短編
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幕の国では恋人の誕生日を祝う習慣がないから鴨さんは祝われてもしっくりこないんだろうけど、私にとっては大切な日だ。
でも肝心の贈り物がまだ決まっていない。
好物がお酒の類であることは知ってはいるけど、お酒に弱い私より鴨さんの方が舌が肥えているから下手に選べない。
幕の国で会う時は浅葱色の隊服であることが多いけど、他国で会う時は洒落た洋装に身を包んでいる。
恋人の好みがわからないなんて正直恥ずかしいけれど、本人に面と向かって聞けるわけがない。
私が鴨さんの誕生日を祝うようになってからというもの、隊士の人達はこれ好機とばかりに鴨さんを祝うのを口実に今年もどんちゃん騒ぎを始めるに違いない。
始まったら最後、意識が飛ぶまで飲めや歌えやの大騒ぎになるだろうことは容易に想像できる。
となれば当日は宴を抜け出すか終えない限りは贈り物を渡せない。
(そうと決まったら早めに用意しないと。賄い方も手伝わないといけないし)
町に出るとだけ鴨さんに告げると、私は一人の隊士を伴い町に出た。
呉服問屋がずらりと並べている、きらびやかな反物に目が止まる。
その反物を見ながら、技術が伴わないから今は無理だけどいつか浴衣でも贈れたらいいな、などと思いながら反物を手に取った。
その反物は絹だったためか、かなり高額で私は少し戸惑ったけれどその反物で浴衣を仕立ててもらうことにした。
通常の納期だと間に合わないので料金を割増にして無理を言って翌日に受け取れるようにさせてもらう。
常日頃忙しくしている恋人を持つのは大変なことだけど、こんな時ばかりは感謝している。
そうでなければ贈り物がばれてしまうからだ。
私の予想通り宴は夜中に近い時間まで行われ、畳の上では隊士の人達が仲良く雑魚寝している。
でも最後まで付き合うほど私はお酒が強くないし、悪酔いする前に鴨さんと早々に退散した。
鴨さんが私の酔いを冷まさせる為に風に当たりに行くか、なんて言い出したけれど全て口実なのはわかっている。
私と鴨さんが恋仲であることは隊士の人達も知っているから口にはしないけど、こんな所で贈り物を手渡したりなんかしたら冷やかされるのは目に見えていた。
何かにつけて恥ずかしがる私の気持ちを汲んでくれているというのは、言葉がなくたってわかる。
夜が明ける前に二人で過ごしたいという私の気持ちを察してくれているのだろうということも。
普段はガキだなんだ、とからかって子供のように楽しんでいる鴨さんだけど、こんな所は年の差を痛感してしまう。
「随分値の張る贈り物じゃねぇか……気にすんなって言っただろ? 生まれた日を祝うなんて習慣はこっちじゃねぇんだからな」
「実は仕立ててもらったんです。本当は自分で用意したかったんですけど……」
宴に行く前に鴨さんの部屋に置いてきた風呂敷に包まれた浴衣を、鴨さんの部屋につくなりそっと差し出す。
新選組に身を置く鴨さんにしてみれば、年を重ねることを祝うなんて大したことはないだろうけど、私にはとても大切なことだ。
しょっちゅう傍にいられるわけではないから、贈り物をする口実がほしいだけ。
お金も地位もある人だから、望む物はもう手にしているだろうけれど。
「ありがとよ。だがお前はあれやこれやと俺に贈るが、お前が元気な顔を見せてくれることが一番の贈り物だ。隊士の奴らも喜ぶしな」
「だってこれくらいしか思いつかなくて……」
「そういや知ってるか? 女に着物を贈る時は脱がせたいって意味があるが、今回は逆だからな。てことはお前は俺を脱がせたいってことか。随分と大胆になったもんだ」
鴨さんを脱がせたいだなんてとんでもない。
褥の中での私の反応を見ればそんなことできるわけがないって知っている筈なのに、勿論私がそんなことを意図したわけじゃない。
そう言い切りたいけれど、恋人の部屋に夜中にのこのこ付いてきて言う台詞でもないことはわかっている。
私も少しは期待していたのかもしれない。鴨さんとの甘い時間を。
「そんなこと思ってません……わかってる癖に」
「ばれちまったか。だが今日くらいはいいだろ? お前が酔わせてくれても罰は当たらねぇと思ってるんだが……のんびりしてると今日がもう終わっちまうぞ」
「で、でも──」
私の返事を聞く前に鴨さんは私のスカートに指を潜り込ませる。
それを既(すんで)の所で鴨さんの手を押さえ込んだ。
ここは新選組の屯所で男ばかりの大所帯。皆がお酒に酔って夢の中とはいえ、壁となるのは障子だけだから心許ない。
鴨さんの部屋に一緒にいたらそういうことになるのは分かっているから宿ではない場所で愛し合うのは少し躊躇ってしまう。
「隊士の人達がいるのに、気づかれたら……それに皆が寝てる間に何かあったらどうするんですか?」
「お前が思ってるほど隊士は柔じゃねぇんだぞ。まあ隊士の肴にされちまうのは俺も望んでねぇが、聞かれたくなくねぇなら声を出さねぇようにしてやるだけだ。他人の心配する前に先ずは自分の心配しといたらどうだ? 今から食われちまうっていうのによ」
耳元で鴨さんが吐息混じりに囁き、距離を詰めて腰を抱かれ、唇が押し当てられる。
(ああ、そういえば鴨さんにおめでとう、って言えてない。もうまともに何も考えられない──)
触れた唇は同じお酒の香りが漂い、こじ開けられて重なる舌もいつも以上に熱を持っているような気がした。
