの静養と私の我儘を理由に、あなたをここに連れてきたんだから。
でもグランはきっとそれに気付いている。言わないのはあなたが優しいから。
いつもは月渡りのお母さんだけど、私の前では恋人でいてほしい。私ってなんて我儘な子なんだろう。
「私がグランといたかっただけだから……今日はゆっくり休んでね。最近のグラン、忙しくてあまり休んでなかったでしょう?」
「俺の生き絵を必要としてくれる人が増えているのは嬉しいんだ。だから別に休みがないのは苦じゃない。でも俺はお前が傍にいてくれるだけで、癒されてるんだ。俺がどれだけお前に救われてるか、お前はわかってないんだろうな」
グランはふと私の腰を抱き、強く引き寄せるとやや強引に唇を重ねた。
私達の頭上でまた花火がひとつ咲き、散ってゆく。
グランの口付けは私の脳裏にも花火を咲かせ、私からゆっくり思考を奪っていくのだった。
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