短編
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七夕祭りが現の国で行われることを知り、私は孫市さんを誘って現の国へとやってきた。
恐らく人の波で混雑するだろうということを想定し、旅館は前もって手配済みだ。
旅館の広々とした部屋で、向かい合って素麺を食しながら談笑するこのひととき。孫市さんのはにかむ表情を見ていると、夢でも幻でもない恋人がすぐ傍にいるのが現実なのだと実感する。
「織姫と彦星、ねえ……戦の国じゃ星を見るとか詩を詠むくらいだが、国によって色々違うこともあるってことか」
「お祭りにかこつけてるような気がしなくもないですが、ロマンチックなお話だと思います。とはいえ、怠けるのはよくないですが……」
織姫と彦星は仕事を疎かにしてしまったため、天帝の怒りを買い、一年に一回しか会えなくなってしまったのだ。
けれど私には他人事のように思えない。私達も年に一度、多くても数回くらいしか会えないからだ。
私は日ノ許を旅している身で、孫市さんは雑賀衆の頭領だ。お互いに私情を優先することなどできない。
「俺といるってのに上の空か? 悲しいねえ」
「すみません。私達も織姫と彦星みたいだな、って」
「そうだな。巫女にはそのことで淋しい思いをさせてるのはわかってるからこそ、こうして逢瀬で会えた時はお互いに記憶に残るものでありたいと思ってんだ」
「記憶に残る……?」
「誕生日にわざわざ宿を用意してくれた、なんて忘れられるわけがねえ。それはそうとここにいる間の時間も贈り物と捉えて構わねえのか?」
「え? はい、そのつもりで過ごすつもりだったんですが」
いつもは飄々としていていまいち感情が読めないけれど、薄く開かれた色鮮やかな色彩が私の心を捕らえる。まるで獣が獲物をとって食おうとしているような、そんな目だ。
「そう身構えるなよ。俺は男でお前は女だ。そういう欲がないわけじゃねえ。久方振りの逢瀬なら尚更な。だが今は巫女との語らいを楽しみたい。今日はとことん付き合ってもらうぜ?」
その言葉はどういう意味なのだろう。わけもわからず私は言われるままに、孫市さんのお猪口にお酒を注いだ。
孫市さんはお酒に強いから、朝方までとことん飲むつもりなのか。そして私の意識が失うまで付き合わせるのか。
それとも夜を匂わせる意味合いなのか――考えただけで私の脈拍数は上がっていく。
「孫市さん、お誕生日おめでとうございます。孫市さんにとって意味はないかもしれませんが、お祝いすることができてとても嬉しいです」
「ありがとな。この年になって祝われることはこっ恥ずかしいが、嬉しく思うぜ。俺は彦星みてえに怠けちまったりしねえから安心しな。但し邪魔されたら無理矢理天の川を渡って会いに来るつもりだがな」
「孫市さんってば……」
孫市さんは冗談のように言うけれど、彼なら天帝をも恐れず銃を向けかねない、と私は思いながら、はにかむのだった。
恐らく人の波で混雑するだろうということを想定し、旅館は前もって手配済みだ。
旅館の広々とした部屋で、向かい合って素麺を食しながら談笑するこのひととき。孫市さんのはにかむ表情を見ていると、夢でも幻でもない恋人がすぐ傍にいるのが現実なのだと実感する。
「織姫と彦星、ねえ……戦の国じゃ星を見るとか詩を詠むくらいだが、国によって色々違うこともあるってことか」
「お祭りにかこつけてるような気がしなくもないですが、ロマンチックなお話だと思います。とはいえ、怠けるのはよくないですが……」
織姫と彦星は仕事を疎かにしてしまったため、天帝の怒りを買い、一年に一回しか会えなくなってしまったのだ。
けれど私には他人事のように思えない。私達も年に一度、多くても数回くらいしか会えないからだ。
私は日ノ許を旅している身で、孫市さんは雑賀衆の頭領だ。お互いに私情を優先することなどできない。
「俺といるってのに上の空か? 悲しいねえ」
「すみません。私達も織姫と彦星みたいだな、って」
「そうだな。巫女にはそのことで淋しい思いをさせてるのはわかってるからこそ、こうして逢瀬で会えた時はお互いに記憶に残るものでありたいと思ってんだ」
「記憶に残る……?」
「誕生日にわざわざ宿を用意してくれた、なんて忘れられるわけがねえ。それはそうとここにいる間の時間も贈り物と捉えて構わねえのか?」
「え? はい、そのつもりで過ごすつもりだったんですが」
いつもは飄々としていていまいち感情が読めないけれど、薄く開かれた色鮮やかな色彩が私の心を捕らえる。まるで獣が獲物をとって食おうとしているような、そんな目だ。
「そう身構えるなよ。俺は男でお前は女だ。そういう欲がないわけじゃねえ。久方振りの逢瀬なら尚更な。だが今は巫女との語らいを楽しみたい。今日はとことん付き合ってもらうぜ?」
その言葉はどういう意味なのだろう。わけもわからず私は言われるままに、孫市さんのお猪口にお酒を注いだ。
孫市さんはお酒に強いから、朝方までとことん飲むつもりなのか。そして私の意識が失うまで付き合わせるのか。
それとも夜を匂わせる意味合いなのか――考えただけで私の脈拍数は上がっていく。
「孫市さん、お誕生日おめでとうございます。孫市さんにとって意味はないかもしれませんが、お祝いすることができてとても嬉しいです」
「ありがとな。この年になって祝われることはこっ恥ずかしいが、嬉しく思うぜ。俺は彦星みてえに怠けちまったりしねえから安心しな。但し邪魔されたら無理矢理天の川を渡って会いに来るつもりだがな」
「孫市さんってば……」
孫市さんは冗談のように言うけれど、彼なら天帝をも恐れず銃を向けかねない、と私は思いながら、はにかむのだった。
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