私は何もかもをアルコールのせいにして、その広い背中にしがみつくのだった。
でも肝心の贈り物がまだ決まっていない。
好物がお酒の類であることは知ってはいるけど、お酒に弱い私より鴨さんの方が舌が肥えているから下手に選べない。
幕の国で会う時は浅葱色の隊服であることが多いけど、他国で会う時は洒落た洋装に身を包んでいる。
恋人の好みがわからないなんて正直恥ずかしいけれど、本人に面と向かって聞けるわけがない。
私が鴨さんの誕生日を祝うようになってからというもの、隊士の人達はこれ好機とばかりに鴨さんを祝うのを口実に今年もどんちゃん騒ぎを始めるに違いない。
始まったら最後、意識が飛ぶまで飲めや歌えやの大騒ぎになるだろうことは容易に想像できる。
となれば当日は宴を抜け出すか終えない限りは贈り物を渡せない。
(そうと決まったら早めに用意しないと。賄い方も手伝わないといけないし)
町に出るとだけ鴨さんに告げると、私は一人の隊士を伴い町に出た。
呉服問屋がずらりと並べている、きらびやかな反物に目が止まる。
その反物を見ながら、技術が伴わないから今は無理だけどいつか浴衣でも贈れたらいいな、などと思いながら反物を手に取った。
その反物は絹だったためか、かなり高額で私は少し戸惑ったけれどその反物で浴衣を仕立ててもらうことにした。
通常の納期だと間に合わないので料金を割増にして無理を言って翌日に受け取れるようにさせてもらう。
常日頃忙しくしている恋人を持つのは大変なことだけど、こんな時ばかりは感謝している。
そうでなければ贈り物がばれてしまうからだ。
私の予想通り宴は夜中に近い時間まで行われ、畳の上では隊士の人達が仲良く雑魚寝している。
でも最後まで付き合うほど私はお酒が強くないし、悪酔いする前に鴨さんと早々に退散した。
鴨さんが私の酔いを冷まさせる為に風に当たりに行くか、なんて言い出したけれど全て口実なのはわかっている。
私と鴨さんが恋仲であることは隊士の人達も知っているから口にはしないけど、こんな所で贈り物を手渡したりなんかしたら冷やかされるのは目に見えていた。
何かにつけて恥ずかしがる私の気持ちを汲んでくれているというのは、言葉がなくたってわかる。
夜が明ける前に二人で過ごしたいという私の気持ちを察してくれているのだろうということも。
普段はガキだなんだ、とからかって子供のように楽しんでいる鴨さんだけど、こんな所は年の差を痛感してしまう。
「随分値の張る贈り物じゃねぇか……気にすんなって言っただろ? 生まれた日を祝うなんて習慣はこっちじゃねぇんだからな」
「実は仕立ててもらったんです。本当は自分で用意したかったんですけど……」
宴に行く前に鴨さんの部屋に置いてきた風呂敷に包まれた浴衣を、鴨さんの部屋につくなりそっと差し出す。
新選組に身を置く鴨さんにしてみれば、年を重ねることを祝うなんて大したことはないだろうけど、私にはとても大切なことだ。
しょっちゅう傍にいられるわけではないから、贈り物をする口実がほしいだけ。
お金も地位もある人だから、望む物はもう手にしているだろうけれど。
「ありがとよ。だがお前はあれやこれやと俺に贈るが、お前が元気な顔を見せてくれることが一番の贈り物だ。隊士の奴らも喜ぶしな」
「だってこれくらいしか思いつかなくて……」
「そういや知ってるか? 女に着物を贈る時は脱がせたいって意味があるが、今回は逆だからな。てことはお前は俺を脱がせたいってことか。随分と大胆になったもんだ」
鴨さんを脱がせたいだなんてとんでもない。
褥の中での私の反応を見ればそんなことできるわけがないって知っている筈なのに、勿論私がそんなことを意図したわけじゃない。
そう言い切りたいけれど、恋人の部屋に夜中にのこのこ付いてきて言う台詞でもないことはわかっている。
私も少しは期待していたのかもしれない。鴨さんとの甘い時間を。
「そんなこと思ってません……わかってる癖に」
「ばれちまったか。だが今日くらいはいいだろ? お前が酔わせてくれても罰は当たらねぇと思ってるんだが……のんびりしてると今日がもう終わっちまうぞ」
「で、でも──」
私の返事を聞く前に鴨さんは私のスカートに指を潜り込ませる。
それを既(すんで)の所で鴨さんの手を押さえ込んだ。
ここは新選組の屯所で男ばかりの大所帯。皆がお酒に酔って夢の中とはいえ、壁となるのは障子だけだから心許ない。
鴨さんの部屋に一緒にいたらそういうことになるのは分かっているから宿ではない場所で愛し合うのは少し躊躇ってしまう。
「隊士の人達がいるのに、気づかれたら……それに皆が寝てる間に何かあったらどうするんですか?」
「お前が思ってるほど隊士は柔じゃねぇんだぞ。まあ隊士の肴にされちまうのは俺も望んでねぇが、聞かれたくなくねぇなら声を出さねぇようにしてやるだけだ。他人の心配する前に先ずは自分の心配しといたらどうだ? 今から食われちまうっていうのによ」
耳元で鴨さんが吐息混じりに囁き、距離を詰めて腰を抱かれ、唇が押し当てられる。
(ああ、そういえば鴨さんにおめでとう、って言えてない。もうまともに何も考えられない──)
触れた唇は同じお酒の香りが漂い、こじ開けられて重なる舌もいつも以上に熱を持っているような気がした。
私は何もかもをアルコールのせいにして、その広い背中にしがみつくのだった。