短編
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「ねーこさん」
珍しく定時で帰宅し、私服に着替えてリビングで寛いでいると、娘が俺の髪を撫でる。
何も言わずにいると顎髭にまで手を伸ばしてきやがるから、流石に止めに入る。
「お父さん、ねこさん」
「俺は猫じゃねぇぞ」
「お母さん、言ってたの。お父さんはねこさんだ、って。だからなでなでしたげるの」
なるほど、巫女の仕業か。
いや、そもそも巫女が俺のことを猫だと言ったとしても、こいつが子供だって言っても人間と猫の区別ぐらいはつくだろう。
恐らく巫女は俺が猫毛だってことを伝えたかったんだろうが、娘には伝わらなかったらしい。
「多分母さんは猫毛だってことを言いたかっただけだろ」
「ねこげってなあに?」
「母さんやお前と違って、真っ直ぐじゃねぇだろ? ほら、あっちこっち向いてるだろ」
「うん、かわいいねぇ」
娘は俺の髪を指に巻き付けて、にっこりと笑う。
娘につられて俺の表情は僅かに緩んだ。
会社の奴らには今の俺の顔は見せられたもんじゃねぇなあ。
巫女はまだ若いが、俺は認めたくはねぇが到底若いとは言えねぇ年だ。
遅くに授かったからか、娘は目に入れても痛くねぇほどに可愛いってもんだ。なかなか口にはできねぇがな。
社長という立場のせいで、こうして食事をすることもなかなかない。
出張で家を空けることもあるし、残業で帰宅したらこいつは眠ってる時間だったりで、普段はすれ違うことが多くて淋しい思いをさせてるのはわかってる。
我侭言いたい年頃だろうに、俺を困らせることはしないのは巫女の躾のおかげでってのもあるが、ガキなりに色々考えてんだろうな。
だから俺は家にいる時はできるだけ娘の願いを叶えてやるようにしている。
本を読んだり絵を描くなんて、些細な我侭だ。大したことじゃねぇよ。
「お父さん、今日はいっしょにごはん食べてくれるの?」
「なんだ、母さんと二人がよかったか?」
「ううん、三人がいいの! じゃあごはんできるまで絵本よんで?」
俺は娘を抱き上げ、膝に座らせると娘が手にしていた絵本を開いて読み聞かせる。
平仮名で書かれた絵本を読んでいると、キッチンから巫女が姿を現す。
「すみません、疲れてるのにこの子の面倒見てもらって」
「大したことじゃねぇから気にすんな。たまには父親らしいことしねぇとな」
次々と湯気が立ち上る料理が入った皿が置かれていく。
付き合っていた時から巫女に胃袋を掴まれてたが、やっぱり食事は家でするに限る。
一人で食っても、味気ないったらありゃしねぇ。それが三ツ星のレストランでもな。
「ごはんっ、ごはんっ」
「じゃあ一旦絵本は終いにするか。飯食う前に手、洗いにいくぞ」
「はーい」
俺は娘の手を取り、洗面所へと急ぐ。
俺が甘い顔をする女はこの世に二人だけだ。明日への原動力を与えるのも、パーソナルスペースに入ることを許すのも。
娘の花が咲いたような笑顔は日に日に巫女に似てきた。
頑固な所だけは似てくれるなよ、と思いながら、俺は紅葉のように小さな手を見つめるのだった。
珍しく定時で帰宅し、私服に着替えてリビングで寛いでいると、娘が俺の髪を撫でる。
何も言わずにいると顎髭にまで手を伸ばしてきやがるから、流石に止めに入る。
「お父さん、ねこさん」
「俺は猫じゃねぇぞ」
「お母さん、言ってたの。お父さんはねこさんだ、って。だからなでなでしたげるの」
なるほど、巫女の仕業か。
いや、そもそも巫女が俺のことを猫だと言ったとしても、こいつが子供だって言っても人間と猫の区別ぐらいはつくだろう。
恐らく巫女は俺が猫毛だってことを伝えたかったんだろうが、娘には伝わらなかったらしい。
「多分母さんは猫毛だってことを言いたかっただけだろ」
「ねこげってなあに?」
「母さんやお前と違って、真っ直ぐじゃねぇだろ? ほら、あっちこっち向いてるだろ」
「うん、かわいいねぇ」
娘は俺の髪を指に巻き付けて、にっこりと笑う。
娘につられて俺の表情は僅かに緩んだ。
会社の奴らには今の俺の顔は見せられたもんじゃねぇなあ。
巫女はまだ若いが、俺は認めたくはねぇが到底若いとは言えねぇ年だ。
遅くに授かったからか、娘は目に入れても痛くねぇほどに可愛いってもんだ。なかなか口にはできねぇがな。
社長という立場のせいで、こうして食事をすることもなかなかない。
出張で家を空けることもあるし、残業で帰宅したらこいつは眠ってる時間だったりで、普段はすれ違うことが多くて淋しい思いをさせてるのはわかってる。
我侭言いたい年頃だろうに、俺を困らせることはしないのは巫女の躾のおかげでってのもあるが、ガキなりに色々考えてんだろうな。
だから俺は家にいる時はできるだけ娘の願いを叶えてやるようにしている。
本を読んだり絵を描くなんて、些細な我侭だ。大したことじゃねぇよ。
「お父さん、今日はいっしょにごはん食べてくれるの?」
「なんだ、母さんと二人がよかったか?」
「ううん、三人がいいの! じゃあごはんできるまで絵本よんで?」
俺は娘を抱き上げ、膝に座らせると娘が手にしていた絵本を開いて読み聞かせる。
平仮名で書かれた絵本を読んでいると、キッチンから巫女が姿を現す。
「すみません、疲れてるのにこの子の面倒見てもらって」
「大したことじゃねぇから気にすんな。たまには父親らしいことしねぇとな」
次々と湯気が立ち上る料理が入った皿が置かれていく。
付き合っていた時から巫女に胃袋を掴まれてたが、やっぱり食事は家でするに限る。
一人で食っても、味気ないったらありゃしねぇ。それが三ツ星のレストランでもな。
「ごはんっ、ごはんっ」
「じゃあ一旦絵本は終いにするか。飯食う前に手、洗いにいくぞ」
「はーい」
俺は娘の手を取り、洗面所へと急ぐ。
俺が甘い顔をする女はこの世に二人だけだ。明日への原動力を与えるのも、パーソナルスペースに入ることを許すのも。
娘の花が咲いたような笑顔は日に日に巫女に似てきた。
頑固な所だけは似てくれるなよ、と思いながら、俺は紅葉のように小さな手を見つめるのだった。