短編
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私と鴨さんの祝言が決まり、前祝いとして私達は孤惑楼に招待されていた。
新選組が孤惑楼を贔屓にしているから宴の場を提供し、接待を行うことはあっても個人的に招待されたことは今までなく、どうやら今回のことは異例らしい。
「巫女様、久しぶりやなあ。でも独身最後の巫女様と会うのは今日で最後になるんやな。淋しいけど目出度い席になるんやから、しんみりするんはやめといて今日は目一杯楽しんで帰ってもらわんとな」
「上等の酒を期待してるぜ? 今日は酔っ払って帰るとするか」
「明日に残るといけませんから、程々にして下さいね?」
鴨さんとは付き合いの長い、孤惑楼の女主人である遊さんに案内され、私達は宴の席へと到着した。
華やかに着飾った遊女の舞い。色彩豊かな数々の料理に美酒。
私達は遊さんからのお祝いに心から感謝をし、舞いを見ながら食事を楽しむ。
ふと思う。これは私にとって都合のいい夢で、現実ではないのではないか、と。
幕の国では結婚は恋愛の延長線上にあるものではなくて、家と家の繋がりを強めるものらしい。
自由恋愛が当たり前という時代に生まれた私には理解できないことだけれど、鴨さんなら尚更縁談の話があったのではないだろうか。
だから私は常に恋人以上の関係を求めたりしなかった。一人の女性として幸せになりたいという思いはあるものの、彼の志を阻むものにはなりたくなかったから。
鴨さんが私の手を包むように、自らの手を重ねた。その温かさが私を現実へと引き戻してくれる。
「巫女、余計なこと考えてんじゃねぇだろうな?」
「わかっちゃいましたか? 私でよかったのかなあ、って。私に鴨さんの奥さんが務まるのか少し不安なんです」
命を狙われるということが既に日常と化していて、それは彼の体に刻まれている傷跡がそれを証明している。
私自身も危機に晒されることがあり、鴨さんが幾度も守ってくれたけど、夫婦になれば私の命が狙われることも増えるだろう。
鴨さんに近しいと判断されれば、私の存在は彼にとって爆弾のようなものだ。私を人質に取り、鴨さんの身柄を要求してくることだって考えられる。
彼が新選組に身を置き、筆頭局長である限り、攻撃対象から外されることはない。
だけど鴨さんには揺るがない志があり、私がそこに入り込む隙間がないことは分かっている。
だとすれば私に出来るのは彼を傍で支えることくらいしかできない。そう、どんな未来が待っていても──。
「まあ最初は生意気だとは思ったが、肝が据わってるし、誰にも物怖じしねぇ女ってのはなかなかいねぇからな。その上いい女とくりゃ離せるわけがねぇ」
「ガキって言ってた癖に……」
「惚れちまったもんは仕方ねぇだろ。俺はお前よりは長く生きてるし、自分の好きなように生きてきたつもりだ。楽に死ねるとは思ってねぇが、死ぬまではお前が傍にいてくれりゃそれでいいと思ってる。だからお前は余計な事は一切考えるんじゃねぇぞ。いいな?」
私は感極まって目頭を押さえながら、ただただ頷くことしかできなかった。
筆頭局長の妻になる覚悟を胸に、鴨さんに撓垂れ掛かる。
私の髪を手櫛で梳く長い指先から伝わる体温の温かさを感じながら、私は一時の夢に甘えるのだった。
新選組が孤惑楼を贔屓にしているから宴の場を提供し、接待を行うことはあっても個人的に招待されたことは今までなく、どうやら今回のことは異例らしい。
「巫女様、久しぶりやなあ。でも独身最後の巫女様と会うのは今日で最後になるんやな。淋しいけど目出度い席になるんやから、しんみりするんはやめといて今日は目一杯楽しんで帰ってもらわんとな」
「上等の酒を期待してるぜ? 今日は酔っ払って帰るとするか」
「明日に残るといけませんから、程々にして下さいね?」
鴨さんとは付き合いの長い、孤惑楼の女主人である遊さんに案内され、私達は宴の席へと到着した。
華やかに着飾った遊女の舞い。色彩豊かな数々の料理に美酒。
私達は遊さんからのお祝いに心から感謝をし、舞いを見ながら食事を楽しむ。
ふと思う。これは私にとって都合のいい夢で、現実ではないのではないか、と。
幕の国では結婚は恋愛の延長線上にあるものではなくて、家と家の繋がりを強めるものらしい。
自由恋愛が当たり前という時代に生まれた私には理解できないことだけれど、鴨さんなら尚更縁談の話があったのではないだろうか。
だから私は常に恋人以上の関係を求めたりしなかった。一人の女性として幸せになりたいという思いはあるものの、彼の志を阻むものにはなりたくなかったから。
鴨さんが私の手を包むように、自らの手を重ねた。その温かさが私を現実へと引き戻してくれる。
「巫女、余計なこと考えてんじゃねぇだろうな?」
「わかっちゃいましたか? 私でよかったのかなあ、って。私に鴨さんの奥さんが務まるのか少し不安なんです」
命を狙われるということが既に日常と化していて、それは彼の体に刻まれている傷跡がそれを証明している。
私自身も危機に晒されることがあり、鴨さんが幾度も守ってくれたけど、夫婦になれば私の命が狙われることも増えるだろう。
鴨さんに近しいと判断されれば、私の存在は彼にとって爆弾のようなものだ。私を人質に取り、鴨さんの身柄を要求してくることだって考えられる。
彼が新選組に身を置き、筆頭局長である限り、攻撃対象から外されることはない。
だけど鴨さんには揺るがない志があり、私がそこに入り込む隙間がないことは分かっている。
だとすれば私に出来るのは彼を傍で支えることくらいしかできない。そう、どんな未来が待っていても──。
「まあ最初は生意気だとは思ったが、肝が据わってるし、誰にも物怖じしねぇ女ってのはなかなかいねぇからな。その上いい女とくりゃ離せるわけがねぇ」
「ガキって言ってた癖に……」
「惚れちまったもんは仕方ねぇだろ。俺はお前よりは長く生きてるし、自分の好きなように生きてきたつもりだ。楽に死ねるとは思ってねぇが、死ぬまではお前が傍にいてくれりゃそれでいいと思ってる。だからお前は余計な事は一切考えるんじゃねぇぞ。いいな?」
私は感極まって目頭を押さえながら、ただただ頷くことしかできなかった。
筆頭局長の妻になる覚悟を胸に、鴨さんに撓垂れ掛かる。
私の髪を手櫛で梳く長い指先から伝わる体温の温かさを感じながら、私は一時の夢に甘えるのだった。